投稿画像の色分析で滲みでたのは、各国の伝統色だった

今回は、SNSに投稿された画像の解析を活用した生活者研究事例を紹介します。Instagramと微博(ウェイボー)上に投稿された人物写真の撮り方に、日本、中国、タイでどのような文化差があるのか。約20万枚のセルフィー画像解析結果について、前編はセルフィーの撮り方という観点で解説しました。
後編ではセルフィーの配色について出現した傾向差を、生活総研の奥田さらが解説します。

生活者のナショナルカラーパレットを覗く

AIによるセルフィー画像解析でできることは、前回紹介したような映っている顔の部位や表情の解析だけではありません。写真の中にどんな色が配色されているか、その特徴も解析することが可能です。

自分の肌の色や目の色から、自分にフィットするカラー群を教えてくれるパーソナルカラー診断というものがありますが、国ごとに特徴的に使われる色、ナショナルカラーというものは存在するのでしょうか?そこで今回はSNS上の人物写真の色について検証してみることにしました。

分析対象は前回の記事同様、2019年6月~2020年3月にInstagramおよび微博上に投稿された、日本、中国、タイで撮られた写真で、10代もしくは20代であるとAIが判別した約2.3万人が写っている写真です。各国の写真から抽出された色で相対比較をして、その国独自に目立って高く検出された色に焦点を当てました。シンガポール拠点の画像解析AIを活用したリサーチを行っているQUILT.AI社およびHAKUHODO CONSULTING ASIA PACIFICの協力のもと、分析を行っています。

SNSで抽出された各国独自のカラーパレット

こちらが今回のビッグデータ解析で抽出された各国で特徴的に見られた色を示したカラーパレットです。各国の女性の服装も同じ配色になっています。
日本の淡い色使いはアジサイや折り紙を連想させます。中国の配色は、コロナ禍以前に多く見られた中国人観光客の原色を中心としたVividな色使いの服装が思い浮かびます。タイは「金銀」や「土」のニュアンスを感じられる配色です。
今回の解析対象は人物写真です。ファッションのトレンドもグローバル化が進む中で、検出される色は似たような結果になってもよさそうですが、各国でこのような差が出たこと自体が興味深い発見でした。

各国の伝統色との符合

更に背景を深掘りするため、配色の専門家へのインタビューを実施しました。今回インタビューにご協力いただいたのは女子美術大学芸術学部美術学科の坂田勝亮教授です。

坂田教授によると、色の使われ方には、政治、経済、歴史、哲学などあらゆる要素が密接に絡んでいます。特に経済とは深く関わっており、色1つとっても経済状況、国の強さを紐解くことができるそうです。

その中でも今回のカラーパレットは各国の伝統色に符合しているとのことでした。各国の詳細を見てみると、まず日本のカラーパレットは淡い色合いが多いですが、中でも藍色に注目しましょう。
そもそも日本は資源に乏しい国であったため歴史的にカラーバリエーションは地味で少なめ。顔料へのアクセスも乏しく、基本染料を用いていたので豪華絢爛な色使いがあまりされてこなかったのだそうです。中でも藍色は1回で濃く染められ、コスパがよい染料のため古来から重宝されてきました。

また日本の色彩表現が細かいのは「禁色」の影響が大きいようです。位によって着る衣服の色が決められていたため、1つの色を薄めるという知恵で多数の色を生産して楽しみました。カラーパレット上に淡い色が多いということは、その歴史がいまだに影響を与えているのかもしれません。

続いて微笑みの国タイ。金や土色への崇拝が強く、地理的にインドやパキスタンなど金属を多用する国の影響を色濃く受けているということでした。確かに今回のカラーパレットでも、金銀や土に近い配色が見られます。
ちなみに、タイの色文化には仏教も深く影響しています。曜日ごとに色が定められており、タイの人々はほとんどの方が自分が生まれた曜日とその色を知っている、とのことでした。

最後に中国。歴史的に非常に豊かな国だったため昔から染料や顔料へのアクセスを持っていたことから色使いが豪華絢爛だそうです。例えば宮廷貴族の衣類の色使いをイメージしていただけると、お分かりになるでしょう。今回のカラーパレットでも、朱色に近い強い色調の色が多く見られました。また、宝石の翡翠の色に近いターコイズが見られます。

ちなみに、坂田教授によると中国の最近の傾向として、アメリカで教育を受ける富裕層が激増したことで、自国に帰国する際にSNS上やオフラインでもアメリカ的な配色が輸入されつつあるとのことでした。コロナ禍の影響もあり、国家間の交流は物理的に少なくなっていますが、色という面でも今後、各地域の独自の進化が見られるのかもしれません。

AIの解析結果が探索のきっかけ

AIによるビッグデータ解析の結果が、思いがけず各国の伝統色について理解を深めるきっかけとなりました。フィードに無数に流れてくる個々の写真を眺めるだけでは気づかなかった傾向が、ビッグデータという「塊」の分析で可視化されたおかげです。プロセスという意味では、AIから貰った不思議なお告げの背景を、人間の私が専門家の知恵を借りて探っていく、ということでもありました。

映画『プラダを着た悪魔』に有名なシーンがあります。メリルストリープ扮するファッション雑誌『ランウェイ』の編集長ミランダが、アンハサウェイ演じる新米アシスタントのアンドレアが何気なく着ているセーターの青色の歴史的な背景を語るシーンです。「あなたが着ている、その青いセーター。その色はただの青じゃなくて、セルリアンよ。2002年にOscar de la Rentaがコレクションで発表して、そのすぐ後にYves Saint Laurentがミリタリージャケットで発表。瞬く間に8人の別のデザイナーのコレクションにも登場し、すぐにデパート、ついにはカジュアル服コーナーにまで浸透していったのよ。そしてあなたは間違いなくセールで見つけ、買った。なんて滑稽なのかしら。ファッションと無関係と思って着ているそのセーターは、実はここにいる私たちが選んだのよ」一つの色に込められた歴史を鮮やかに紐解く名シーンです。潜在的に覚えていた名作映画のワンシーンの意味を、AIが導き出した解析結果を通じて理解するという何とも稀有な体験でした。

画像解析で拡がる可能性

前回の記事含め、SNSの画像解析から生活者のインサイトを掘り下げる試みを解説してきました。国ごとに自己表現の方法、強調する箇所、抽出される色には違いが見て取れることが分かりました。このような画像解析は、マーケティング上も様々な活用の手段が考えられるでしょう。
例えば、服の流行色分析はファッション業界のマーケティング分析では既に行われ始めています。ファッションAIを展開するニューロープは、SNS上に投稿されたファッションスナップを解析し、アイテムの色・柄などの調査からトレンド分析を行っています。
また、Brand Style Analyzerという博報堂のソリューションでは、企業や商品、サービスに関連する SNS に投稿された画像を分析し、生活者視点でのブランド世界観の検証を行っています。
このようなサービスの活用が進展すれば、生活者の深層意識を吸い上げることが可能になり、より生活者に深くささるブランディングやコミュニケーションを創りあげることができるでしょう。また分析結果に基づき、世界観レベルでブランドと親和性の高い生活者を見つけたり、生活者が求めているたたずまいを持った新規プロダクト開発も可能になります。
生活総研でも非言語的な表現である写真だからこそ抽出できる、グローバルな生活者変化を今後も研究していく予定です。

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