みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2017.06.22

第16回

人生100年時代のマイヘリテージ

from 北海道

生活総研 客員研究員
北海道博報堂

山岸浩之

卒園生の孫の卒園

いきなり我が家の末っ子の話で恐縮ですが、この春札幌の幼稚園を卒園しました。末っ子のおじいちゃん(私の義祖父)も、この幼稚園の卒園生。2017年に開園80周年を迎えた歴史のある幼稚園です。園舎も開園当時から変わらない赤い屋根が特徴的な建物で、遊具類も当時のものが今も大事に使われています。そしてこの園舎、札幌市都市景観条例に基づく景観重要建造物に指定され、歴史探訪コースのひとつにもなっているんです。
もともとこの地区は明治初期に屯田兵が拓いた農地でしたが、大正から昭和初期にかけて電車が敷かれ道路も整備されて急速に市街地化。その結果モダンな建造物がどんどん増えました。幼稚園もその中のひとつのようです。大きくはなくとも当時を伝えるその姿には、それだけで園の関係者はもちろんのこと、地域の思いも蓄積された価値があるものだと思います。

北海道は歴史が浅いという印象を持たれがちですが、決してそうではありません。あたりを見渡せば歴史的価値のある建造物が思いのほか多いことに気づくはずです。札幌市時計台のように文化財として指定・登録されているものはもちろん、地域やまちに親しまれている歴史的資産が多数あります。いま、その保存・活用に向けた取り組みが始まっていて、地域の推進役となる専門家育成プログラムも動き出しているのです。

ヘリテージのマネジメント

地域やまちの中には、ひっそりと佇みながらも存在感がある建造物が意外なほどあります。景観に溶け込んではいますが、知らず知らずのうちに地域のシンボルになっていたり住民の心の拠り所になっている。それらはすべて歴史的地域資産といえるのです。
しかし、法や条例で指定・登録されていないものも数多く、維持・管理を担うのは所有者や使用者だけなので、それだけでは限界があります。そこで、歴史的地域資産をその地域の財産として修理技術や活用方法、まちづくりへの活用などを提案する専門家=ヘリテージ・マネージャー、ヘリテージ・コーディネーターの出番となるのです。

ヘリテージ・マネージャーは、建築士や技術士、学芸員などの資格が前提となりますが、コーディネーターは一般市民でもOK。30時間の講座と考査を経て認定されます。こちらは、2014年から北海道文化遺産活用活性化実行委員会が設置した資格制度で、文化財保護法の知識から建造物の構造、活用のマネジメントからまちづくり事業推進まで幅広く学びます。なんとも気になる・・。札幌市民の新参者で知識も何もない私ですが、今年度の取得に向けて挑戦することにしました。

人も歴史的地域資産になる時代

ひとつの基準として、建築から50年以上経過しているものは歴史的価値の対象になるそうです。私も今年50歳、そろそろ歴史的価値が出てくる頃でしょうか?一方で、昨今ヒットしている書籍『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著・池村千秋 訳、東洋経済新報社)によれば、寿命100年の超長寿社会の到来が予測されています。我が家の末っ子のように2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107歳まで生きる可能性があるそうです。そうなれば、末っ子は自分の曾孫どころか玄孫(やしゃご:4代目)や来孫(らいそん:5代目)まで赤い屋根の幼稚園へ通う姿を見ることができるかもしれません。

さてさて、100年もの長い人生を歩むと考えると、人も歴史的地域資産のような価値を持っていく、あるいは持つべきではないでしょうか。歴史的地域資産の価値は年数だけではありません。ヘリテージ・マネージメントの考え方では、6つの視点から価値づけることができるそうです。

① 歴史的価値・・・時間の経過によって加えられた価値、特別な由緒・由来がある(人に置き換えると、地元の名士や長老のような人)
② 地域的価値・・・地域の歴史と密接に関わってきた価値(地域発展の立役者的な人)
③ 文化・芸術的価値・・・まちの成り立ちやくらし文化を物語り、意匠も優れている(老舗スナックの美人ママとか?)
④ 環境的価値・・・特徴的な地域景観、ランドマークとしての役割(お祭り男のような人)
⑤ 活用価値・・・文化・コミュニティ施設や商業施設・観光名所などの活用(観光ボランティアガイド、見守り活動隊)
⑥ 思い入れ価値・・・地域住民の愛着があり、保存活動がなされたり、愛称で呼ばれている(地元で人気の○○おばあちゃん)

これらすべての価値を満たすことが必要ではなく、どの価値を持っているかで資産としての特徴や活用の方法が見えてくると思います。

昔取った杵柄こそヘリテージに

長い人生には、分野もスキルも異なる複数の能力が必要とも言われています。ひとつの仕事に一辺倒では、変化の早い未来にはリスクが大きいのではと思います。自分の歴史的地域資産=マイヘリテージは何かを把握して、将来に向けて保存・活用することが人生100年時代を生きるためのヒントになるのではないでしょうか。もちろん、今から新たなヘリテージを形成しても遅くはありません。また、地域に住むからこそ、地域ならではのヘリテージが形成される機会に恵まれることもあるでしょう。今を生きる地域の高齢者にも、眠っているスキルや知見がたくさんあるはず。

最近あまり使わなくなった気がしますが、 “昔取った杵柄“ということわざは、これから大事なキーワードではないかと。若いころ身に付けた技能が年を経ても変わらないことを意味しますが、この杵柄、小さなものも含めると意外に沢山ありそうです。それに、これから取る新しい杵柄があってもいいと思います。杵柄にあたる英単語がないので、そのうち“Kawaii”とか“Sake”のように“Kinezuka”として浸透するかもしれません(笑)
さあ、長い人生にマイヘリテージを活かそうではありませんか。

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