生活定点

日本の生活観測広場

生活定点 > テーマ分析レポート > 時間のデザイン

時間のデザイン

~「生活時間」のダイヤ改正が始まる~

博報堂生活総合研究所 生活表現グループ マネージャー
高橋 哲久

 早いもので2010年も半分が過ぎようとしています。このような時間の経過を早いと思うかどうかには個人差がありますが、時代は確実に高速化の一途を歩んできました。移動手段や情報通信は、高速化社会の象徴とも言えるように目ざましく進化しています。そのようななかで、生活者は、どのような「時間感覚」で生活という旅を続けているのでしょう? 今月は、先行きの見通しがつきにくいこのような時代の「生活時間」のあり方について考えてみました。


イライラする時間

 【生活定点調査】では、生活者のさまざまな価値観について調査している。まず、生活者の「時間感覚」を知るためにシンプルな数字から見てみよう。提示した4つの出来事のうち、「あなたは何分くらい待つとイライラし始めますか?」という質問への回答である。最も多いのは「友人を待っている時間」の86.7%で、イライラし始める時間は平均19.86分だった。2位が「スーパーのレジで並んで待つ時間」の80.0%で、平均時間は6.76分。3位が「電車が来るのを待っている時間」の76.2%で平均11.27分、4位が「結婚式などでスピーチを聞いている時間」の68.7%で平均11.74分であった(表1)。これらは、10年間の時系列データで見ても大きく変動していない。社会の高速化に反して、精神的な余裕、あるいはおおらかさがあるようにも見える。

201006-h01.jpg
 しかし、生活のゆとりを見てみると、「時間的ゆとりがある方」という回答は56.0%と過半数を超えているものの、残りの半数近くは「ゆとりがない方」と答えている(表2)。さらに時系列変化を見てみると、「ゆとりがある方」と答えた人は1998年の59.3%から下降傾向にあり、生活者は時間的ゆとりを失い、高速化社会に息切れを感じている様子がうかがえる。


201006-h02.jpg

増やしたい時間

 ここ十数年間で、生活者の「時間」に対する価値観に変化が現れているようだ。「今後増やしたいと思っている時間」は何か。1位は「趣味にかける時間」(59.4%)、2位は「睡眠時間」(57.1%)、3位は「家族と過ごす時間」(41.4%)。次いで「親しい友人と過ごす時間」(40.6%)、「休息・静養にあてる時間」(37.5%)、「ひとりで過ごす時間」(32.2%)という結果だった(グラフ)。
 波形の推移で見ると、「家族との時間を増やしたい」ものの、「睡眠時間」や「ひとりで過ごす時間」といった、よりプライベートな時間を大切にし、さらに「休息」を求めている。ゆとりを取り戻すため、「生活時間」を改編しようという姿がうかがえる。


201006-01.jpg

「速度」で分類できる生活者

 以上の結果からも分かるように、生活に高速化を感じている生活者だが、その速度に対する欲求と実態はどうなっているのだろう。「あなたは生活行動を手早くやりたい方ですか?」という問い対して、53.8%がイエスと回答し、「ゆっくりやりたい方」と答えた人は46.1%。これらの速度欲求に対して、実際の行動は「手早くやっている」と答えた人が65.7%、「ゆっくりやっている」と答えた人が34.1%だった(表3)。

201006-h03.jpg
 欲求も実態も「手早く」の回答が高かったが、この「速度実態」と「速度欲求」によって、生活者を4つのタイプに分けてみた(図)。実態も欲求も高速な「純高速型」、実態は高速だが低速を望む「強制高速型」、実態は低速だが高速を望む「不満低速型」、実態も欲求も低速な「純低速型」である。分布を見ると「手早くやりたくて、実際に手早くやっている」という「純高速型」が4割強の層を形成していることが分かる。ところが10年間のスパンで見ると、このバランスに変化が表れてきた。「純高速型」の減少と「純低速型」の増加である。また、2割を占める「強制高速型」は、本来は「ゆっくりやりたい」のだが「手早くやっている」人たちであり、潜在的には行動も「ゆっくり」へと向かいたい層である。この層を「純低速型」予備軍と考えて「純低速型」とあわせると、「純高速型」と拮抗する。これからは、このようなバランスで生活者の「時間感覚」を考えなければならない。

201006-f01.jpg

新しい生活時間のデザインへ

 生活者の「時間」に対する価値観変化を見てきたが、長期的に「時間感覚」に影響を与えたものを考えてみる。1964年に開業した東海道新幹線は、東京~新大阪間をそれまでの約3倍のスピードで結び、高度成長期から高速社会への変遷は流通やビジネスのあり方を変え、人々の意識変化に大きく作用した。もう1つは、高速化と比例するよう伸長した日本人の平均寿命である(*)。50年間で15歳以上延びており、「時間感覚」に与える影響は大きいと考えられる。
 現代の平均寿命を言い換えて、「人生は3万日の旅」という言葉が耳慣れたものになった。成人するまでが約7500日。就職して退職するまでが約1万5000日。定年後が約7500日という時間デザインによる生活設計の考え方だ。時間は1日24時間と有限だが、高速化と寿命の延びは「時間感覚」を変えようとしている。生活者は、1990年代から2000年代の不況のなかで生活予算の配分を再編してきた。増えない収入のなかで削るものと、お金をかけるものとの取捨選択を行った。同様に「時間」による生活の再編も始まっている。時間編集の手段は生活者によってさまざまだが、「人生4万日」も夢ではない時代に入り、「時間」で分類された市場・サービスなども必要になるだろう。
 生活時間再編時代の企業課題とは、これまでは商品・サービスを「価格」や「品質」という軸だけで考えていたが、今後は「時間軸」でメニュー化することも大切になるということだ。たとえば、時間の長さでメニューが組まれたレストラン、滞在する時間の長さでデザインされた「駅ナカ」などが考えられる。このことは、「食品市場」や「家電市場」といった従来の商品カテゴリーではなく、生活速度で分類した4つのタイプのように、「純低速型向け市場」といった新たな市場区分が求められるようになることを示している。「生活時間のダイヤ改正」は、すでに生活者の側で始まっている。新たな市場開発のために、商品やサービスを「時間のデザイン」で考えてみてはいかがだろう。


(*)日本人の平均寿命
 〔2008年〕
 男性79.29歳/女性86.05歳
 〔1958年〕
 男性64.98歳/女性 69.61歳
 (厚生労働省・簡易余命表より)



(掲載 : JRガゼット・2010年6月号・株式会社交通新聞社)


調査概要

「生活定点」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。

INDEX

  • 日本の生活観測広場とは
  • 生活動力
  • 生活造形ラボ
  • 生活定点
  • スケール・ジャパン
  • 消費意欲指数
  • その他の研究プロジェクト

PAGE TOP