10代の次は40代?ヒット曲の謎

10代の次は40代?  「飛び石」で歌われるカラオケ曲の謎 

2025.10.20

2025 10 月号

研究員の伊藤耕太です。大学の講義をする機会も多いのですが、令和の学生さんたちが昭和の歌謡曲をカラオケで歌えることに驚く日々です。さて私たち博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)は、現代の若者、Z世代とその親が趣味や価値観を共有する新しい親子像を「Z家族」と名づけ、研究してきました。主要な調査は、19~22歳の未婚男女を対象に30年スパンで実施した時系列調査「若者調査」です。

その結果からは、Z世代の約6割が親と同じ趣味を持つなど、親子のつながりがより強くなっていることがわかってきました。こうした親子関係の密接さは、娯楽や文化的な活動にも表れているようで、例えば性年代別のカラオケランキングのデータ(※)を通して、その一端を垣間見ることができます。

男性歌唱データにおける10代・40代の共通ランクイン

私たちが着目したのは、ある楽曲が「10代」と、その親世代にあたる「40代」で共に人気な一方、間の「20代」「30代」ではあまり歌われていない、という不思議なケースです。世代を飛び越えてヒットが伝播しているようにみえることから、私たちはこの現象を「飛び石ヒット」と名づけました。これは、親世代と子世代の間で、音楽の好みが影響しあっている可能性を示唆しているのかもしれません。

次に示すふたつの2024年のカラオケランキングのグラフは、この「飛び石」現象を可視化したものです。グラフの見方について少しご説明します。このグラフでは、横軸の年齢層が変わると、それぞれの曲(一本一本の線)のカラオケ順位(縦軸)がどう変化するかを表しています。順位は、グラフの上に行くほど高くなります。

背景にある無数の灰色の線は、ランクインした全楽曲の動きです。その中でひときわ目立つ色付きの線が、今回注目している「飛び石ヒット」曲です。これらの線が描く、10代から40代にかけて、飛び石になっていたり、谷を描いたりしているような軌跡に着目してみましょう。

例えば男性の歌唱データに注目すると、Vaundyさんの「タイムパラドックス」(2024年リリース)が10代・40代の双方で95位にランクインするなど、20代・30代を飛び越えてV字を描く楽曲が複数みられるのです(順位が表示されていない年齢層は200位圏外)。

男性の年齢層別カラオケランキング

また、浦島太郎(桐谷健太)さんの「海の声」(2015年リリース)も同様に飛び石でランクインしており、子世代の最新ヒットを父親世代も共有しているパターンと考えられます。一方で、過去のデータには、SMAPさんの「世界に一つだけの花」(2002年リリース)のように、かつての国民的ヒット曲が父親から子へと歌い継がれているようなケースもありました。双方向の音楽交流が起きている可能性が考えられます。

女性歌唱データにおける10代・40代の共通ヒット

女性の歌唱データでは、母親世代と子世代が歌詞の世界観やメディア体験を共有し、一緒に歌う情景が目に浮かぶような楽曲が「飛び石ヒット」となっているようにみえます。象徴的なのが、レミオロメンさんの「3月9日」(2004年リリース)です。

女性の年齢層別カラオケランキング

この曲が「直撃世代」でない10代にも歌われる背景には、とても興味深い文化の循環がありそうです。

元々結婚を祝う歌だったこの曲は、いつしか「卒業ソング」として定着していったとみられます。動画配信プラットフォームで公開されている同曲のミュージック・ビデオのコメント欄には、「明日卒業式で歌います」「今日卒業しました!」というような臨場感あるコメントも投稿されています。さらに興味深いのは、「子の卒業式を思い出します。在校生たちが歌っていて、卒業生より保護者が号泣でした」というような親側のコメントもみられることです。つまり「親から子へ」という方向だけでなく「子から親へ」という情報伝播の流れもあるわけです。

女性のデータで同様に興味深いのが、Mrs. GREEN APPLEさんの存在です。「僕のこと」(2019年リリース)などが10代と40代の女性によって歌われています。彼らは男性ハイトーンボーカルのグループですが、ハイトーンゆえに女性にとっては比較的歌いやすい、あるいは歌いたくなる曲となっていて、子と親の両方の世代にリアルタイムで歌われているという可能性もみえてきます。

「飛び石ヒット」が示す、新しい文化伝播の可能性

SNSや動画配信サービスの普及は、人びとの興味関心を細分化させ、それぞれが好むものをバラバラに楽しむ「タコツボ化」を進める、とよく言われます。しかし、今回のカラオケデータにみられる「飛び石ヒット」は、それとは異なる情報や文化の流れが存在することを示唆しているようで、非常に興味深い現象です。

「10代の次は20代」というような、世代を順番にたどる直線的な文化伝播モデルだけでは、この「飛び石」をうまく説明できません。もしかすると、SNS時代だからこそ、これまで以上に親子間、異世代間のコミュニケーションが活発になり、世代を飛び越える文化のホットラインが生まれているのかもしれません。

この興味深い現象は、カラオケに限った話ではないでしょう。生活総研の著書『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(https://seikatsusoken.jp/report/24723/)では、こうした現代の親子関係が生み出す新しい社会の兆しをさらに多角的に論じていますので、ご興味のある方はぜひお手に取ってみてください。

※JOYSOUND の会員サービス「うたスキ」歌唱データをもとにしたランキング集計より生活総研が10代から60代の年代別でTOP200にランクインしている曲を抽出した。集計期間:2012年1月1日〜2024年11月15日)