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セルフヘルプの時代

~自助への投資が市場を拓く~

博報堂生活総合研究所 所長
嶋本 達嗣

 世界同時不況から1年余。人々は抜本的な生き方の見直しを迫られています。経済や労働環境のみならず、治安や教育が崩壊していくなかで、「いかにこの厳しい時代を生き残っていくか」が、生活者のテーマになっています。また、溢れる情報に惑わされたり、溺れたりしないためのネット・リテラシーづくりも大きな課題です。自分の力で自分を守ることが求められる時代。今回は、『自助する暮らし』という視点から、新しい消費のあり方を考えていきます。


カラダもアタマも自己責任

 博報堂生活総合研究所の【生活定点調査】では、さまざまな角度から生活者の意識変化を時系列観測している。年を追うごとに上昇している意識もあれば、下降していく意識もあり、このキモチの上下変動から生活者の進路が見えてくる。
 たとえば、「将来の保障(年金・保険など)に満足している」の回答率は、1992年以降下がり続け、2008年には5.0%を切ってしまっている。将来への不安の深さを象徴する動きと言えよう。一方で、「健康診断・予防を含む医療にお金をかけたい」の回答率は上昇を続け、2008年には3割を超えて過去最高値を記録した(グラフ1)。上下する2つのデータからは、制度によって保護される時代は終わり、自分で自分の健康に投資していかなければ身を守れないという意識が読み取れる。

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 社会基盤に依存できないという危機意識は、年金保障にとどまらない。「高い教育水準が日本の誇りだと思う」の回答率は、1992年の46.2%から2008年の19.8%へと大幅に下降している。教育関連で上昇している意識は、「子どものための教養・勉強にお金をかけたい」で、2008年の回答率は過去最高値を示している(グラフ2)。教育も健康管理と同様、自助努力へと向かっている。「カラダづくりも、アタマづくりも自己責任の時代」、それが生活者の認識だ。今後は、身体と知への自己投資が広がっていくだろう。

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選力が生きる杖になる

 検索エンジンで情報入手、ブログで発信、SNSで関係づくり、ネット通販でショッピング・・・、いま人々は、リアルな暮らしの場とオンライン上をハイブリッドに生きている。それは自由で便利な生活であると同時に、どんな情報を選択、信頼するのかという主体性と選び取る力が問われる生活でもある。
 【生活定点調査】の情報関連項目を見てみよう。「情報は多ければ多いほどいい」という回答率は、1996年から下降の一途を辿っている。逆に、「(自分の)情報処理能力は高い方だ」の回答率は上昇を続け、2008年には32.4%と最高値に達した(グラフ3)。人々は幅広い情報に素早く触れられる環境を享受しつつも、その難しさや課題も認識している――自由に選べる時代とは、選ぶ力がないと生きられない時代だということを。情報を取捨していくための処理能力を高めるとは、自分基準を持つということだ。先に提示した健康の自己管理がリアルライフでの自助力であるとすれば、情報の選力はネットライフでの自助力ということになるだろう。

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セルフヘルプの時代へ

 自力で自分の人生を経営する、そんな意識がこれからの生活者の目標になっていくだろう。いわば「セルフヘルプ」の時代だ。健康づくりから情報武装まで、自立自助を支援するモノやサービスにお金を投下する人々が増え、そこに市場ができあがると思われる。
 すでにそうした胎動は表われ始めている。たとえば、子どもたちの身体能力の低下が問題視されているが、体育インストラクターを自宅へ派遣する「スポーツ家庭教師」サービスの登場は、子どもの将来を見据えた自助支援産業にも見える。また、高齢の男性向けの料理教室が活況を呈している様も、男の生活自助力を鍛えようとする志向を感じさせる現象だ。
 自分の身の安全を自分で守るためのモノやサービスも注目されている。治安が崩壊していく社会では、防犯のシステムも自分で持たなければならない。近年、靴や服にGPSの発信モジュールを埋め込んだ製品が話題になっている。暴漢や誘拐に備え、緊急時には自分の位置情報をセキュリティ・センターへ通報できる仕組みだ。また、災害時の倒壊や安全の情報を個々人の携帯電話に配信するサービスの実験も始まっている。これまでファッションやコミュニケーション・ツールととらえられていた財が、「防具」へと変わってきているわけだ。今後の社会においては、これら自助の装備が必需品となっていくかもしれない。
 セルフヘルプの時代は、甘えや依存を許さない「辛さ」を連想させるかも知れない。しかし、一人ひとりが主体的に生きる力を蓄え、その安心を礎に豊かな人間関係を築こうとするのであれば、健全な共生につながっていくだろう。欧米の慣用句に≪Self-help is the best help. (自助は最上の助け)≫というフレーズがある。厳しい時代環境下においてこそ、こうした価値観を生活者の活力へと転換していくことが重要だと思われる。


(掲載 : JRガゼット・2010年1月号・株式会社交通新聞社)


調査概要

「生活定点」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。

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