ヒンドソング 昭和to令和♪ヒンドソング 昭和to令和♪

昭和から令和のヒット曲 約4,100曲の歌詞を分析。
さらにAIによる楽曲制作にトライしました。

本研究は1989年に発表した
生活新聞「昭和ヒンド(頻度)ソング」のリバイバルリサーチです。

ひらけ、みらい。生活総研ひらけ、みらい。生活総研

生活新聞
NO.139

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1989年の研究を読む

恋の歌は、もう流行らない?!

昭和〜令和ヒット曲歌詞分析

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歌は世につれ、世は歌につれ

博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)では1989年に、昭和の時代変遷を2,700曲の歌詞にあらわれる言葉の頻度の違いから探った「昭和ヒンド(頻度)ソング」(「生活新聞」)を発刊しました。そしてこのたび、設立40周年を記念したリバイバル研究を実施。昭和から令和のヒット約4,100曲を歌詞分析し、さらにAIを活用した楽曲制作に取り組むことにしました。

今回紹介するのは、その第一弾企画となるヒット曲歌詞分析の結果です。歌は、時代を映す鏡であると言われます。昭和から平成、令和という時代変化のなかで、ヒット曲はどのように変化してきたのかみていきましょう。

具体的な分析手法としては、1980~2020年のオリコンランキング上位約4,100曲をリストアップ。英語のみ・歌詞なしの曲をのぞいた4,017曲について、テキストマイニングソフト「KH Coder」を用い、歌詞に含まれる単語の推移を調べ、分析を行いました。(1980~2019年はオリコン年間シングルランキング上位100位、2020年のみオリコン年間合算シングルランキング上位100位のデータを使用しています。)

恋の歌は、もう流行らない?!

冒頭で紹介した動画はヒット曲に頻出する名詞ランキングの推移をまとめたものです。

動画キャプチャ

年代別にランキング上位の名詞をみると、1980~90年代は「恋」「瞳」「夜」「夏」「男」「女」、1990年代後半~2000年代は「空」「明日」、そして2010~20年代には「自分」「手」「未来」「世界」がよく使われていました。

1980~90年代には、夜に夏に恋をわずらう男女の様子が、1990年代後半~2000年代になると長引く不況の影響からか、空を見上げ明日を模索する姿が歌われるようになったのです。そして直近の2010~20年代には、自分の手で、あるいは人と手をとりあい、未来や世界を拓く前向きさが歌われるようになりました。

近年のヒット曲では、1980~90年代の歌詞に頻繁に登場した「恋」や「愛」、および恋愛を連想させる言葉は軒並み頻出名詞のランキングで順位を落としてしまいました。果たして、以前はヒット曲の定番中の定番だった恋の歌は、2000年代以降は流行らなくなってしまったのでしょうか。この点については、他の品詞の分析を含め掘り下げていきましょう。まずは代名詞からみていきます。

ジェンダーレス化する代名詞

こちらの図は、歌詞に含まれる一人称、二人称代名詞を年ごとに曲数で集計し、推移を波形にしたものです。(集計は過去2年を含めた移動平均値で、漢字/かな/カナ表記を合算しています。 例えば1982年の数値は1980~82年の3カ年の平均値としています。)

動画キャプチャ動画キャプチャ

一人称、二人称代名詞の年次推移をみると、連動して動くペアがみえてきます。まず、ピンク色の「私」と「あなた」、次に緑色の「僕」と「君」、そして、グラフ下部で推移している青色の「俺」と「お前」です。1980~90年代初頭までは「私」と「あなた」のペアが最も使われていましたが、1990年代後半になると「僕」と「君」のペアがトップの座を奪ったことがわかります。

「僕」という言葉は男性が使う一人称というイメージがありますが、実際に歌詞とアーティストをみてみると、男性アーティストだけでなく女性アーティストでも「僕」が使われていました。上の図で「僕」「君」が増加し始める1990年代後半~2000年代にそれらの代名詞を使っていたのは宇多田ヒカルさん、浜崎あゆみさんなどでした。その後2000年代後半~10年代にはAKB48さんや、乃木坂46さんなどの坂道グループの曲でも「僕」「君」がよく使われています。最近ではあいみょんさんやLiSAさんなどの曲でも「僕」「君」が使われていることは記憶に新しいのではないでしょうか。

ちなみに、「俺」と「お前」のペアは1980年代には近藤真彦さんやチェッカーズさんなど男性アーティストの曲でよく使われていたものの、その後は減少していきました。

現在、歌詞で使われる代名詞は「君」と「僕」にほぼ集約されていることから、近年のジェンダーレス化の波は、歌詞にもあらわれてきている、といえそうです。


次の図は、一人称代名詞「僕」「私」「俺」、二人称代名詞「君」「あなた」「お前」をそれぞれ年ごとに足しあげた総曲数、そして不定称の「誰」を使った曲数を推移であらわしたものです。

動画キャプチャ動画キャプチャ

この図からは、一人称、二人称代名詞が共に、昔も現在も変わらずに歌われていることが読み取れます。しかしながら実際の歌詞をみると、二人称については「あなた」「お前」を含む多くの曲は恋愛の歌であることが推測されるのですが、「君」を含む曲は必ずしも恋愛の歌とは言い切れないものも一定数存在します。つまり、「あなた」「お前」は恋人/想い人を指すことが主な用法であるのに対し、「君」の用法はより汎用的で、曲の受け取り手によってどんな風にも受け止められる“広義な”(恋愛とは限らない)相手を指すのかもしれません。いうなれば、「君」は自分にとって“関係の近い人”であり、恋人や親友、家族、あるいは推しなど、聴き手がそれをどう受け止めても成立する曲が近年はヒットしている… ヒット曲からは恋愛という文脈がなくなった、流行らなくなったわけではなく、いわゆる「惚れた腫れた」的なストレートな文脈が薄らいでいるだけなのかもしれません。

ちなみに、不定称代名詞の「誰」は2006年以降、右肩上がりで増えています。これは2000年半ば以降のSNSやスマートフォン、ゲームアプリの普及状況と重なるものがあります。今ここにいる“君”だけでなく、この世界のどこかにいる不特定多数の“誰か”に想いを馳せる歌もある…歌は時代を映す鏡、たる所以は、時代や社会、世相と切り離して語ることはできないところにあるのでしょう。

不況を契機に恋愛観が変化?

つづいて動詞についてみてみましょう。頻出動詞ランキング上位のなかでも41年間の変化が顕著なものをまとめたのが以下の図です。

動画キャプチャ動画キャプチャ

まず、減少傾向の動詞から紹介します。寒色系の線で示した「抱く」「愛す」「抱きしめる」は1980~90年代によく使われましたが、2000年代以降はあまり使われなくなりました。前述の名詞や代名詞の推移も含めると、「お前」を「抱く」「愛す」「抱きしめる」といった表現は2000年以降は徐々に減少していったと言えるでしょう。

代わりに、暖色系の線で示した「生きる」「信じる」「笑う」「行く」は、1990年代以降徐々に上昇し、米国で起きたリーマンショック翌年の2009年に揃ってひとつの山を築いています。金融破綻が相次いだ1990年代後半には「空」「明日」といった名詞もよく使われていましたが、長引く不況の中で、明るく前を向こうというメッセージがよく歌われ、生活者にも支持されていたようです。また、恋愛の歌でも「君と生きる」「君と笑う」といった表現が多くみられるようになりました。抱きしめる恋から、一緒に笑う恋へ、不況の到来と共に恋愛観も変わってきたのかもしれません。

英単語の使われ方にみるSNS時代の到来?

最後に、歌詞で使われる英単語について紹介します。こちらの図はヒット曲上位100曲のなかでアルファベットを歌詞中に含む曲数を年次推移であらわしたものです。時期によって変動はあるものの、多くの期間で5割以上、2010年代半ば以降は約7割の曲で、英単語が使われています。

動画キャプチャ動画キャプチャ

なかでも41年間の推移で特徴的な言葉についてみてみましょう。

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「WE」「WORLD」といった包括性をあらわす言葉、「NOW」という現在時制をあらわす言葉は総じて増加傾向にあります。これは、2000年代半ば以降SNSやスマホの普及によってもたらされた、世界と常時接続されたメディア環境と無縁ではないかもしれません。

ただ、ここ数年だけでみると、これらの英単語の出現曲数は減少に転じています。アルファベットを含む総曲数には大きな減少はみられないものの、何か傾向の変化が生じているのかもしれません。これについては、また別の機会に分析したいと考えています。

恋愛の歌が流行らないわけではない

ここまでの話をまとめます。「恋」「男」「女」「愛す」「抱きしめる」など、恋愛を連想させる言葉は近年総じて減少しました。その代わり、「未来」「世界」「生きる」「笑う」といった前向きな言葉がよく使われるようになりました。二人称代名詞も「あなた」「お前」から「君」に集約しています。「君」という言葉は、恋人や想い人はもちろんのこと、親友や家族あるいは“推し”に置き換えても成立しますし、だからこそ生活者に「君」を使った歌詞が受け入れられている、ということかもしれません。「君を抱きしめる」などの表現は主に恋愛を歌う曲で使われますが、「君と生きる」「君と笑う」などの表現は、恋愛を歌う曲はもちろんのこと、友情、家族、夢や人生がテーマの曲でも使われます。恋愛を直接的に連想させる言葉が歌詞で使われることが少なくなったとはいえ、恋の歌はもう流行らないわけではない… 聴き手によって、恋愛の歌とも、他の意味にも解釈できる汎用性の高い歌が流行っている、ということがいえそうです。

年代別ヒンド(頻度)ソング制作中!

今回のリバイバル研究では、第二弾企画として、年代別に特徴的に使用されている言葉を使い、AIによる作詞・作曲で年代別「ヒンド(頻度)ソング」を制作中です。

1980~2020年代の5つの年代について、年代別に特徴的な言葉を設定し、それを用いてAI作詞を行います。今回の分析で登場した言葉も多く含まれていますが、各年代で設定した特徴語は以下の通りです。

動画キャプチャ動画キャプチャ

今春公開予定のAIを活用した楽曲制作では、これらの特徴語を使って各年代の曲調を反映した楽曲を発表予定です。どうぞお楽しみに。

データ分析・記事執筆
佐藤るみこ|博報堂生活総合研究所

アニメーション制作
高瀬瞬輔