経営・投資の専門家に聴く、
[好き]でビジネスはどう変わるのか?

エンジェル投資家/京都大学産官学連携本部客員准教授

瀧本哲史

<プロフィール>

東京大学大学院法学政治学研究科助手、マッキンゼー&カンパニーを経て独立。独立後は企業再生やエンジェル投資家としての活動をしながら、京都大学で教育、産官学連携活動を行っている。全日本ディベート連盟代表理事。

複数の[好き]がプロジェクト達成型で生まれていく

[好き] でつながるネットワークを生活の基盤にする暮らし方はこれから広がっていくかもしれませんが、その時には、しがらみの壁を乗り越えられるかが問題だと思います。市民参加型のコミュニティが必ずしもうまくいっていないのは、地域のつながりや社会階層意識などが邪魔をするからで、そこを同じものが好き、という共通項だけで乗り越えられるのか疑問を持ちます。

ただ一方で、福島の原発事故の時に、病院から透析の患者を運び出すためのバスが見つからなかったけれど、病院の人がたまたま入っていた古文書研究会のメンバーに旅行会社の人がいたなって調べてみたら、全然違うルートからバスが手配できたっていう話があります。

複数のコミュニティとのつながり、ある種の弱いつながりが、生活を支えたり、イノベーションを起こすということもあるでしょう。

そういう意味では、今後はひとつのコミュニティからすべてを受け取るのではなく、会社と家庭以外の[好き]を基盤にしたコミュニティがたくさんできて、その離合集散が増えていくのではないでしょうか。そのなかで生まれる関係性も、長期的なものではなくて、期間限定のプロジェクト達成型になっていくはずです。

会社との関係もそうなっていきます。会社がプロジェクトの集合体になって、会社との関係性もプロジェクト単位になっていく。ベンチャーなんてまさにそうで、会社という仕組みをプロジェクト化した究極がスタートアップ。会社のステージが変わると人が入れ替わることはよくあることで、失敗したら即解散だからめんどうなしがらみが発生しないのだと思います。しがらみが生まれる前に解散したり、メンバーが再編成されたりするわけです。

ひとつの熱が冷めても儲けられる仕組みをつくれるか

現在のブームについて感じるのは、『シン・ゴジラ』とか米大統領選もそうだけれど、同じ話題について全員が自分の切り口で語れるものほど盛り上がる、ということです。極論、内容は見ていなくても、それについて語る自分を消費している。コンテンツそのものより、コンテンツについて語ることのほうが多い。

一方で、非常に短期間にわーっと盛り上がるものの、継続するものはあまりありません。アンディ・ウォーホルの「誰もが15分間だけ有名になれる」ではないですが、瞬間的に跳ねやすくはなったものの、ブームである時間は短い。ビジネスとして重要なのは、熱が冷めても確実に儲ける手段をつくれていることです。SNSは毎日違う話題で盛り上がり、あっという間に去っていくけれど、盛り上がる場としてのSNSは続いていきます。

ニッチプレーヤーが身をたてやすい時代へ

現在、ブレークイーブンポイント(損益分岐点)が高い市場は、プレーヤーの数は少なく抑えられていますが、今後はそのポイントが低くなっていくことでつくり手が乱立する時代を迎えるでしょう。それぞれのプレーヤーが小さい商圏で小規模なビジネスを成り立たせる、ということが増えていきます。

プロダクトにせよ、サービスにせよ、ベースとなるプラットフォームを大きな資本がつくったうえで、それをカスタマイズしたり、セレクトしたものを商圏にいる顧客の趣味嗜好に合わせて販売していく、ということはこれからやりやすくなりますし、そのような仕事が増えていくのではないでしょうか。[好き]で身をたてたい生活者も含めた、ニッチプレーヤーが進出しやすい領域は拡がっていくはずです(もっとも、それだけで暮らしていける人は少数で、[好き]を含めた複数の仕事を掛け持つ、という形が現実的でしょう)。

また、そのような時代には企業サイドとしても、もはや自社の単一のプロダクトやサービスをそのままマスでスケールさせるという発想自体を変える必要が出てきます。いかに自分たちのビジネスを利用して生活者に身をたててもらうか、稼いでもらうか、そして、その結果として自分たちも利益を上げるか、ということを様々な業種が考えてみるべき時でもあるはずです。

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