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エキナナ(駅七)欲

~駅は時代の欲求を映す鏡!?~

博報堂生活総合研究所 主任研究員
筧 裕介

 「エキナカ」と呼ばれる駅構内の商業施設が次々とオープンしています。駅のなかで美味しいスイーツを食べたり、思いがけない本に出会ったり、ちょっとした手土産を探したり、駅が単なる目的地までの通過点ではなく、時間を過ごす場所に変わりつつあるようです。そこで、生活者に駅に対しての思いをさまざまな角度から聞いてみました。その回答から、駅は生活者の欲望が渦巻く現代社会の縮図のような場所であることが見えてきました。


エキナナ欲:駅に対する7つの欲求

 何気なく毎日利用している駅。生活者はこの空間に何を求めているのだろうか?
 413人の生活者(博報堂生活総合研究所の調査パネル・生活発見パートナーズの登録者/首都圏在住の男女10~70代)に「駅に欲しいもの(施設、サービス、モノ、人など)」と「その理由」をたずねたところ、363人から合計1330の生活者の声が集まった。この声を分類し、駅に求めている欲求を構造的に分析することを試みた。その結果、生活者の駅に対する欲求が7つ発見された(図)。

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①足りないものを補って欲しい【生活補完欲求】

 駅という場所には、『毎日の生活で足りないものを補うサプリメントのような存在になって欲しい』。そんな声が聞こえてくる。通勤・通学している人にとって、自宅の最寄り駅は1日2回必ず通過する場所である。この毎日の通過点上に、スーパー、銀行、役所、宅配便、クリーニング店、レンタルビデオ店など、生活に必要な品々、サービス、娯楽等がすべて揃っていることを期待している。普段、時間がなくてできないこと、行けないところを補って欲しいのだ。
 この欲求は全回答の4割弱を占めており、期待は大きい。現代人の生活を24時間補う、コンビニエンスストアのような存在とも言える。コンビニが生活者のニーズに応えるため、コピー機、ATM、クリーニングと次々に新しいサービスを提供し続けているように、駅も貪欲な生活者のニーズに応え続ける必要があるのかもしれない。


② 仕事の疲労、家庭のストレスからの【快復欲求】

 2番目は、『少しだけ休みたい、快速にリフレッシュしたい欲求』だ。駅や電車のなかでは、疲れた表情の人をよく見かける。現代人は睡眠不足がちで、そんな私も朝の通勤列車ではしばし眠気に襲われる。また、夜の帰宅時の列車では、1日の疲れがどっと出てくることがある。
 現代は高ストレス社会だと言われている。生活定点調査によると、ストレス度(ストレスを感じている人の割合)は7割前後で過去10年間ほとんど変化がない(グラフ1)。

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 ストレスの原因を見てみると、1位:職場の人間関係、2位:自分の将来のこと、3位:家庭の人間関係、4位:人間関係以外の職場のこと、5位:人間関係以外の家庭のこと、と続く(グラフ2)。ちなみに、通勤や通学のことは5.9%とそれほどストレス源にはなっていないようだ。しかし、高ストレス社会では、職場(学校)と家庭双方にストレスの素があり、駅はこの2つをつないでいるものだとも言える。二大ストレス空間から逃避することができる「第三の場」としての機能が駅に求められている。

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③進路選択のための【情報検索欲求】

 3番目の欲求は、情報化社会の象徴とも言える『検索したい欲求』である。駅は行動の起点であり、岐路となる場所である。目的地が定まっていても、上りか下りか、総武線か中央線か、各駅停車か快速か、さまざまな決断を迫られる。目的地が曖昧な場合は、行動を決める場ともなる。それを後押ししてくれる存在として、パソコンに代表される情報端末による「検索」という行為が求められている。


④誰もが公平、平等に利用できる【ユニバーサル欲求】

 4番目の欲求は、これからの時代に向けて高まるものに違いない。この欲求はさらに2つに分けられる。
 1つは『物理的に誰もが使いやすい環境、バリアフリー環境に対する欲求』である。階段横のスロープやエレベーター、エスカレーターなど駅施設に対するものがその代表である。
 もう1つは、子どもや高齢者などを身内に持つ人が、その制限を受けずに駅を利用して移動したいという、『制限からの解放を求める欲求』である。「託児所」や「介護施設」のニーズがそれにあたる。共働きや母子家庭の保護者は、子どもを誰かに預かってもらわなければ働くことが難しい。そういう人は、駅を通過しながら、ここに「預けることができれば...」と悔しい思いをしているようだ。また、ペットを預けたい、世話をしてもらいたいという意見も多数見られた。少子国家・日本では、すでに子ども(15歳未満)の数をペットの数が上回っており、今後もこのニーズは高まるであろう(グラフ3)。

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⑤【自衛欲求】
⑥【日常の贅沢欲求】
⑦【ひまづかい欲求】

 残りの3つをまとめて紹介する。駅のなかには怖い、汚い場所がまだまだたくさんあるようだ。ホームの転落防止の柵、清潔なトイレ、防犯ブザーなど、自分の身の安全、安心を守りたい、そんな生活者の切なる願いが『自衛に対する欲求』である。
 『日常の贅沢に対する欲求』とは、エキナカの商業施設に対するニーズであろう。ちょっと美味しいものを食べたい、空いた時間でネイルサロンに行きたいなど、わざわざ寄り道をするほどではないが、会社や学校の行き帰りに少しだけ贅沢をしたい、自分にご褒美をあげたい、一人の夜を楽しみたい、そんな気持ちが生活者のなかには確実に存在する。
 電車をはじめとした公共交通機関は、必ず時間の「すきま」が生まれる乗り物である。駅では必ず電車を待つことになる。この時間をもっと活用したい、楽しみたいと生活者は思っている。単にヒマをつぶしたいという声だけでなく、もっと積極的に活用したいという『ヒマの活用への欲求』が感じ取れる。


駅は日本の社会課題の縮図

 生活者の駅に対する欲求、エキナナ欲をすべて見てみると、駅が、日本の抱えるさまざまな社会的課題がギュッと詰まった縮図のような場所に思えてきた。
 高度経済成長期からバブル経済期までは、人口の増加、住宅地の郊外化が進み、通勤ラッシュや長距離通勤という現象が社会問題化した。景気が急激に悪化し、社会に不安やストレスが蔓延している現在は、駅に安全・安心や休息を求める気持ちが高まっている。また、高齢社会の到来に伴い、バリアフリーな設計や介護施設への期待が高まり、女性の社会進出による共働き世帯の増加は育児施設のニーズにつながっている。
 都心の駅ほど、利用人口密度(一定面積当たりの1日当たりの延べ利用人口)が高い場所はないであろう。だからこそ、現在の日本が抱えている問題と、その解決に対する生活者の欲求がぐつぐつと煮詰まっているのであろう。
 駅を見れば、いまの日本が分かる。エキナカ観察こそが今日のビジネスマン、行政マンに求められる行動なのかもしれない。


(掲載 : JRガゼット・2009年12月号・株式会社交通新聞社)


調査概要

「生活定点」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。

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