生活定点

日本の生活観測広場

生活定点 > テーマ分析レポート > 夏本番、旅行心に火を灯そう

夏本番、旅行心に火を灯そう

~どこに行くかより、何が得られるか~

博報堂生活総合研究所 研究員
斎藤 竜太

 早いものでもう7月。2009年も半分が終わり、まもなく夏本番です。旅行や帰省、レジャーなど、休暇の予定を検討している方も多いのではないでしょうか。景気の悪い話ばかりの昨今、よい休暇を過ごしてリフレッシュしたいものですが、つい「財布の中身と相談しなきゃ・・・」と躊躇してしまったり。そこで今回は、生活者が旅行に対してどんな意識を抱いているのか、どうすればその背中を押すことができるのかを探っていきたいと思います。


巣ごもりする生活者?

 「巣ごもり消費」や「巣ごもり需要」といった言葉がよく使われるようになっている。生活総研が実施している『生活定点』のデータを見ても、「普及品より、多少値段がはってもちょっと良いものが欲しい」人の割合は98年の50.4%から08年は37.2%に、「値段が高くても、気に入れば買ってしまう方だ」という人は98年の49.9%から08年は43.5%と、いずれもポイントを落としている。一方で、「今後(も)お金をかけたいもの:貯金するお金」と回答している人は、98年の50.0%から08年は56.2%と増えている(グラフ1)。無駄な出費を抑え、貯金に回したいという節約志向はここしばらくのトレンドとなっており、昨年からの不況により、さらに拍車がかかっているのが現在の状況と言えるだろう。

200907-1.jpg
 そんななか、最もその影響を受けている分野のひとつが旅行だと言われている。実際、「この1年間に1回以上国内旅行をした」人は減少傾向にあり、この10年間で9ポイント減少し、65.9%。また、海外旅行についても5ポイント減少の12.4%である(グラフ2)。なお、国内旅行をした人の平均回数も、98年の2.78回から08年は2.50回に減少している。

200907-2.jpg

旅行欲は減退していない

 では、旅行に対する意識はどうだろう。「関心のある情報」のランキングTOP10の推移を見てみると、順位こそ4位から5位にひとつ落としているが、「旅行」に関心があると回答した人は約4割で安定している(表1)。「今後(も)お金をかけたいもの」のランキング推移を見ても、「貯金するお金」に1位は譲ったものの、08年においても5割を超え、2位の地位を占めている(表2)。旅行に関心を持っているし、お金をかけたいと思っている。人々の旅行に対する興味、意欲は衰えているわけではないのである。

200907-h1.jpg
200907-h2.jpg
 また、「巣ごもり」と言っても、生活者は自ら進んで家にこもっているのではないよ うだ。『生活定点』のデータによると、「休日は家にいる方が好きだ」という人の割合は、98年の35.3%から大きく下がり、08年は27.9%と3割に も満たない。多くの人々が、休日は外に出かけたいと思っているのである。


「ひとりでのんびり」は過去のもの

 このように、いま生活者は旅行に行きたくないのではなく、行きたくても行けない状態にある。生活防衛意識の高まりによる心理的な障壁や、繁忙や共働きの増加で家族や仲間と休暇があわないことが増えているなど、さまざまな理由が考えられる。しかし、ストレスがたまりやすいこんな不景気な世の中だからこそ、旅行に出かけて気分転換をしたり、新しいものに触れて刺激を受けたりすることは、個々の人生を豊かにするうえで重要であり、ひいては社会の活性化にもつながる。一体、どうすれば生活者を旅行に連れ出すことができるのだろう。人々がどのような旅行をしたいと思っているのか考えてみよう。
 変化が激しい時代、「フラッと出かけてのんびりしたい・・・」という人が多いかと思うとそうでもない。「予定を立てない旅をしてみたい」、「1カ所に落ち着いて、のんびり過ごす旅が好きな方だ」という回答はともに大きく減っている(グラフ3)。確かに、この不況のなかにおいても、農業や畜産、歴史などを学ぶスタディ・ツアーや、自然保護や貧困対策を行うボランティア・ツアーなどは盛況だという。何かを学んだり、誰かの役に立ったりといった出費を正当化できる明確な目的がない旅では、なかなか節約志向の心の壁を打ち破れないということなのだろう。

200907-3.jpg
 もうひとつ、旅行推進のヒントとなりそうな意識の変化を示すデータを見てみよう。この10年で「帰省した」「お盆の墓参りをした」という人がわずかながらも増えてきている(グラフ4)。不安の時代ということもあるのだろう、家族や親類など、人とのつながりを重視する人が増えているようだ。これはレジャーの楽しみ方においても同じ傾向を示している。「人と一緒に出かけても、それぞれが自由に遊べた方がよいと思う」という回答は10ポイントほど減り、20.4%まで減少している。旅行やレジャーはみんなで楽しみたい、そんな生活者の欲求が高まってきている。

200907-4.jpg

旅行の「果実」を伝えよう

 「何かを得られる旅」「みんなで楽しめる旅」が望まれる旅行のキーワードのひとつのようである。贅沢な願いのようだが、余裕のない暮らしのなかで、お金も時間も使って出かける以上、仕方がないことであり、提供する側にはそれに応えることが求められる。のんびりできる、楽しいというだけでなく、人生の糧になる体験ができる、家族や親類、仲間との絆が深まる。そんなプランを考えること。そして、単なる行程の説明ではなく、その旅行で何を得ることができるかをきちんと伝えること。そうすることによって、行動に移せずにいる生活者の旅行心に火を灯すことができるのではないだろうか。


(掲載 : JRガゼット・2009年7月号・株式会社交通新聞社)


調査概要

「生活定点」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。 

INDEX

  • 日本の生活観測広場とは
  • 生活動力
  • 生活造形ラボ
  • 生活定点
  • スケール・ジャパン
  • 消費意欲指数
  • その他の研究プロジェクト

PAGE TOP