博報堂生活総合研究所 みらい博2024 ひとりマグマ 「個」の時代の新・幸福論 博報堂生活総合研究所 みらい博2024 ひとりマグマ 「個」の時代の新・幸福論
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「ひとりマグマ」
日本の未来を熱くする

ここまで「ひとり」の欲求や行動について生活者の視点でみてきました。誰もが「ひとり」欲求を持ち、新しい「ひとり」欲求も発見されてきている。しかし、その行動をはばむハードルも存在する。この状況を社会の視点で俯瞰してみると、大きなエネルギーが埋蔵されているような状況、「ひとりマグマ」とでもいえそうなイメージが思い浮かんできます。ここからは、この「ひとりマグマ」が日本に及ぼす影響を考えていきます。

これから先、世の中で多くの人が「ひとり」行動を当たり前のこととして行うようになるとしたら、それは日本の社会にとって良いことだと生活者は考えているのでしょうか。調査をしてみると、実に85.3%の人が社会にとって良いことだと回答しました。「ひとり」行動がもっと広まっていくことに関して、生活者側では歓迎する態勢が整ってきているようです。

世の中で、多くの人が「ひとり」行動を
当たり前のこととして行うようになっていくことについての意見

※「ひとり」行動を「周りに人がいる/いないにかかわらず、自ら積極的に時間をつくってひとりで行動すること」と定義して聴取

出典:博報堂生活総合研究所 「日常生活に関する意識調査(第3回)」
(2023年 20~69歳男女 2,400人 インターネット調査)

「ひとりマグマ」が
日本にもたらす可能性

「ひとりマグマ」が日本や日本人に変化をもたらすとしたら、どんなことか。まずは4つの分野での変化の可能性を考えてみました。その影響の広がりが感じられるのではないでしょうか。

「ひとり」は偶然を広げる

人と人のつながり方が変わる

「ひとり」には、人を今までの所属集団とは異なる、偶然の関係へと開いていく価値がありました。例えば地域活性化を目指して、非住民ながら地域とかかわりのある人(関係人口)を増やすために、「ひとり」行動者にアプローチするのも有効かもしれません。「地縁」より「遇縁」という考え方です。企業と顧客の関係も「ひとり」に目を向けることで偶然の広がりが生まれるかもしれません。

「ひとり」は個性を際立たせる

集団の性質や能力が変わる

「ひとり」行動によって、生活者が楽しむ対象への興味をより深くしたり、自分の欲求や考えを明確にしていくことで、生活者一人ひとりの個性が際立つようになるはずです。それは従来の日本にありがちな均質なメンバーの集団から、個性豊かでダイバーシティのある集団へと脱皮するドライバーにもなるでしょう。近い将来、AIが理路整然と正解を出す時代になったとき、人間ならではの不連続なイノベーションを起こすのはこうした集団かもしれません。

「ひとり」は自分を変化させる

人生設計の仕方が変わる

人生100年時代、そして不確実性の増すVUCAの時代には、人生を何かひとつに集中するだけでなく、人生を柔軟に変化させていく部分も必要だといわれます。「ひとり」行動をする生活者が自分の可能性をみつめ直したり、好機を最大限に利用したりすることは、その人が自ら節目をつくって変化していくきっかけになりえるでしょう。それはこれからの時代をしなやかに生き抜く力でもあるのです。

「ひとり」は新しいニーズを生む

市場の構造が変わる

これまでの商品やサービスは、家族向けか単身向けで設計されることが多かったのかもしれません。それとは別に「ひとり」向けという市場をつくれないでしょうか。これはただ単身者向けに量を減らしたり、機能や質をダウングレードすることと同じではありません。「ひとり」ならではの価値を存分に享受できるような上質な体験設計を行ったり、「ひとり」をはばむハードルに向きあい、それを越えるためのサポートをするものとして発想するのです。

「ひとりマグマ」が
日本のみらいを
熱くする

「ひとりマグマ」に
注目した市場活性化アイデア

「ひとりマグマ」で日本中の経済を活性化するための企業の施策アイデアを、新しい「ひとり」の価値を活かす視点と、「ひとり」のハードルを越える視点からいくつか例示してみます。

新しい「ひとり」の
価値を活かす

プレミアム体験の創出

「ひとり」だからと適当に済ませるのではなく、「ひとり」だからこそ良質のものに触れ、対象を味わい尽くせる体験を。例えば、「ひとり」ずつ個室で味わうフレンチや寿司の体験日をつくり、食材の産地の違い、ペアリングによる違いなどを利き分ける超集中体験を。また、歴史的建造物を独占できる時間を10分ずつ設けたり、「ひとり」専用秘境ツアーなど空間的な体験設計も。

節目の量産

「ひとり」の身軽さというメリットを活かして生活の節目を多く楽しんでもらう。例えば、インタビューにも登場した「1万日誕生日」「ひとり納会」などの記念日づくり。有給休暇を活用した「マイ3連休」を提案する弾丸旅行企画や、毎月「1日」を「ひとりの日」にするなど。節目リマインダーを活用して「今の職場で千日記念」「引越し1年記念」などささやかな節目を知りたい生活者も増えるかもしれない。

ハプニングの設計

「ひとり」だからこそ楽しい想定外が起こりやすい体験を。例えば、国内外で「大人のホームステイ」を行い、現地で家業を手伝ったり、地元の寄りあいに参加したりして通常の旅行では起こらないハプニングを呼び込むように設計する。

自己対話の提供

「ひとり」で自分の感情をしっかり受けとめ反芻する機会づくりを。例えば、映画館や舞台で心ゆくまで泣いたり笑ったりできる「ひとり」参加者限定の上演回を設置し、他者に影響されない自分だけの感じ方、考え方を確認できるようにする。また、自分の思考や発言を記録し学習したAIで自分を客観視できる自己対話体験を。

「ひとり」行動をはばむ
ハードルを越える

「ひとり」でマルチブッキング

時間という資源があったらしたいことは、「時間を重ねる」ことで省時間化して叶える。その分、ひとつひとつの体験はリッチで質の高いものに。例えば、映画を見ながら食事ができるひとり個室レストラン、ネイルとフェイスケアとヘアトリートメントが同時にできる美容サロンなど。

「ひとり」に安心保証

「ひとり」でいるところを見られる恥ずかしさに対して、ほかにも「ひとり」でいる人がいるという安心感をつくってあげる。例えば、基本は「ひとり」だが、周囲からは集団にも見える仲間をつくる。ソロキャンプの人が緩くグループで助けあうソログルキャンは有名だが、ソログルでの外食、音楽フェス参加など応用範囲を広げて提案。また、「ひとり歓迎」や「ひとり割引」マークをお店につけて入りやすくするなど。

「ひとり」のスモールステップ化

「ひとり」での行動をプランニングしたり、現地での対応力に自信がない人のために、少しずつ成功体験を積んでコツをつかめるよう、最初の一歩を用意。例えば、泊まりの旅行は難しくても「2時間旅行」など少しの遠出を旅行として提案。また、交通の乗り継ぎなど些細な困りごとでもスマホから即座に相談に乗ってくれるコンシェルジュサービスつきプランなど。

「ひとり」に大義名分

「ひとり」で行動をしたいときに、家族など周囲の人と家事分担などのコンセンサスをとる必要がある場合がある。そんなときに交渉する口実をつくる。例えば、旅行にしてもワーケーション以外に「ボランティアをしに行く」「修行に行く」など、意義つきのパッケージを用意する。逆に、母の日などに「ひとり」体験ギフトを贈ることで、コンセンサスをとることすら諦めている人に、「ひとり」行動の大義名分を与えるような発想も。

結語

「ひとり」からしか 日本は変わらない

日本は「出る杭は打たれる」「寄らば大樹の陰」「義理人情」といった多くの慣用句が示すように、伝統的に集団主義の強い国だといわれています。その風潮は依然として残っていながらも、しだいに集団ではなく個人で決断することや、独創的な発想が求められる時代になっていることも確かです。

集団主義の人を包み込むような良さは残しながらも、個人主義の流れにも対応しなければならない時代。果たして日本は変われるのでしょうか。

ここで思い返すのは、私たちが話を聞いてきた「ひとり」欲求の豊かな生活者たちです。この人たちは、他者と一緒の時間は大事にしつつも、「ひとり」を意識的に活用することで、自分で決める、自分で企画する、自分で新たな関係を築くといったことを楽しんでいました。こうした生活者が増えることは、日本人が「ひとり」で考え行動する練習の機会に恵まれることにもなるのです。「ひとり」は一見、集団や社会を壊すように思えるかもしれませんが、逆に考えてみませんか。「ひとり」からしか、日本は変わらない。これは、「個」の時代に人も社会も元気にする、新しい幸福論なのです。