モノからコト、そしてトキへ
―移り変わる[好き]の形―

生活総研 研究員

中島 健登

人びとがどんなことをどんな風に楽しむのか、そんな[好き]の形は時代と共に移り変わっています。

例えば90年代までは、いわゆるブランド物であったり様々なグッズをたくさん所有するなど消費活動で自身の個性を演出する、いわば「モノが好き」な価値観が主流な時代でした。人びとを取り巻く情報環境として、4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)が大きな存在感を示していた時代でもあります。

その後90年代後半に入ると、所有することから体験することへと価値観がシフトします。アウトドアブームや「モノより思い出」という広告コピーが登場し話題となったのもこの頃です。すなわち、自分の手や足で「何かをするコト」が好きな時代といえます。00年代以降にはPCとネット環境が各家庭にも普及し、個人の情報発信力の向上と相まって、生活者自身による創作活動も発展していきました。

そして現在、家庭に一台だったPCから手のひらに収まるスマートフォンが主役となり、一人一台が当たり前となった時代。それぞれが情報発信者となり、またそれらに瞬時にアクセスできるようになったこともあり、人びとの嗜好は多様化しました。それに伴い、モノも多ジャンル化・細分化の一途を辿ります。また一方では、SNS上で人びとが生みだす膨大なコトが絶え間なく共有されるようにもなりました。

このようにモノもコトも反乱する中で、また新しい動きが目立ち始めます。2010年代に入る頃から「好きなアイドルを自分の手で育てる・メジャーにする」「製品アイデアを実現させる」というような、ある共通するテーマや夢、ゴールを持った人びとがリアルやヴァーチャル等場所を問わず集まり、ムーブメントを自ら盛り上げようとする現象が生活者の中に増えてきました。

今そこにしかない、記録では体験できない再現も不可能なプロセスや瞬間に実際に立ち会い、関与して楽しんでいるというわけです。そういった意味でも、従来のモノやコトに加えて、トキという要素がこれからの[好き]を語る上で存在感を増しているのではないでしょうか。

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