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定着する現実的な思考

~厳しい時代のなかで変化する生活者の意識~

博報堂生活総合研究所 エグゼクティブ・フェロー
関沢 英彦

 時代の厳しさのなかで、生活者の感情は、決して明るいとは言えません。しかし、現状を打破するためには、現実的な考え方が必要であるという共通認識が生まれてきたのも事実です。博報堂生活総合研究所の【生活定点調査】の結果を見ていくと、「環境保護のためには、原発を容認」「制度改革のためには、国民背番号制も必要」「将来のためには消費税の増税も」などの意識変化が進んでいく可能性も予測されます。


否定的な感情を乗り越えて

 この連載をご覧になってきた方は、すでにご承知のとおり、いま日本の人々の気持ちは暗い。博報堂生活総合研究所の【生活定点調査】によれば、世の中に対して「いやなこと・腹の立つこと」を感じている人は76.2%、「気がかり・不安」を感じている人は72.4%にのぼっている(2008年/グラフ1)。

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 世界金融危機が本格的に日本に上陸する以前の2008年の時点で、すでに「経済余裕度がない」「暮らし向きが苦しくなった」という人は過去最高であった。「世の中の変化が多すぎる」と考える人も、6割と過去の調査で最高である。
 だが、こうした厳しい経済環境のなかで、人々は意気消沈しているだけかといえば、そうではない。
 世の中を変えるために、現実的な施策が必要であり、時によっては、生活者の負担が増えても引き受ける覚悟を持ち始めている。


環境保護のためには原発を受け入れる

 たとえば、環境問題について、「地球環境の破壊につながる商品が売れてしまうのは買う方に責任がある」と答えた人は32.0%と高くなった。「地球環境保護を考えている」に「はい」と回答した人は67.0%。「地球環境保護を実行している」と回答した人は52.7%と過去最高となった(2008年/グラフ2)。

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 2020年に温室効果ガスを1990年比25%削減するという中期目標を達成するためには、原発という発電手段をはずすことはできない。1980年の国民投票で原発全廃を決めたスウェーデンも、2009年には原発の建て替えを容認する方針に変わった。ドイツ、イギリス、フィンランドなども、原発を再評価する方向である。
 日本の人々の意識も「必要派」が増えている(グラフ3)。男女差が、1998年には
20ポイント以上あったのが、2008年には17ポイント程度に縮まっているのも興味深い。

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 内閣府が2009年に実施した「原子力に関する特別世論調査」によれば、原発を「安心だ」という人は、前回の2005年調査から17ポイント増えて42%に上昇した。原発を「推進すべき」と考える人は、6割にのぼっている。「発電の過程で二酸化炭素が排出されず温暖化防止に貢献する」という人は、5割へと14ポイント伸びている。


国民背番号制へのアレルギーが消えた

 給付付き税額控除や最低保障年金など、新しい施策のために、納税者番号制度の導入が目指されている。かつて、国民背番号制を取り入れようとして世論の反対にあったが、国民の意識は大きく変化した(グラフ4)。

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 国民背番号制の反対意見としては、「個人のプライバシーを守れない懸念がある」というものであった。だが、1998年には4割近い人がそうした心配をしていたのが、10年後には2割強に低下した。
 現在、国民の所得の捕捉率は業種ごとに違いがあると言われている。給与所得者の場合、9割が確実に捕捉される。一方、事業所得者は6割、農業所得者は4割程度だと推測されている。これをもって、クロヨン(9・6・4)と呼ぶわけだが、こうした「不公平」を是正して、税金や年金の改革に結びつけるべきだという現実的な考えが、生活者にも理解されるようになった。
 一元管理ができるようになれば、株式譲渡益・配当・定期利子を共通化した一体的税制が可能になる。毎年一定限度であれば、運用益を非課税にする税制も推進できる。年金、医療、介護の給付と負担の関係も明確になる。高齢化が進む日本では、こうした制度改革を進めるために、何らかの国民背番号が求められるという認識が広がってきた。
 経済環境の厳しいなかでも、「いまの税金は高すぎる」と考える人は、10年間に約20ポイントも低下した(グラフ5)。

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そうした見解にいたった1つの背景として、「多少税金が高くなっても福祉を充実させるべきだと思う」という人は少しずつ上昇しており、3割強である。
 もちろん、これをもって消費税の引き上げに「賛成」とは言えない。だが、2つのグラフが教えてくれるのは、きちっと説明されれば、生活者は増税を受け入れる「用意」があるということだ。


消費のリアリズムはどこへいく?

 社会的な現実主義の意識について見てきた。では、消費においては、そうした変化はどのように反映するのだろうか。
 たとえば、価格と価値が見合っているかを厳しくチェックする態度に表れている。もちろん、その背景には生活者の懐具合が寂しいということがある。
 だが、それ以上に、企業と商品が、いまの時代において、現実的な対応をしているのかといった判断基準を大切にしていると言えよう。企業が、世の中を後追いする形で、仕方なく低価格品を出すのではなく、商品のあり方、素材の購入、生産工程などのすべてを見直して、価格と価値の新しいバランスを見出しているか。それを生活者は見ている。
 こうした生活者には、表面的な対応ではなく、きちっと語りかけることが求められる。企業が、どの程度、現実を読み切ったうえで、腹をくくってその商品を出しているのか。そうした姿勢・態度・哲学の表明が求められるのである。


(掲載 : JRガゼット・2010年2月号・株式会社交通新聞社)


調査概要

「生活定点」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。

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