実は見た目が“2割” 美容整形は魔法?

2025.11.19

2025 11 月号

「鏡よ鏡、この世でいちばん美しいのは誰?」

白雪姫の物語で、女王が魔法の鏡に問いかけるこのフレーズ。「おとぎ話のなかだけの飽くなき美への執着」だと思っていた人もいるでしょう。

しかし現代、SNSを開けば、そこには無数の「鏡」があり、加工されているのか無加工なのかも定かではない「誰か」の完璧な姿や、きらびやかな日常が映し出されます。 私たちは、女王がしたように「いちばん」を求めているわけではなくても、無意識のうちに画面のなかの「誰か」と自分を比べ、「私なんて……」とため息をついてしまう瞬間はないでしょうか。

日々更新される他人の「輝き」と自分を比較し続けることで、いつしか自分の魅力を愛でられなくなり、自己肯定感が下がってしまう。魅力にあふれているはずなのに、自分を好きでいられないのは、苦しく悲しいことです。

もちろん美しさの基準はひとつではありませんし、誰しもが自分にしかない素晴らしい魅力を兼ね備えているはずです。しかし、もし「ここがコンプレックスで、どうしても自分を好きになれない」という長年の悩みが、あなたの笑顔を曇らせているのだとしたら。

そのコンプレックスという名のいわゆる「呪い」を解き、自分にもっと自信を持って前を向くための「現代の魔法」のひとつが「美容整形」なのかもしれません。「自分自身がもっと輝くため」の手段として美容整形を検討・実行する人は少なくないようです。

そんな生活者の心情を浮き彫りにすべく、博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)では美容整形にまつわる意識調査から、生活者の心理に迫りました(博報堂生活総合研究所「美容整形」調査 首都圏・阪神圏・名古屋圏、20~69歳男女、1,500人、2024年11月、インターネット調査)。具体的なデータを見てみましょう。

多くの人が抱える「顔への不満」と高い「美容整形への関心」

「シミ・シワ・鼻の高さ・あごのライン・歯並びなど、自分の顔に不満な部分はあるか」という質問では、全体で64.2%もの人が、不満があると回答しています。

特に女性は深刻で、20代を除くすべての年代の女性で8割以上がコンプレックスを感じている現実があります。

実は見た目が2割?

そうした不満を解消するために「美容整形したいと思ったことがあるか」という質問には、全体で23.2%があると回答。特に女性は関心も高く、20代(44.8%)と30代(41.6%)では、実に4割以上の人が一度は美容整形を検討していることがわかります。

実は見た目が2割?

「中身が大事」という理性と「見た目が気になる」本音

一定数の人が美容整形に興味を持っている一方で、実際の行動には高いハードルがあるようです。「美容整形をすることに対して抵抗はあるか」という質問では、全体で79.6%が「はい(抵抗がある)」と回答しています。

実は見た目が2割?

なぜ、これほどまでに抵抗感が強いのでしょうか。理由のひとつは、私たちの心に根差す価値観にあるようです。「人は見た目がいちばん? 中身がいちばん?」という質問では、実に78.5%もの人が「人は見た目より中身がいちばん」だと回答しました。逆にいえば、「中身より見た目がいちばん」だと考える人はわずか2割程度しか存在しなかったのです。

実は見た目が2割?

「大切なのは中身だ」という理性。しかし、それと同時に「自分の見た目(顔)に不満がある」(全体で64.2%)のもまた事実です。この理性と本音のギャップこそが、「美容整形」への心理的な抵抗感の一因となっているのかもしれません。

ハードルが下がる条件は「価格」「安全性」「手軽さ」

この心理的な抵抗感に加えて、現実的なハードルもあります。「どのような条件なら、美容整形をしてもよいか」という質問では、トップが「価格が安ければ」(65.5%)。次いで「後遺症がないなら」(56.3%)、「あとが残らないなら」(48.0%)、「手軽に短時間でできるなら」(47.1%)と続きます。

実は見た目が2割?

このように、人びとが美容整形に対して求める「価格」「安全性」「手軽さ」に応えるように、美容医療市場も進化しています。

■「ライト層拡大」が牽引する美容医療市場

久次米秋人医師(第107回日本美容外科学会 学会長・厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」の構成員)は、「現代では、レーザーやヒアルロン酸、切らない二重施術のようなライトな美容施術が普及しました」と語ります。

日本の美容医療市場全体をみると、メスを使う外科手術以上に、こうしたライトな美容施術が大幅に増加し、美容医療市場全体を牽引しているとのことです。

また、「病院側が積極的に情報を発信する時代へと移行し、美容医療に関する情報量が劇的に増加したことも、こうしたライトな施術の普及を後押ししている一因です」と久次米秋人医師。

しかし、こうした情報発信の活発化は、必ずしもポジティブな側面ばかりとは限らないようです。久次米一輝医師(大手美容クリニック勤務)は、「ネット上には、現実的にあり得ない施術の価格設定や、加工を伴うパーフェクト症例写真など、真実とはいいがたい情報も存在します」と指摘します。

情報が玉石混交するなか、期待した結果が得られず、再施術を検討するケースについてのお話もあり、慎重な情報収集と判断が求められる現状もうかがえます。

「美容整形」も「メイク」も自分を好きになるための「魔法」

「コンプレックス解消への期待」と「美容整形への不安」を天秤にかけて、「顔の脂肪吸引」に踏み切った20代女性Sさんに話を聞くことができました。

彼女は、10代の頃から顔が丸いことをコンプレックスに感じ、長年、顔の脂肪吸引へ関心を持っていたといいます。

もちろん、最初から大がかりな手術を選んだわけではありません。 まずは外科手術より「低額」「低リスク」「手軽」とされる手段をいくつか試したものの、コンプレックスは解消されなかったといいます。そこで彼女は、美容整形という選択肢への不安を乗り越えるため、徹底的なリサーチを開始します。 自ら美容整形の学術論文を多数読み込み、さらに複数のクリニックでカウンセリングを重ねました。

そうして知識を深め、心から信頼できる医師を探し当てたことで、彼女は長年の悩みと向き合う決断ができたといいます。美容整形を終えた今、「審美的・社会的・医療的なさまざまなリスクはやはり意識しましたが、手術には満足しています」と笑顔で語ってくれました。

しかし、美容整形を実際に経験したことで、「整形だけが魔法ではない」とも気がついたといいます。

「垢ぬけは顔の造形だけではありません。肌や髪色、姿勢など、全体の雰囲気のコントロールがすべてです。(顔の造形を変える)美容医療は、あくまで垢ぬけのひとつの手段にすぎません。メイクだってすごい魔法ですよ! 綺麗な人だって、1時間以上かけてメイクをしていることもありますから」

その言葉を裏付けるように、彼女のカバンのなかには複数のメイクポーチが。聞けば、メイク筆だけで10種類ほどを使い分けているとのこと。

彼女にとって「メイク」もまた、自分を好きになるための強力な「魔法」のひとつなのです。

「魔法」に頼りきるのではなく

しかし、メイクだけではカバーしきれない根本的な悩みがあるのも事実です。それを象徴するのが、「シミ・シワをとるなら化粧品? プチ整形?」というデータです。「時間がかかっても化粧品で気長にとりたい」(54.4%)と「短時間でできるプチ整形でとりたい」(45.6%)はほぼ半々となり、いまや拮抗しつつあるのです。

実は見た目が2割?

メイクと美容整形、どちらの魔法を選ぶかは、その人次第。どちらも、「SNSの鏡」に映る誰かを目指すのではなく、自分自身が自分を好きになるための、ひとつのポジティブな選択肢なのです。

しかし、物語の魔法が解けてしまうように、現代の魔法もまた万能ではありません。毎日時間をかけて行うメイクは夜になれば落とさなければなりませんし、美容整形は時間や費用、時にはリスクを伴う選択です。

大切なのは、魔法の力に頼りきるのではなく、その手段を通じて得られた「自信」という名の光を、自分自身の内側から輝かせることではないでしょうか。「人は見た目が2割」。残りの8割は、その自信に裏打ちされた、人生を前向きに生きる「中身」から生まれる輝きなのかもしれません。

実は見た目が2割?

(左)久次米秋人医師 (右)久次米一輝医師

【プロフィール】

久次米 秋人(くじめ あきひと)氏:共立美容外科 理事長。第107回日本美容外科学会で学会長を務めたほか、厚生労働省「美容医療の適切な実施に関する検討会」の構成員にも選出。

久次米 一輝(くじめ かずき)氏:順天堂大学医学部を卒業後、 順天堂大学医学部附属順天堂医院で初期臨床研修を修了し、形成外科に入局。現在は、父が理事長を務める共立美容外科に入職。