心理学の専門家に聴く、
「熱中するほど好きになる」には?

慶應大学文学部 准教授

川畑秀明

<プロフィール>

芸術や美、対人魅力に関する認知や行動についての研究をはじめ、視聴覚情報処理、社会的意思決定や選好など、人の感性や価値経験に関する心と脳の働きについて研究している。日本学術振興会特別研究員、ロンドン大学神経学研究所研究員、鹿児島大学准教授を経て現職。

[好き]には3段階ある

ひとくちに「好き」と言っても内容や強さで様々なものがあります。基本となるのは、脳の中にあるドーパミンという物質で、何か自分が満足をしたり、目的に向かっている時に出て、「欲求の回路」を駆動させます。そこが満たされると、次に社会的な欲求( 人と人のつながりや承認)に関する「嗜好の回路」が、最後には「喜びの回路」が脳の中で駆動することになります。つまり、喜びや幸福というのは上位概念であり、欲求と嗜好が満たされてから感じるものなんです。

熱中するほど好きになるための条件


① 状況や見せ方(フレーム)を変える

ひとつには「状況や見せ方( フレーム)」によって、感じ方が変わることがあります。例えば、「最初は美しいと思わなかった絵画が、金額を聞いたら美しいと感じる」ことがあります。

他の例では、人からプレゼントを返せない状況でもらってしまったような場合を考えてみます。はじめは「欲しい」と思っていなかったのに、手元に来てしまった。その事実は変えられないので、自分の思考を「はじめから欲しいと思っていた」と変えてしまうことが人間にはあります。

また、例えば何人かで喫茶店に入った時に、コーヒーをホットかアイスかで迷ったとします。この時に周りにホットを選ぶ人が多いと、ホットに自分も流れることはないでしょうか。これは情勢が傾いている時は「勝ち馬」に乗ったほうが判断が楽ということ。判断の結果を自分に求めるのではなく、他人のせいにできたほうが気が楽だからです。しかも、第三者より、親しい人の判断に任せてしまったほうが、「好き」という感情はより強くなります(SNSのおすすめに人が反応する理屈のひとつ)。

つまり、「状況や見せ方(フレーム)」を変えるだけで、私たちは評価を変えてしまうことが容易にあるのです。好きの熱中度にも影響することだと思います。

②「行動の共同体」をつくる

SNS上の「いいね!」は、英語では「LIKE!」ですが、どちらかといえば「Approve(承認する)」に近いのだと思います。「いいね!」をより高いレベルの「好き」に導くには、「行動」にどうやって移してもらうかが重要です。自分が「いいね!」を押したものに実際に関わろうとする「行動の共同体」と、押しただけで終わる「意識の共同体」とはまったく別物。だから、「いいね!」を押した人が実際に行動を取れるような仕組みをつくることが重要です。

最近のカープ女子もそこが基本だと思います。赤いユニフォームをかわいく着る、みんなでスクワットして応援する、のように「行動の共同体」の論理が知らず知らずのうちに設計されているんです。何年か前にAKB48 の「恋するフォーチュンクッキー」で、ダンス動画をYouTube に上げることが流行りました。今だったら「PPAP」もそう。同じ行動ができるという前提で、「私だったらこうする」という変化を加える人もいて、共同体が広くなっていくんです。

③イノベーターとしての実感を与える

先にファンになっているマニアにとって、自分が「これが好きだ」ということが、後から来た人にポジティブに受け止められることは、とても大事です。

その例として、あるラーメン屋さんに人が並ぶ場合を考えます。「こんなに長い列に並んだんだから、おいしいに違いない」のように、行列に並ぶこと自体が、ラーメンの評価にプラスの影響を与えます。この影響の強さを考える時に、自分の前に列が長いほうがいいのか、自分の後ろに列が長いほうがいいのか、どちらかと問うと、後ろに並んでいる人の数が結局は重要だったといったデータもあるほどです。

誰しも自分をイノベーターのように感じたい。そこがかなりマニアの熱意のあり方を表しているのではないかと思います。

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