Web上に溢れる無数の生活者の声の中には、これまで可視化されてこなかった生活者の心の奥にある願いや悩み、インサイトも眠っているはず。そんな仮説を検証すべく、日本初、最大級のQ&Aサイト『OKWAVE』を運営するオウケイウェイヴ研究開発本部の齊藤学シニアエンジニアと酒井崇匡上席研究員が対談しました。
第1回、第2回は20代、40代に見られる恋の悩みの男女差について掘り下げました。第3回はさらに上の世代、60代男女の恋について掘り下げつつ、デジノグラフィの今後の可能性についても考えていきます。
60代は経験が増えるにしたがい、「許す力」が重要に
酒井:
さて、最終回の今回は60代の恋の悩みを分析します。30代の私たちにとってはあまりにも大先輩過ぎてどんな悩みを持っているのか想像もつきませんが、そもそも恋愛カテゴリーの質問の中で、60代はどのくらいの割合を占めているのでしょうか。
齊藤:
比率としてはさすがに少なくて、全体の0.5%程。件数としては418件です。
Q&Aサイトに質問を投稿するくらいですから、同世代の中でもリテラシーが高い人。ライフスタイル的なところも、私たちが持っている典型的な60代のイメージよりも積極性があるのだろうと想像できますね。
酒井:
弊所が2016年2~3月に行ったシルバー調査では、60代前半のパソコン保有率は約6割、スマホは約4割で、スマホ保有率は現在ではもっと増えているはずです。この世代のネットリテラシーも上がってきているのですが、その中でも先端層ではあるかもしれませんね。今回、頻出ワードそれぞれの関連性を可視化するワードマップを作成頂いています。60代女性のものを見てみましょう。
齊藤:
赤くなっている言葉ほど頻出度が高いのですが、60代女性で最も赤くなっているのは「浮気」ですね。そしてそれに紐づく言葉として、「許す」、「過去」といった言葉も出てきています。具体的な質問を見てみると、浮気をされたことをどうやって許せばよいか、というように、気持ちのケリのつけ方に悩んでいる様子が見られます。
酒井:
なるほど。年代的に「許し方」というのが悩みの一つになる訳ですね。これは何も恋愛に限ったことではなくて、例えばECサイトで「許す」というキーワードで検索すると色々な自己啓発本が出てきます。自分自身が幸せに生きるためにも誰かを許すスキルというのは年代が上がり、経験が増えるほど重要になるのかもしれないですね。
60代にとってのメールは重い
齊藤:
頻出ワードとしては、「メール」というのも結構でてきていました。「やりとり」や「返信」という言葉と紐づいています。結構悩みの内容はピュアで、脈があるかどうか男性の意見が聞きたいとか、好きな人と険悪になってしまってメールでどうやり取りすればよいかとか。
酒井:
女子高生と同じような悩みを持っている!
齊藤:
60代の特徴として、下の世代に比べてメールやLINEのやり取りを重く捉える傾向はあるのではないでしょうか。手紙のように捉えるか、もっと軽いものなのか、という判断が付きかねているようにも感じます。
酒井:
確かに、メールでもSNSでもそうですが、上の世代の方は全体的に長文に、重めになる傾向はありますね。それだけ一通一通の返信に時間をかけていると、悩みも大きくなるのかも。
齊藤:
男性のワードマップでも「メール」は出てきています。「メールで謝ったけどもっと謝ったほうがいいか」というような悩みもありました。
酒井:
確かにこちらもメールに紐づく言葉がかなり広がっていますね。詳しく見ていきましょう。
子どもの恋愛相談の場にも
酒井:
メールに紐づく言葉として「娘」というのも出てきていますね。
齊藤:
単純に自分の子どもという意味では、娘の彼氏がこうで……、というような子どもの恋愛についての相談が出てきますね。これは女性にもあることで、娘につきまとっている男性がいて……、というような質問が見られます。実は、60代の女性が20代のふりをしてその年代の恋愛について聞いているようなケースもあります。これもおそらく、お子さんの恋愛について悩みがあって、そのことを娘と同じ世代の人に相談したいのではと思われます。
酒井:
なるほど。この世代になると、自分の恋愛だけではなくて子どもの恋愛相談にもなってくるんですね。これまで見た中にも女性から「男性の方に質問です。」というような質問は結構ありました。自分と違う世代の人、性別の人、属性の人に突っ込んだ相談をすることってリアルだとしにくいことなので、恋愛以外のカテゴリーでもありそうですね。そういう質問を分析すると、各カテゴリーでどういう世代ギャップや性別ギャップが存在するのかを見ることができそうですね。
齊藤:
それと、ワードマップを見てみると、60代男性は全体的に60代女性よりも性に好奇心旺盛という感じもありますね。女性に質問で、街で声をかけられた時は嫌な思いしますか嬉しいですか、など、ナンパに関する質問もありました。笑
酒井:
「ちょいワルオヤジ」を流行語にしたLEONが創刊されたのが2001年です。それから既に17年経って、LEONのターゲットだった世代も60代になっている。生活総研が行っている生活定点調査の分析でも、60代は以前に比べてどんどん恋愛に積極的になっているし、今後もその傾向は続くだろうという結果が出ているので、このようなワードマップが出てくるのも頷けますね。
デジノグラフィで活かされるマーケターの見立てる力
酒井:
ここまで20代、40代、60代とそれぞれで男女別に恋の悩みを見てきましたが、改めて様々な生活者の欲求のヒントを得ることができたと思います。エスノグラフィはn=1、一人ひとりの発言や行動に注目することに重きを置いているので、出てくるものは基本的に仮説です。だからこそ、お話の中でも触れたように、時系列データやマクロデータなどの定量データでの検証や、社会的な事象とも関連付けて背景を探っていくことが重要で、それはデジタルデータを活用したエスノグラフィ、デジノグラフィでも同じですね。
齊藤:
デジタルデータの場合、定性的な情報もテキストマイニングなどを行うことである程度は定量化できたり、実際のウェブ行動などと紐付けて考えることもできますね。
酒井:
齊藤さんはどのようなことをお感じになりましたか?
齊藤:
テキストデータを解析する立場からすると、恋愛系のデータって難しくて、カメラとか具体的な製品カテゴリーであれば、質問もカメラの使用法とか撮影法とか割と範囲が絞られるので解析しやすいんですよね。一方で恋愛は人によって背景も全く違うし、質問も、それに対する回答もかなり多種多様です。弊社では寄せられる質問に対してAIエージェントが自動応答するという取り組みをずっと続けているんですけど、恋愛カテゴリーの質問にAIがきちんと答えるのはなかなか難しそうだなと思います。笑
ただ、それだけ広範なデータが集まっているとも捉えられますし、複雑な背景を持った悩みでも、質問したら何か答えてくれる人がいる、そこに感謝経済のようなものができあがっているっていうのはOKWAVEのようなQ&Aサイトの価値なのではないかと改めて感じました。
酒井:
そのご指摘は大変面白くて、もしかするとこれまでのビッグデータ解析、行動履歴解析ではファジー過ぎて分析対象としてみなされなかったデジタルデータこそ、デジノグフラフィの格好の材料になるのかもしれないですね。そうすると、やはり結果を読み解くためには分析者の仮説力というか、背景を洞察していく力、言い方を変えれば「見立てる力」が非常に重要になります。そういう意味でもマーケターにとってやりがいのある領域ですね。
齊藤:
今回は恋愛カテゴリーの質問のみの分析でしたが、回答についても分析したらまた別の面白いことが見えてきそうです。
酒井:
20代でお酒がキーワードになっていたりもしましたが、恋愛という切り口で見た時に、どんな製品やサービスが近くにあるのか見てみるのも面白いかもしれないですね。他にも、例えば「仕事」とか、様々なデジタルデータを使って掘りがいのあるデジノグラフィのテーマはたくさんありそうです。本日はありがとうございました!
「生活者データ・ドリブンマーケティング通信」より転載