みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2018.07.13

第20回

伝統野菜のロマン

from 北海道

生活総研 客員研究員
北海道博報堂

山岸 浩之

キャベツのボスキャラ登場

「伝統野菜」、ご存知でしょうか。地域の気候や風土の特徴を生かして古くから作られ親しまれてきた野菜であり、地域ならではの食文化と関わりが深く、その土地に暮らす人々に伝承されてきた歴史あるものです。しかしながら、育てるためには手間ひまがかかるものが多く、形や大きさも一定ではなかったり、さらに収量も多くないなど効率の面からはポイントが低め。大量生産が求められた時代を経てきた今、生産の減少や絶滅してしまったものも多いと聞きます。
私自身は東京練馬区生まれの練馬産ですが、地元でよく知られていたのは「練馬大根」という伝統野菜。江戸時代から作られ、辛味が強く沢庵付けにも向いていて人気でした。明治には最盛期を迎え、全国的な知名度があったとか。子供の頃は、周囲から「練馬といえば大根だね」など話題になることも多かったのですが、時が経つにつれあまり聞かなくなり、気づいたら昔の練馬を表すような意味合いで語られることも。地元の名産が、記憶の中に閉じ込められてしまうのはとても寂しいですし、何だかもったいないと思います。その後、練馬大根は、地産地消の声も大きくなり、規模は大きくないものの近年復活をとげたようです。何だか懐かしい気持ちで、ほっとしました。ちなみに神奈川県特産の三浦大根は、三浦半島の大根と練馬大根の交雑種だそうで、親戚にあたるようです。こちらはよく店頭でみかけて現役バリバリですね。

さて、そんな練馬を離れて生活拠点を札幌に移したのですが、昨年の冬にこちらの伝統野菜に出会いました。市内の直売所でみかけたそれは、自分の眼の遠近感を疑うような巨大なキャベツだったのです。
大きいもので重さ20kg・直径50cmにもなるキャベツのボスキャラ! その名も「札幌大球(さっぽろたいきゅう)」。まさに大きい球、ですね。


左が札幌大球、右が普通のキャベツ。

海が隔てる動植物の陣地

話は少しそれますが、北海道と本州の間には「ブラキストン線」という動植物の分布境界線なるものがあります。別名津軽海峡線で、イギリスの動物学者のトーマス・ブレーキストン氏が、日本の野鳥を研究していたところ、津軽海峡に動植物分布の境界線があると考えて提唱しました。津軽海峡は最も深い所で140mもあり、氷期でも陸続きにならなかったため、北海道と本州の生物相が異なるままになったと考えられています。境界線の南側、本州はツキノワグマ、北側の北海道ではヒグマが生息しています。他には、エゾシカ、エゾリス、エゾモモンガなども北海道のみに生息する生き物たちです。

ブラキストン線は直接関係ないですが、さすが北海道の伝統野菜はちょっと違うなーと思いつつ、一体これはどんな野菜なのかと思い調べてみると、普通のキャベツよりも肉厚で甘みがあり、漬物にしてもパリパリとした食感が楽しめるそう。漬物も北海道らしい一品。東北地方では保存食として伝統的に親しまれている「にしん漬」です。主な材料は、キャベツ、大根、身欠きにしん(干したにしん)で、これらを麹で漬けて作ります。かつては自家製が多く、家庭ならではの漬け方が伝承されていたようです。冬の野菜不足を補う貴重な伝統料理のひとつですね。
札幌大球は、明治初期から開拓使による試験栽培から始まり、昭和初期から戦前にかけて全盛期を迎え道内のかなりの面積において作られていました。しかし、漬け物需要の減少や農家の高齢化などにより、消滅に瀕しており、いまや幻の伝統野菜になってしまいました。練馬大根と同じパターンですね。

応援隊長は頼れる存在

そのような危機的状況の中で、この保存活用に尽力されているのが、株式会社ブレナイ社の日原さん。2015年から札幌大球応援隊を企画、スタートさせた立役者。もちろん隊長さんです。保存活用の活動はお仕事として取り組まれていますが、「伝統野菜を守ることで地域の生活スタイルを守りたい」という高い志を持たれている方です。早速お話を伺ってみました。

日原さん:このブランドを守る活動、聞こえは良いのですが、実は地道な活動なんですよ。

山岸:それはどういうことでしょうか?

日原さん:まず札幌大球の作付は、それぞれ1メートルの間隔を空けないと育ちません。大きくて隣同士ぶつかりますから。そして晩生系のため生育に150日かかります。収穫は一年に一度だけ。現在、生産者さんやJAさんのお力で約3,000球を生産していますが、収穫作業自体も力仕事で大変です。私も収穫メンバーのひとりとしてその季節は必ずお手伝いしています。

山岸:なるほど。気軽な収穫体験とは行きませんね。

日原さん:何より一番の問題は、これだけ大きなキャベツがたくさん収穫されても使い道に困ってしまいますよね。ですので、収穫した後はどうするか、その出口づくりから考えました。

山岸:出口、つまり販路ですね。それは、もしや飛び込み営業ですか?

日原さん:そうです。キャベツをたくさん使う業種を考えたところ、お好み焼き屋さんと漬物屋さんではということで、札幌市有数の2社(お好み焼きは「風月」さん、漬物は「北彩庵」さん)へお願いしました。結果、札幌の伝統野菜の保存・活用という主旨に賛同頂きました。すべて買い取って頂いています。時を同じくしてJAさっぽろさんでも札幌伝統野菜を守っていこうという方針が出ていて、ベクトルが合致したのです。

山岸:すごいですね。日原さん:のバイタリティも感銘します。しかし、そもそも途絶えていた札幌大球ですが、種はどうされたのでしょう?

日原さん:とても幸運なことに、札幌市の農家さんで在来種の種子をお持ちの方がいらっしゃいました。それでJAさっぽろさんを中心に試験栽培へ進めることができたと聞いています。

――― なんと、地元札幌にオリジナルの種子が残っていたとは!札幌以外の道内でも栽培されていますが、発祥の地で在来種が復活することになったとは、感慨深いものがあります。

オーナーになった気分は?

山岸:応援隊は、農業関係者以外にもオーナー制度として一般の方も参加していますよね。どんな方が多いのですか?

日原さん:年配の方もいらっしゃいますが、収穫見学&お好み焼きパーティや漬物教室を開催していますので、ファミリー世代の方も多いですね。4年目ですが、徐々に広がっていて現在350人の方に参加頂いています。

山岸:クラウドファンディングもされていましたね。

日原さん:認知を広げたくて2017年に実施しました。東名阪など道外からの参加が多く、新しいオーナーさんが生まれました。今年も計画しています。

――― 順調に見える活動も、2013年からスタートしているタマネギの伝統野菜・札幌黄(さっぽろき)のオーナー募集制度を先行事例としてベースにしているのが大きいとのこと。こちらもオーナーが栽培体験や収穫後カレーパーティまで参加できる制度で、楽しくサポート活動ができる仕組みです。
最初は伝統野菜を資金集めの手段にしているという誤解から非難の声もあったそうですが、オーナー一人ひとりと向き合いながら事業を継続して6年目の現在では、そのような声は一切なくなったそうです。

山岸:遅ればせながら、先日私も札幌大球のオーナーになりました。ちょっと嬉しいです(笑)。今後ともよろしくお願いします。では最後に、これからの展望などお聞かせ下さい。

日原さん:この活動は一過性ではなく、長く継続することが大事だと思っています。伝統野菜を博物館にはしない、地域の生活スタイルとして定着して、次の世代に引き継いでいくことを目指しています。

山岸:なるほど、大事なのは続けることですね。末永く応援していきます!ありがとうございました。

種と土と人と…

6月中旬に定植し、収穫は10月下旬。今はまだ小さい葉が、夏にはぐんぐん大きくなっていくでしょう。
今回特に印象的だったのは、在来種の種子が現存していたというエピソード。きっと種を持っていた方は、未来を信じて工夫しながら保存し続けていたのでしょう。種は、最小限の力で生命力を保ち、来るべき時を待っている。そして、育つ環境や継続する仕組みに出会うという、偶然のような運命のような話。伝統野菜復活の裏にロマンあり、でした。


※写真はすべて札幌伝統野菜「札幌大球」応援隊様より

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