おばの財布事情

おばの財布を覗いてみたら… ミニ財布流行の時代に意外な実態も

2025.12.15

2025 12 月号

みなさんこんにちは。研究員の田山です。私たちは「おばさん」への親しみと愛情をこめて「おば」と表現し、現代の「おば」のライフスタイルを研究しています。「おば」に含まれる年齢を厳密に規定することは難しいのですが、私たちは「おば」の中心を「40~50代女性」と捉えています。さて、6月号の第一弾に続き、第二弾は「おばの財布」について取り上げたいと思います。

生活総研では、生活者が衣・食・住などのテーマで撮影した写真を収集・分析する「生活写真調査」を定期的に行っています。この度、「カバンの中身」調査で発見した「おばの財布」についての興味深い発見をご紹介しましょう(博報堂生活総合研究所「生活写真調査『カバンの中身』」 全国、20~69歳男女、443人、2025年5月、インターネット調査)。

キャッシュレス時代、財布のミニ化が定番に

近年、キャッシュレス決済の普及により、現金を使う機会が少なくなった人も多いのではないでしょうか? かつては、財布というと長財布や折りたたみ財布が定番でしたが、最近では各ブランドから名刺サイズの小さな財布やカードケース、コインケースのラインナップを目にします。さらには100円ショップの小さなクリアポーチを財布として活用する“100均財布界隈”がSNSで注目を集めました。

生活総研が2025年に実施した「カバンの中身」調査でも、20代女性31人のうち25人が折りたたみ財布やミニ財布を使用していることがわかりました。財布のミニ化は若い女性を中心にすでに生活者に定着しつつあるといえそうです。

おばの財布事情

13年前から変わらない40~50代おばの長財布主義

6月号の第一弾で『おばさんは43歳から』というデータを発表しましたので、今回は40代および50代おばの財布の形態について取り上げたいと思います。おばもトレンドのミニ財布を持ち歩いているのでしょうか。実は、今回の「カバンの中身」調査では、40~50代おば132人のうち、半数の66人が長財布保有者であることがわかりました。

おばの財布事情

生活総研では2012年にも「カバンの中身」調査を実施しており、同様に財布についても聴取しています。上記は2012年と2025年の実際に生活者から寄せられたカバンの中身の写真です。総数が少ないため参考値となりますが、当時の40~50代おばも約半数が長財布を保有していました。

そして、長財布の外観をみてみると素材は革製が多く厚みがあり、カバンの中でもひと際高い存在感を放っています。13年の時が流れても長財布の形状自体に大きな変化はないようです。ここからは、トレンドがミニ財布になっても、13年もの月日が経っても長財布主義を貫くおばの価値観について理解を深めたいと思います。

長財布に込められた、“便利さ”では測れない価値

財布の形態が長財布なことはわかりましたが、中身には何を入れているのでしょうか? 現金、クレジットカード、免許証など定番の貴重品だけではなく、「え!それも?!」というものまで携えていたのです。

まず、所持金について。40~50代おばの財布に入っている所持金の平均金額は11,291円でした。20代女性の平均金額が7,185円なので約4,000円多く所持していることになります。子どもの学校関係、町内会、病院などキャッシュレス非対応の支払いは案外多く、現金やレシートを整理できる長財布が実用的なのでしょう。さらに、長財布は紙幣を折らずに入れられるので、“お金を丁寧に扱う”という世代的な金銭観が残っているのかもしれません。

日常的にマルチタスクをこなす、おば

現金やクレジットカードのほかで特徴的なアイテムについてですが、まず「割引に使えるクーポン券/カード」や「お店のメンバーズカード(ポイントカードやスタンプカード)」がみられました。割引に使えるクーポン券/カードの保有数は約2.3枚、お店のメンバーズカードに至っては約5.5枚も保有しており、20代女性は2.9枚なので約2倍近く保有しているんです。これらは購買金額に応じて特典が得られたり、割引が適用されたりと意外と恩恵は大きく侮れません。持ち歩きが億劫でつい手放してしまいがちですが、家計を預かるおばにとっては身軽さよりお得さを重視するという胸の内がうかがえます。

また、「レシート/領収書」や「クリーニング、予約商品の受け取り券」も散見されました。まるで、仕事や家計の支払いなどマルチタスクを担うおばの残タスクのログが長財布に集積しているようです。自身の買い物や物品の受け取りだけではなく、家族の分も代替して対応している姿が想像できます。

自分時間を愛でるおば

ポイントカードやレシート以外の紙モノでは、「図書館やジム、習いごとなどの利用カード」までもが長財布に収められていました。現代ではスマホで手軽に管理ができそうですが、おばはアナログを慈しむカード派といったところでしょうか。カバンのポケットなどには入れずに、丁寧に財布に常備しているところから、高頻度で図書館やジムなどを利用していることが想像できます。仕事や家事育児に追われながらも、自分を整える習慣を大切にしたいというおばの意識がうかがえます。

おばの財布事情

このように、一見トレンドに逆行しているようにみえますが、おばの長財布には慌ただしい日常のやりくりやこだわりが詰まっていたのです。そこには、不便を我慢しているのではなく、リスクヘッジやひと時のリセットのために自身が好んで選択しているという意思を感じ取ることができました。

6月号の第一弾では、美容やファッションを諦めずに「ひとり欲」を高めながら、デジタルツールを活用する新時代のおばの特徴を明らかにしましたが、今回は財布という生活に欠かせない暮らしのアイテムに焦点をあててみると、意外にもテクノロジーの進化やトレンドに左右されることなく、日常のマルチタスクを果たしながら家計の要として大役を務めるおばの側面がみえてきました。

今後も様々な角度からおばの実態をみつめ、小さな兆しを見逃さずに、39歳プレおばとして活動していく所存です。