2040年は何⾊の未来? ―1万⼈の⾊データで探る⽣活者の「声なき声」

博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ」。
今回扱ったのは、⽣活者がイメージする「未来の⾊」のデータです。

目次

・ 言葉にならないものは分析できる?
・ ⾊⽟から視覚化する、現代観・未来観
・ ⽊々に覆われた未来を⾒る、シニア
・ 技術と環境が対⽴しない、若者の未来
・ ⼥性の⽅が「地球⼈」?
・ 黒の闇は深い?
・ 青空を待つ生活者たち
・ 「声なき声」が表れるデータ

⾔葉にならないものは分析できる?

もしも私たちが突然「今から20年後はどんな世界になっていると思いますか?」と聞かれたとしたら、スラスラ答えられるでしょうか。変化が早いとされる現代、まだ⽬の前にない20年後の未来像を⾔葉にして語れる⼈はそう多くないかもしれません。ではこのように質問されたらどうでしょうか。

「2040年を表す⾊と、その⾊から想起するイメージを教えてください」

⾊や絵による表現というのは、⼈間にとって⾔語よりも原初的なものだと⾔われています。私たちは幼い頃、⾔葉を覚えるよりも先にクレヨンなどで絵を描くことを覚えます。現代や未来という⼀⾒複雑な対象も、⾊を⼊り⼝にすることで、⼀⼈ひとりの豊かな像が浮かび上がってくるのではないでしょうか。生活総研ではこのような仮説に⽴って、全国15~69歳の男女1万⼈に、未来の色とそこから想起するイメージを問うインターネット調査を実施しました。今回はその1万⼈分のデータを分析して、生活者の⾒えざる「現代観」と「未来観」を視覚化してみましょう。

色玉から視覚化する、現代観・未来観

こちらのグラフは、⽣活者1万⼈が選んだ「2040年を表す⾊」です。縦軸が 性別と年齢、横軸が40の⾊名になっています。最も⼩さな⾊⽟ひとつが、その色を選んだ⽣活者⼀⼈分を表し、 ⼤きな⾊⽟はその色を選んだ人が複数いることを表しています。

(グラフが表示されない場合は、Firefox、Chrome、Safari、Microsoft Edgeなどからアクセスしてください)

⼀⾒してわかるのは、未来を「ディープスカイブルー」や「ライム」といった明るい⾊で⾒ている⽣活者が多いことです。ただ性年代の内訳はやや異なります。 元々この1万⼈における若年層の構成⽐はそれほど多くないのですが「ディープスカイブルー」を選んだ⽣活者には若年層が多く、「ライム」はシニアが多いことが⾒て取れます。

他にも「ターコイズ」や「ダークオレンジ」は⼥性全般に⼈気である⼀⽅、男性にはそれほどでもないようです。反対に「ブラック」は⼥性で少なく、男性、特に若い⼈たちの間で選ばれています。 性別や年齢といった属性によって「⾒ている未来の⾊」が少しずつ異なるのは、なかなか興味深いですね。

このグラフ、色玉にカーソルを合わせていただくと、下に「その⾊からどんなイメージを想起したか」それぞれの回答がインタラクティブに表⽰されるようになっています。ぜひご⾃分と同じ性別・年齢の⽣活者が未来にどんなイメージを持っているのかをチェックしてみてください。

⽊々に覆われた未来を⾒る、シニア

次に、⾊と⼀緒に語られている⾔葉に着⽬してみましょう。未来の⾊として最も選ばれているのは「ライム」ですが、この⾊を選んだ⼈たちはどんな未来イメージを抱いているのでしょうか。

1万人がイメージする「未来の色」2

ライム」を選んでいるのは男性のシニアに多いですが、特に多い68歳や69歳の男性の回答を⾒てみると、「⾃然」や「新緑」「豊か」といった⾔葉が使われています。この⼈たちにとっては、⽊々に覆われた場所での⽣活が、よき未来としてイメージされているようです。

技術と環境が対⽴しない、若者の未来

⼀⽅、もう⼀つの⼈気⾊「ディープスカイブルー」はどうでしょうか。この⾊を多く選んでいる16歳や19歳など若い男性は、「澄み切る」「空」「環境」といった⾔葉とともに「技術」「テクノロジー」「発達」といった⾔葉が⾒られます。

1万人がイメージする「未来の色」3

どうやらこの⼈たちにとって、技術は美しい環境を損なうものではなく、共存するもの、むしろ⾃然を回復させてくれるものであるようです。 「ライム」も「ディープスカイブルー」も、似たような明るく鮮やかな⾊ですが、その裏側にある価値観は少しずつ異なっているわけですね。

⼥性の⽅が「地球⼈」?

今度は特定の単語に注⽬してみましょう。例えば「地球」という⾔葉が多く語られている⾊は何⾊なのでしょうか。そしてどのような人がそれを語っているのでしょうか。下のグラフでは1万⼈分の⾃由回答⽂を形態素解析(自然言語を単語の最小単位にまで分割)して、名詞や形容詞といった要素に分解して視覚化することで、全文を読み込まなくても直感的に、誰がどんな⾔葉でその⾊を語っているかがわかるようになっています。右上のパネルでは品詞でフィルタリングすることも可能で、その下にある虫眼鏡のアイコンからは特定の単語をフィルタリングしてグラフに表示させることもできます(出現頻度25回以上の単語が対象)。最初の状態は「地球」という単語でフィルタリングしています。

まず男性より⼥性のほうが未来のイメージを語るときに「地球」という言葉を多く使っている様⼦が窺えます。男性は「ライムグリーン」や「ライム」を選んだ⼈に「地球」を使う⼈が多いですが、⼥性はそれらの⾊に限らず「ダークオレンジ」「コーラル」や「シルバー」など、「⾒たままの地球の⾊とは異なる⾊」を選んだ⼈にも使っている⼈が⾒られます。

そうしたちょっと意外な⾊と、「地球」という言葉を結びつけて語っている⼈は、いったいどのような未来イメージを抱いているのでしょうか。上のチャートの「地球」という単語にカーソルを合わせていただくと、元になっている⾃由回答が全文表⽰されます。

それを⾒ていただくと、「ダークオレンジ」「コーラル」では、温暖化を憂いて地球の未来を⼼配している⼈が多く、「シルバー」では環境破壊の⼼配をしている⼈が⽬⽴ちます。1万人がイメージする「未来の色」|色×キーワード分析

「〇〇県⺠として…」「⽇本⼈として…」というよりも、「地球⼈として」俯瞰した視点から未来をイメージしているようです。そのような意味では今回の1万⼈のデータに限っては、⼥性のほうが多様な⾊とともに地球の未来を危惧している「地球⼈」であるといえそうです。

これは例えば「地球」とちょっと似た語「世界」の出現分布と比較してみると、よりはっきりします。未来をイメージするときに「世界」という語で志向する人はさまざまな色で出現しますが、その分布は男女といったジェンダーであまり違いはないようです。

1万人がイメージする「未来の色」|色×キーワード分析_世界

「世界」はなんとなく人間を中心とした対象であるイメージがありますが、「地球」と言われると人間以外のまざまな生物や海や大気といった対象を含んでいる印象があります。SDGsに関連するようなムーブメントなどはもしかしたら、「地球」で未来をイメージする生活者とより親和性があるかもしれませんね。

黒の闇は深い?

最後にもう⼀つだけ⾊を通じた分析をしてみたいと思います。実はこの1万⼈調査では、2040年というちょっと遠い未来だけでなく、
「2021年を表す⾊と、その⾊から想起するイメージを教えてください」
と「現在の⾊」についても聴取しています。

この⼆種類のデータを使うと、
「現在という時代を○○⾊としてイメージしている⼈は、未来を何⾊で⾒ているのか?」
という「現在観と未来観の⽐較」を視覚化することができます。それが次の、⽷束のようなグラフです (サンキーダイアグラムと⾔います) 。今回の場合は、⼀本の線は「⼀⼈の⼈が選択した⾊」を表していて、全部で1万本あります。

線の多くは上へ下へと交差しているので、多くの⼈が現在と未来を「違う⾊」で⾒ていることがわかります。

⼀⽅、現在と未来を同じ⾊として⾒ている⼈が⽐較的多いのは「ブラック」です。「ブラック」の⾊束にカーソルを合わせていただくと、現在の黒から未来の黒へ、⽐較的太い線が⾛っていることがわかります。現在を最も暗い⾊である「ブラック」とイメージしている⼈は、未来も暗いと思っているわけです。この選び方をしている人の未来のイメージに関する自由回答には、「今まで30年の日本の経済状態が、この色なので、この先も続くと思います」といったものもあり、一部の人は「あまり変わりそうにない未来観」を抱いているのかもしれませんね。現在の色-未来の色 サンキーダイアグラム

⻘空を待つ⽣活者たち

他方、現在のイメージとして選んでいる⼈の数が多く、⼀⾒ブラックと似たような⾊とも思える無彩⾊のグレー系の「ゲインズバラ」「スレートグレー」「ライトスレートグレー」といった⾊の束にカーソルを合わせてみてください。ブラックとは打って変わって、同系⾊ではなく「ディープスカイブルー」や「ライム」など、鮮やかな⾊で未来を⾒ている⼈が多いことがわかります。

現在の色-未来の色 サンキーダイアグラム2

まるで「今は⾒通しがききにくい世の中だけど、いつか霧が晴れて、明るい空や光が⾒えるようになるとよいな…」と待望している、⽣活者の切実な願いや希望が表れているようです。

「声なき声」が表れるデータ

さて今回は、データとして数字や⽂字といった⾔語的なものではなく、「1万⼈が思い思いにイメージした⾊」という視覚的なものを⼊り⼝にして、⽣活者の現在観、未来観を探ってみました。そのような感覚的なもの、直感的なものを分析対象とすることは、従来はグループインタビューやデプスインタビューという少数のサンプル調査で⾏われることがあったかもしれません。これを1万⼈で⾏うと、1万⾏のリストを順番に⾒ていくことになるわけで、とても時間がかかります。

他⽅ここまで⾒ていただいたように、1万⼈分という量のデータでも、適切なヴィジュアリゼーションの⽅法とツールを使うことで、データの裏側にある⽣活者の気持ちの輪郭を、想像以上に身近に感じることができるのではないでしょうか。

その中には、⾔ってみれば⽣活者の「声なき声」が含まれているかもしれません。『データ視覚化の⼈類史』著者のマイケル・フレンドリーとハワード・ヴェイナーは、その著書の中で

データ解析の⽬的は単なる数字ではなく洞察であり、その洞察――予期せぬことを⾒ることは、たいていの場合、定理を与えたり⽅程式を引き出したりすることよりも、作画によってもたらされる

という考えを紹介しています。

⽣活総研が推進する分析法「デジノグラフィ」も、世の中に流通する俗説や、私たち⾃⾝の思い込みを、ビッグデータをはじめとした様々なデータの⼒を借りてひっくり返していくことを⽬指しています。そのとき視覚化という⼿法は、⽣活者の「予期せぬこと」「声なき声」を浮かび上がらせてくれる⼼強い道具になってくれるに違いありません。


調査・分析協力
吉田裕美|博報堂生活総合研究所

■調査概要
博報堂生活総合研究所「生活者1万人への未来調査」
調査地域:全国
調査対象:15 ~69歳の男女
調査人数:10,000人(国勢調査にもとづき、性年代・エリアの人口構成比で割付)
調査方法:インターネット調査
調査時期:2021年10月18日~21日
調査会社:株式会社H.M.マーケティングリサーチ

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