みらいのめ

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2016.03.28

第4回

フクオカから考えるあしたのイノベーションスタイル

from 福岡県

生活総研 客員研究員
博報堂 九州支社

松本裕介

先日「フクオカ・スタートアップ・セレクション」という福岡市が主催するイベントに参加してきた。
これは地場の既存企業とスタートアップ企業のビジネスマッチングを目的としたもので、昨年9月に続いて2回目の実施になる。
2014年、福岡市は国家戦略特区の一つとして「グローバル創業・雇用創出特区」に指定された。実はそれ以前からも市は「創業・起業」を活性化すべく様々な試みを実施してきたが、特区指定によってこの動きが加速した。
例えば、起業を志す人なら誰でも無料でコンシェルジュに相談できる「スタートアップカフェ」を、若者が集まる街のど真ん中にあるTSUTAYA内にオープンさせた。
今回私が参加したイベントもまた、このグローバル創業・雇用創出特区具現化のための試みの一環だ。
「コンパクトで住みやすい」、「ビジネスコストが安い」、「世界と繋がりやすい」等の福岡市が持つ強みと、これらの試みが相まって、現在福岡市は日本の21大都市中で開業率NO1(各都道府県労働局)となっている。

フクオカ・スタートアップ・セレクションは明日のビジネスを想い描く老若男女で大いに賑わっていた。
前述したように、このイベントの主目的は既存企業とスタートアップとのマッチングではあるが、会場全体を見渡すと、既存企業同士、さらにスタートアップ同士の交流もまた盛んに行われていた。
さらに印象的だったのは参加者たちの表情だ。丸テーブルを囲んで、おそらくこの日初対面同士が自社アピールや情報交換をしているのだが、その表情は一様に柔らかく、会場の所々から時折り笑い声も聞こえてきた。
特定ゾーンで実施される参加企業によるプレゼンテーションは立ち見も出るほどで、プレゼン終了後は温かな拍手が起きていた。

オープン・イノベーションという考え方がある。
「企業内部と外部の技術、アイデアやサービスを組み合わせることで、革新的で新しい価値を創り出す」という意味だ。
ここでいう外部には他企業のみではなく大学や研究機関など、また個人も含まれる。
日本においても、オープン・イノベーションに本格的に取り組む事例がここ数年で出てきている。
ただその現状は今のところ、特定の企業と企業、企業と大学の「パートナー関係を深める」という色合いが濃い。
逆にいえば、広く新しい協業相手を探そう、というオープンなアプローチを試みている例はまだまだ少ない。
研究開発において自前主義の傾向が強いことや、組織慣行に縛られ企業間や企業と大学などとの間で技術・情報・人材の流動が進まない、という日本企業の特徴がこの背景にあると考えられる。
さらに、オープン・イノベーションを実践するためには、産学連携、産官学連携という「フレーム」や、クラウドソーシング/ファンディングといった「プロセス」を備えていなければならない、という思い込みも、もしかしたら日本の企業にあるのかもしれない。

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だが、フクオカ・スタートアップ・セレクションは、私に日本における新しいオープン・イノベーションの萌芽を予感させてくれた。
フレームやプロセスがなくても、一歩外に踏み出すだけでオープンなアプローチが可能になる。新鮮な情報を吸収し、将来新しい価値を共創するかもしれないパートナーを探し出すことができる。
このイベントで私が感じた一種の「緩さ、柔らかさ」も、もしかしたらとても重要な要素なのかもしれない。
協業相手を見つけるために、単調な講演を聴きに行ったり、エビデンスやロジックに縛られた難解な交渉をしたり……はできるだけ避けたい。でも、ストレスの少ない自然な流れの中であれば、自分の志や悩みを人に語ってみたいし、他人の夢に共感してみるのも良いかもしれない。
このような一人の人間としての企業人の想いに応える出会いの場が今後ますます増えてくると面白い。
協業相手を自由に組み替えたりM&Aを繰り返すアメリカ型のイノベーションスタイルとは異なる、協業者との関係性を強化しながら一方で新しいパートナー探しも怠らない、「日本独自の優しいけれどしたたかなオープン・イノベーションスタイル」が生まれてくるかもしれない。

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