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生活者の新しい車窓

~「車窓族」 増殖中!新たな消費機会を創出する「3C」とは!?~

博報堂生活総合研究所 生活表現グループ グループマネージャー
高橋 哲久

 「列車の旅」と言えば「車窓の風景」が思い出されます。窓から見える風景が空間の移動を演出し、旅情を誘いますが、最近の生活者にとっての車窓は、どうやら列車のガラス窓だけではなさそうです。携帯電話やパソコンなど、外の世界とつながった多様な「窓」と接しています。新たな窓の登場は、生活者をどんな行動に向かわせているのか、どんな欲求が隠れているのか。「日常生活の車窓」という視点から、『生活定点調査』データを用いながら考察してみましょう。


通話はNG。見るのはOK!

 車中を見渡すと、携帯電話を見つめる生活者が多く見受けられる。おそらく、メールやインターネット、あるいは動画など多様なコンテンツを見ていると思われる。車中における携帯電話の利用状況については、マナーを中心によく議論が取り沙汰されるが、データを見ると「車内における携帯電話の電源OFF状況(携帯電話・PHS保有者ベース)」は、「OFFにする(そうする+必ずそうする)」という回答が、2004年の62.1%から2008年には57.7%に減少している。それでもまだ5割以上の人が電源をOFFにすると回答していることに意外さを感じる一方、「電車やバスのなかで、携帯電話で通話することに抵抗がある」人は、2004年の64.2%から2008年には68.3%に増えている。車中で携帯電話の画面に見入る人の姿が増加しているのは、「通話」には抵抗があるが、電源を切らず眺めることには抵抗がないという意識の現れではないだろうか。


増える「画面」接触の機会

 携帯電話の画面接触が増えているのは、コンテンツの多様化も一因と言えよう。コンテンツ配信サービスの利用率を見ると「番組や動画の配信サービス」が2006年の11.9%から2008年には17.4%へ、「音楽配信サービス」が16.8%から19.5%へとそれぞれ伸長している。
 また、「情報を活用した生活をしている」という生活者は、1998年の25.9%から2008年には37.4%へ増加。特に20代男女の伸長が目覚ましく、20代男性で27.0%→47.5%(1998年→2008年)、20代女性で31.9%→48.8%(同)となっている。一方、「情報は多ければ多いほどいいと思う」は24.7%→13.7%(同)と大きくダウンしていることから、情報を活用した生活はしているけれど、ただ溢れるように多ければ良いとは思っていない。「情報処理能力」は、「高い方(高い方だ+やや高い方だ)」という回答は、1998年の28.8%から2008年には32.4%と上昇傾向にあるものの、「高くない方(高くない方だ+あまり高くない方だ)」という回答が2008年時点で67.6%いることから、生活者は編集された「コンテンツ(Contents)」(*1)としての「情報」を欲しているようである。

 *1  ここでいう「コンテンツ(Contents)」とは、テキストのみならず、動画や音楽といった「モニター画面」を通して提供されるさまざまな情報のことを指す。


新しい「車窓」が増殖中

 最近では、携帯電話だけではなく、新しい車内の「画面」の登場が目立つ。「動画モニター(画面)」を装備した新型車両の増加だ。動画の広告やニュース、天気予報、列車の乗り換え、遅延情報など凝縮した情報を提供している。視線が動く位置に設置されているが、「新商品の売れ行きランキング」を放映して街の店舗との連携PRを行う例も珍しくなく、人間の自然な行動を促すように考えられている。また、新幹線など遠距離列車内では、パソコンや携帯動画プレーヤーによる動画鑑賞者をよく見受ける。電源問題の解消や端末の小型軽量化、動画コンテンツの低価格(無料も含め)化がこのような行動につながっている。
 「よくする趣味」のデータに、ひとつの傾向が見られた。過去10年間のデータ・ランキングを見ると、「映画鑑賞」「パソコン」が上位を占めている(表1)。この2つに共通しているのは、どちらも「画面」を見るものだということだ。携帯電話の保有は、この10年間で40.5%→90.6%(1998年→2008年)と約2倍増。「パソコン」は26.1%→73.2%(同)で約3倍となっている。「パソコン」は、もはや「趣味」ではなく、生活の一部に組み込まれた「日常行動」になっていくと思われる。また、携帯電話の大画面化からも、移動車両のなかでの動画鑑賞など、生活者にとっての「新しい車窓」が増殖し始めたと言えるだろう。ここでは、凝縮された情報を小型なツールで提供するといった「コンパクト(Compact)」(*2)がキーワードになる。

 
*2  ここでいう「コンパクト(Compact)」とは、「小型でまとまって中身が充実していること」を指す

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「新車窓」が新たな消費行動を生む


 生活者の消費行動のなかで「現在お金をかけているもの」は、2008年のデータでは「趣味」23.1%、「通信(電話、携帯電話、インターネットなど)」20.1%であ る(表2)。これに対して「今後(も)お金をかけたいもの」を見てみると、「趣味」は40.8%と意向は高くなり、特に20代女性は52.8%と5割以上 が「趣味」にお金をかけたいと回答している(表3)。しかし、「今後(も)節約したいもの」を見ると、「通信」が46.6%と節約したいもののトップにある(表4)。さらに、「今後パソコンや携帯電話を使って通信(インターネット含む)をしたい」という生活者は、52.2%→59.9%(2002年 →2008年)と上昇傾向にある。「よくする趣味」のデータと重ねてみると、新たな消費行動の可能性が見えてくる。
 この時に重要なのが「コンテキスト(Context)」。「生活の文脈」のことを指す。マンマシーン・インターフェース(*3)のデザインでは、人間の日常行動や無意識の行動をとらえ、 それを目的に向けて誘導することが大切だが、ここではまさに生活者の日常生活がどのような文脈なのかをとらえ、再編集することが求められている。「映画鑑賞」や「パソコン」は、映画館や自宅、会社といった定位置を持っている。生活の文脈のなかに、すでに組み込まれている存在だ。消費行動の創出のためには、 この生活の文脈のなかに「新しい車窓」という概念を埋め込むことである。
 ここで考えたいのは、「新しい車窓」はContents(コンテンツ)、Compact(コンパクト)、Context(コンテキスト)という「3C」が揃った時に、生活者に新たな消費行動を生むということである。「ど の車窓が勝つのか」といった比較戦略ではなく、これらをどのように融合させ、どのような場面でどのようなツールを使い「3C」を編集するかがポイントであ り、携帯電話やパソコンだけの画面に特化することではない。現実の世界の車窓と新しい車窓をどのように組み合わせ、編集するのかということである。やはりリアルの車窓から見るリアルな富士山に勝るものはないのだから。

*3  マンマシーン・インターフェース(man machine interface):人間と機械の間で情報の交換をする境界のこと。またはその接触面。

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(掲載 : JRガゼット・2009年9月号・株式会社交通新聞社)


調査概要

「生活定点」

調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20?69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日?6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994?2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名
(有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。

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