家庭内行動の外部化に伴い家出するモノたち
~三大都市圏における持ち歩き品の実態~
博報堂生活総合研究所 上席研究員
夏山 明美
高まる環境意識を反映してか、エコバッグを持つ人が増えた気がします。当研究所が実施した「生活行動調査」(*1)では、最近1週間にエコバッグを使った人は44%にも達します。と言っても、エコバッグだけを持つ人は、あまり見かけません。多くの場合はエコバッグとそれ以外のバッグをダブルで持っています。ほかにもポーチやショルダーバッグ、アタッシュケースに加え、ショッピングカートや小さなスーツケースをガラガラと転がして歩く人もよく見かけます。
「みんな、たくさんモノを持ち歩いているんだなぁ~」。そう感じたことのある人は私だけではないでしょう。普段見ることのない他人のカバンの中身。今回は"持ち歩き品の実態"に関する調査から、その中身をのぞき見ることにしましょう。
持ち歩き率のトップ3は"3K(カネ・ケータイ・カギ)"
「日ごろ、持ち歩いているモノ」を見てみよう(表)。1位「財布・現金」、2位
「携帯電話」、3位「鍵」となっている。「ハンカチとティッシュは持った?」と、お出かけ前の確認で常連だった「ハンカチ」は4位、「ティッシュ・ウェッ
トティッシュ」は5位と、カネ・ケータイ・カギの"3K"アイテムに上位を譲っている。
特に注目したいのは「携帯電話」。「生活定点2008」(*2)によると、携帯電話の所有率は1998年の41%から2008年の91%へと飛躍的に伸びた(グラフ1)。携帯電話は、通話やメールといった通信機能だけでなく、テレビを見たり、音楽を聞いたり、インターネットに接続したりとオールマイティな機能を装備した便利品と化した。いまやその便利さの恩恵にあずかり、駅や電車内でケータイいじりに夢中になる人が多いのも、うなずける。
しかし、よく考えてみると、電話やメール、テレビなど携帯電話で可能な各種行動は、かつては家庭内で行われていたものだ。そこで、次にモノの持ち歩き率より、家庭内から外部化した生活行動と、それを率先する人物像を数字でとらえてみよう。

技術革新で外部行動化する「音楽」と「ゲーム」
ケータイいじりと同様に、駅や電車内でお馴染みなのが音楽を聴く光景。この行動に欠かせないのが、32位に挙がる「携帯音楽プレーヤー」。全体では10人に1人が持ち歩いている(表)。「意外と少ない」と感じる読者も多いだろうから、さらに数字を追ってみる。年代別の持ち歩き率(グラフ2)を見ると、男女ともに10代が突出し、約5割にも達している。特に10代女性の高さが顕著。お出かけ好きな彼女たちの多くにとって、在宅時間の少なさが音楽を携帯する理由のひとつとなっているのだろう。

一方、10代男性では「携帯型ゲーム機」の持ち歩き率の高さが目立つ(グラフ3)。全体では46位、ほんの3%(表)なのに対し、10代男性では5人に1人が持ち歩いている。
音楽にはまる女の子とゲームに熱中する男の子。この子たちの楽しみの持ち歩きを容易にしたのは、「携帯音楽プレーヤー」や「携帯型ゲーム機」が、携帯電話のようにどんどん小型化、高機能化したからだろう。技術革新が家庭内行動を外に連れ出している。

価値観変化で外部行動化する「化粧」と「喫煙」
次に、価値観の変化が外部化を促しているケースを見てみよう。まず、化粧について。
従来、化粧は家や化粧室で行うものだった。しかし、いまは電車内で化粧する女性を時折見かける。家や化粧室にあって、電車内にないものは何か。それは「鏡」だ。全体では22%(24位)の「鏡」の持ち歩き率(表)は、女性10代・20代では5割超(グラフ4)。電車内での化粧に眉をひそめる人は少なくないが、最近ではやや諦め感もあるのではないだろうか。おそらく、世の中の目が"個人の一挙一動に厳しかった"以前に比べ、いまは"個人の責任範囲内で自由に行動すればいいのでは?"と変わりつつあるため、かつて奇異に見えた行動が容認されやすくなっているのだ。

「喫煙」も社会の風潮の変化が行動の場を変えている。当研究所の調査パネル「生活発見パートナーズ」に実施した「家庭内行動の外部化実態調査」(*3)では、外でタバコを吸う理由として、「家で吸うと、天井や壁が汚れるから(男性57歳)」「家族にやめてと言われるから(男性37歳)」という意見が挙がる。世の中で進む禁煙や分煙は、家庭内でも採用されつつある。家庭内禁煙を強いられた愛煙家は外に向かうしかない。「携帯灰皿」の持ち歩き率は、全体では11%(33位)に過ぎないが(表)、性年代別では男性40・50代で5人に1人にもなる(グラフ5)。

外出先での荷物の置き場問題 ユニークな解決策を期待
技術革新と価値観変化により、家庭内行動のいくつかは外部でも行われるようになった。それに伴い、家から外に連れ出されるモノたち。どおりで複数の鞄や大きな鞄が必要になるわけだ。そうなると、困るのは鞄の置き場。電車内では網棚があるにもかかわらず、あまり使われていないのが実情。手が届きにくいのだろうか。重い荷物を持ち上げるのが大変なのだろうか。置き忘れに警戒しているのだろうか。盗難に遭う不安があるからだろうか・・・。なぜか、荷物を抱えたままの人が目立つ。
不便や不安を感じることのない方法で、生活者を荷物から解放してあげられないだろうか。たとえば、駅のベンチでは人が座るスペースの隣に荷物置き場を設置しているケースもある。飲食店では座席下の空間に荷物を置ける椅子などもある。さらには、毎日持ち運ぶ荷物や習い事の荷物などを入れる自分専用のコインロッカーを月極め契約できるサービスを提供する電鉄会社もある。少数派だろうが、ペットや自転車を外に連れ出す人もいる。外出先で増える荷物。その置き場問題は、家庭内だけでなく、駅や車内、街中でも生じている。ユニークな解決策を期待したい。
(掲載 : JRガゼット・2009年11月号・株式会社交通新聞社)
調査概要
*1 「生活行動調査」
調査目的 : 日常行動に関する幅広い質問によって、生活者の暮らしの現状を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)、名古屋40㎞圏(愛知・岐阜・三重)
調査対象 : 15~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 2009年3月
サンプル数 : 2,781名(有効回収)
※ウェイトバック処理後のサンプル数は4,327サンプル。集計においては、人口構成比を反映するように統計上の処理(ウェイトバック)を実施。本報告においては、ウェイトバック処理後の数値を使用している。
*2 「生活定点2008」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。
*3 「家庭内行動の外部化実態調査」
調査目的 : 家庭内行動の外部化実態とその理由を明らかにする。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)
調査対象 : 18~75歳の男女(生活総研オリジナル調査パネル「生活発見パートナーズ」)
調査方法 : 郵送法
調査時期 : 2009年6月
サンプル数 : 413名(有効回収)
「みんな、たくさんモノを持ち歩いているんだなぁ~」。そう感じたことのある人は私だけではないでしょう。普段見ることのない他人のカバンの中身。今回は"持ち歩き品の実態"に関する調査から、その中身をのぞき見ることにしましょう。
持ち歩き率のトップ3は"3K(カネ・ケータイ・カギ)"
「日ごろ、持ち歩いているモノ」を見てみよう(表)。1位「財布・現金」、2位
「携帯電話」、3位「鍵」となっている。「ハンカチとティッシュは持った?」と、お出かけ前の確認で常連だった「ハンカチ」は4位、「ティッシュ・ウェッ
トティッシュ」は5位と、カネ・ケータイ・カギの"3K"アイテムに上位を譲っている。特に注目したいのは「携帯電話」。「生活定点2008」(*2)によると、携帯電話の所有率は1998年の41%から2008年の91%へと飛躍的に伸びた(グラフ1)。携帯電話は、通話やメールといった通信機能だけでなく、テレビを見たり、音楽を聞いたり、インターネットに接続したりとオールマイティな機能を装備した便利品と化した。いまやその便利さの恩恵にあずかり、駅や電車内でケータイいじりに夢中になる人が多いのも、うなずける。
しかし、よく考えてみると、電話やメール、テレビなど携帯電話で可能な各種行動は、かつては家庭内で行われていたものだ。そこで、次にモノの持ち歩き率より、家庭内から外部化した生活行動と、それを率先する人物像を数字でとらえてみよう。

技術革新で外部行動化する「音楽」と「ゲーム」
ケータイいじりと同様に、駅や電車内でお馴染みなのが音楽を聴く光景。この行動に欠かせないのが、32位に挙がる「携帯音楽プレーヤー」。全体では10人に1人が持ち歩いている(表)。「意外と少ない」と感じる読者も多いだろうから、さらに数字を追ってみる。年代別の持ち歩き率(グラフ2)を見ると、男女ともに10代が突出し、約5割にも達している。特に10代女性の高さが顕著。お出かけ好きな彼女たちの多くにとって、在宅時間の少なさが音楽を携帯する理由のひとつとなっているのだろう。

一方、10代男性では「携帯型ゲーム機」の持ち歩き率の高さが目立つ(グラフ3)。全体では46位、ほんの3%(表)なのに対し、10代男性では5人に1人が持ち歩いている。
音楽にはまる女の子とゲームに熱中する男の子。この子たちの楽しみの持ち歩きを容易にしたのは、「携帯音楽プレーヤー」や「携帯型ゲーム機」が、携帯電話のようにどんどん小型化、高機能化したからだろう。技術革新が家庭内行動を外に連れ出している。

価値観変化で外部行動化する「化粧」と「喫煙」
次に、価値観の変化が外部化を促しているケースを見てみよう。まず、化粧について。
従来、化粧は家や化粧室で行うものだった。しかし、いまは電車内で化粧する女性を時折見かける。家や化粧室にあって、電車内にないものは何か。それは「鏡」だ。全体では22%(24位)の「鏡」の持ち歩き率(表)は、女性10代・20代では5割超(グラフ4)。電車内での化粧に眉をひそめる人は少なくないが、最近ではやや諦め感もあるのではないだろうか。おそらく、世の中の目が"個人の一挙一動に厳しかった"以前に比べ、いまは"個人の責任範囲内で自由に行動すればいいのでは?"と変わりつつあるため、かつて奇異に見えた行動が容認されやすくなっているのだ。

「喫煙」も社会の風潮の変化が行動の場を変えている。当研究所の調査パネル「生活発見パートナーズ」に実施した「家庭内行動の外部化実態調査」(*3)では、外でタバコを吸う理由として、「家で吸うと、天井や壁が汚れるから(男性57歳)」「家族にやめてと言われるから(男性37歳)」という意見が挙がる。世の中で進む禁煙や分煙は、家庭内でも採用されつつある。家庭内禁煙を強いられた愛煙家は外に向かうしかない。「携帯灰皿」の持ち歩き率は、全体では11%(33位)に過ぎないが(表)、性年代別では男性40・50代で5人に1人にもなる(グラフ5)。

外出先での荷物の置き場問題 ユニークな解決策を期待
技術革新と価値観変化により、家庭内行動のいくつかは外部でも行われるようになった。それに伴い、家から外に連れ出されるモノたち。どおりで複数の鞄や大きな鞄が必要になるわけだ。そうなると、困るのは鞄の置き場。電車内では網棚があるにもかかわらず、あまり使われていないのが実情。手が届きにくいのだろうか。重い荷物を持ち上げるのが大変なのだろうか。置き忘れに警戒しているのだろうか。盗難に遭う不安があるからだろうか・・・。なぜか、荷物を抱えたままの人が目立つ。
不便や不安を感じることのない方法で、生活者を荷物から解放してあげられないだろうか。たとえば、駅のベンチでは人が座るスペースの隣に荷物置き場を設置しているケースもある。飲食店では座席下の空間に荷物を置ける椅子などもある。さらには、毎日持ち運ぶ荷物や習い事の荷物などを入れる自分専用のコインロッカーを月極め契約できるサービスを提供する電鉄会社もある。少数派だろうが、ペットや自転車を外に連れ出す人もいる。外出先で増える荷物。その置き場問題は、家庭内だけでなく、駅や車内、街中でも生じている。ユニークな解決策を期待したい。
(掲載 : JRガゼット・2009年11月号・株式会社交通新聞社)
調査概要
*1 「生活行動調査」
調査目的 : 日常行動に関する幅広い質問によって、生活者の暮らしの現状を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)、名古屋40㎞圏(愛知・岐阜・三重)
調査対象 : 15~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 2009年3月
サンプル数 : 2,781名(有効回収)
※ウェイトバック処理後のサンプル数は4,327サンプル。集計においては、人口構成比を反映するように統計上の処理(ウェイトバック)を実施。本報告においては、ウェイトバック処理後の数値を使用している。
*2 「生活定点2008」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。
*3 「家庭内行動の外部化実態調査」
調査目的 : 家庭内行動の外部化実態とその理由を明らかにする。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)
調査対象 : 18~75歳の男女(生活総研オリジナル調査パネル「生活発見パートナーズ」)
調査方法 : 郵送法
調査時期 : 2009年6月
サンプル数 : 413名(有効回収)