生活者発想とは

消費者<生活者

博報堂生活総合研究所は、「生活者発想」を実践・推進する研究所です。
生活者発想とは、ひとことで言えば[消費者<生活者]という考え方です。
 
「消費者」という概念は、商品の購買という経済の枠組みの中だけで人間を見ていますが、「生活者」とはもっと広い視野による概念です。

人は消費を目的に生きているわけではありません。食品・飲料も、家電品、自動車も、通信サービス、金融サービスも、生活する人間から見れば、自らの暮らしをより良くするために選んでいる手段や道具と言えます。目的は、モノやサービスの利用を通じた、豊かさや幸福の獲得にあるはずです。
個々の商品の買い手ではなく、暮らしの作り手である人間を「まるごと」観察し、その根源にある価値観や欲求の変化を読み解いていく…、それが生活者発想という考え方です。

では、人間を「まるごと」観察し、未来を洞察するには、どのような視点から、何を、どのように見ていけばよいのでしょうか。私たちがこれまで培ってきた様々な洞察と発見アプローチのなかから、博報堂生活総合研究所の「手口とスタイル」の一部をご紹介します。

生活総研の「手口とスタイル」

兆しの見方:「気になる」を集めよう

街を歩いていたり、ニュースを見ていたりするとき、「何か気になる」「妙に心に引っ掛かる」と感じることがありませんか? 私たち研究所では、そうした「気になる」ことを、意識して集めています。

そして、集まった「気になる」事象について、ひとつひとつ、「なぜ、私はこれが気になったんだろう?」と考えてみます。すると、一見、バラバラに起きているように思われる事象に共通する、人の気持ちや欲求が見えてくることがあります。それが、次の時代の「兆し」です。研究員が最近「気になる」と感じたことを紹介しながら具体的にご説明します。

東京マラソン2013 申込人数 303,450人

1つめの「気になる」は東京マラソン。申込人数が年々増加していることが「気になる」。なぜ、東京マラソンに参加したい人が増えているのでしょう? スタート直後の写真を見ると、ただただ人、人、人の波。多様化が進み、「個」を優先すると言われる時代の流れとは逆に、圧倒的な「群れ」「大衆」がそこには存在しています。ただしこれは、マラソンが終われば雲散霧消する、一時的な「大衆」です。つまり、いま人は「ひとときの大衆体験」を欲している、と言えそうです。W杯サッカー応援の盛り上がりや夏フェスの盛況も同様かもしれません。

個人の庭を開放する「オープンガーデン」

2つめの「気になる」はイギリスで1920年代に始まった「オープンガーデン」が日本でも広まってきていること。オープンガーデンとは、個人の庭を一般に公開することです。市民は自分の庭づくりを単に個人の趣味としてだけでなく、地域の緑化活動としても行っていることになります。地域の緑化活動は行政が行うものという印象がありますが、個人としてそれに携わることに喜びを感じる生活者が増えているようです。

ギャル字のメール

3つめの「気になる」はギャル字。カタカナの「レ」とひらがなの「ま」を組み合わせて「ほ」と読ませるなどの独自ルールが進化しています。このような独自ルールが生まれた理由は? それは防衛と拒絶のため。彼女たちはこのような独自ルールを持つことで、仲間以外の人間にメールを読まれることを防ぎ、自分たちの小さな社会、「ムラ」を構築していると見ることができます。

では、一見バラバラなこれら3つの「気になる」から、どのような「兆し」が見えてくるでしょう?

私たち研究所は、上記の3つには、共通する生活者の欲求が潜んでいると考えました。それは、《共生の確認》という生活者の欲求です。経済危機、環境問題、治安崩壊、と暮らしの足元が揺らぐ中、改めて人は「一人じゃないんだ」という気持ちを取り戻し、「一緒に生きていこう」という行動に出はじめている。いま、私たち研究所では、《共生の確認》という視点から、生活者が次の社会に生み出していくであろう連帯の形を論じ合っています。

声の見方:人は上手くは語れないから…

人は、自分の感じていることを上手に言葉にできないものです。でも、いい尋ね方をすると、心の声を引き出すことができます。どうしたら、なかなか語られない価値観や幸福感を引き出せるのでしょうか。心の声を聴くための様々な手法の中から、私たちが【ダイアローグ・バルーン調査】と呼んでいる方法についてご説明します。

【ダイアローグ・バルーン調査】は、ストーリーや設定がある絵を見てセリフを考えてもらう調査方法です。

下の図をご覧下さい。ペットボトルに対して人が何かを語っています。ペットボトルも何かを応えています。この吹き出しを埋めてもらいました。

図

人からペットボトルへのセリフを眺めてみると、特に女性たちの声に面白い傾向がありました。

たとえば、
「きょうはたくさんミスしちゃったなぁ…」(16歳女性)
「きょうは仕事で嫌なことが…ブツブツ」(22歳女性)
「きょうは疲れたよ〜」(35歳女性)
といった感じ。

つまり、ペットボトルに愚痴っているんですね。

ペットボトルのお茶は、渇きを癒すだけでなく、女性たちの不平や泣き言を受け止めてくれる存在としてテーブルの上にある……。

吹き出しの中に書かれたセリフは、人が暗黙的に期待している商品の役柄を表しています。

このような方法で心の奥にある商品への期待を知ることで、生活者とモノのよりよい関係を見つけやすくなるでしょう。

数字の見方:数字は偉大な表現者

「世界のビール消費量は東京ドーム142杯分」「日本の離婚の平均発生間隔は2分に1組」「専業主婦の家事労働の年収換算は1200万円」…、数字を突きつけられることで、私たちは実感を持って世の中を理解することができます。数字は偉大な表現者です。

人々の価値観と感覚を可視化するために、私たちは、生活者の見えざる気持ちを数字に直して把握することを試みています。たとえば、自分らしさを行動の頻度やモノの保有数で伝える【数字による自己紹介】調査や、時間の長短や距離の遠近といったイメージをスコア化する【マインドスコア】調査など。ここでは【マインドスコア】調査を例にとってご説明します。

「オジサンって何歳から」「近所って自宅から何メートルの距離」「朝食って何時まで」…。

まず、あなた自身の感覚で下の空欄に入る数字を思い浮かべてください。次に、「答え」をクリックして、私たちが調査した平均値を確認してください。

平均値と比べて、あなたの感覚はどうですか? 近いですか? それとも大きく異なっていますか?

みんなが同じ気持ちで使っていると思われる概念も、数字に直すと意外にブレがあるものです。

上に記した平均値も「今時の常識」を表わしていて興味深いですが、各回答の年代別分布には大きな発見があります。近所の距離イメージは、若い層ほど広く、高齢者で狭くなっていきます。逆に何年経つと過去のことになるかという時間イメージは、若い層ほど短く、歳を取るにつれ長くなっていきます。「高齢社会とは、歩が狭まって、時が深くなっていく社会」…数字はそんな未来像を表現しているのです。

場の見方:真を写すから「写真」

生活者の描いた絵や図表、生活者自身が撮った写真など、ビジュアルも重要なデータです。私たちは、頻繁に「写真調査」を実施しています。

食卓の情景写真、住まいの中でのお気に入り空間の写真、幸福や安心を感じるものの写真など、全国の人々に様々なテーマでの撮影を依頼します。写真の中には、言葉にはなりにくい、その人の価値観が埋め込まれています。写されたものや場には、それに眼を向けた人のキモチが映っているのです。各ビジュアルの構図、ディテール、トーン&マナーを仔細に眺め、そこに意図せず表出してしまった人間の本質を見出す…、写真は見るものではなく読むもの、それが私たちのスタイルです。

「幸福写真調査」:24-73歳男女/68サンプル/2007年6月~7月実施

「家の中と外それぞれで、あなたが幸福を感じるものの写真を撮ってください」という写真調査を実施してみました。まず、目立った対象はペットです。人々は、犬や猫、鳥といった生き物との関わりに幸福を感じているようです。また、庭やベランダでのガーデニング風景も数多く上がりました。加えて自分で栽培している野菜や果物の写真。

飼育、緑育、食育…、ここに共通して映っているキモチは「育の幸福」です。今後は、完成品を消費するだけでなく、何かを育てる体験、お裾分けする人間関係、また経験を通して知識が蓄積されていくことが充実感につながっていくと思われます。

波形の見方:時系列調査は雄弁である

私たち研究所は、ミクロな視点とともに、マクロ統計と言われているものをとても大切にしています。中でも、過去から追跡を続けている時系列データは、時代の流れを如実に物語ってくれます。たとえば、人口動態、日本の世帯構造の変化、食料自給率や耐久消費財の普及率の推移、内閣府の世論調査の動き…。

生活総研も、オリジナルな時系列データ【生活定点】を持っています。長期に渡って同じ質問を投げ掛け、その回答率の推移を分析するものです。時を追うにつれ回答率が上昇していく欲求もあれば、下降していく行動もあります。また、ある年を境にV字回復してくる意識もあります。こうした価値観の軌跡を、私たちは「生活波形」と名付け、様々に変化する波の形から、生活の胎動を察知し、未来を展望します。

1992年から2012年にかけて、4つの質問項目の回答率推移を比較してみました。

グラフ図1

高い教育水準を国の誇りとする意識は下降波形を描き、子供の教養・勉強への投資欲は上昇波形を描いています。「脱・国まかせ」で自前教育へと向かう意識のベクトルが感じられます。

グラフ図2

また、年金などの将来保障への満足度は下降し、逆に健康・医療にお金を使う志向が高まっています。 「老い支度」も自前でということでしょう。

人々は社会基盤に頼らず、自分で自分を守る暮らしへと向かっているようです。交差する波形に「セルフ・ディフェンス:自衛生活」という態度が見て取れます。

ここでご紹介した内容の他にもいろいろなアプローチがあります。詳しくは、書籍『生活者発想塾』〈日本経済新聞出版社〉をご覧ください

生活者発想塾のカバー
生活者発想塾

ページ数:176
価格:1,300円(税別)
ISBN:ISBN978-4-532-49087-4

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