落語とロックのマリアージュ
組み合わせで生まれる新しい[好き]

生活総研
上席研究員

夏山明美

時は平成29年4月20日。徐々に薄暗くなっていく空の下、私は急ぎ足で深川江戸資料館に向かっていました。以前インタビューさせてもらった、好きの達人 前田一知(桂りょうば)さんの落語会におうかがいするためです。

前田さんの人生は波瀾万丈。20代では大阪の小劇団で役者を務めた後、ビジュアル系ロックバンドとしてデビューするため東京へ。30代になると音楽に加え、トークイベントなどを主催。アマチュア落語家としても活動していたそうです。そのうち、落語に対する[好き]の熱を抑えられなくなり、桂ざこば師匠に弟子入りを決意。ここまでなら、よくある話に思えるかもしれませんが、弟子入りしたのはなんと43歳! 奥様と住んでいた東京を離れ、大阪での単身赴任を決意。さらにビックリなのは、すでに多くいたファンやフォロワーの方々との大切な連絡網だったSNSをすべて閉じたこと。「落語家を目指す!」という本気を見せるためだったそうです。その覚悟も手伝い、晴れて落語家デビュー。前田さんは、桂りょうばとして真新しい人生を歩み始めました。そして、私は初の東京での落語会にうかがったわけです。

東京で初となる桂りょうばさんの落語会へ!

深川めし・あさりの佃煮といった伝統グルメのお店に加え、おしゃれな雑貨店やパン屋、カフェといった新旧が入り混じる、深川の街なかにある会場に到着。開場を待つ列に並ぼうとして、私の目はあるものに釘づけ…。それは、お客様の髪の色。白・金・赤、色とりどりです。そう、白髪の高齢者と、ビジュアル系ロック時代のファンと思しき、金や赤の髪の女性が並んでいらっしゃったんです。私はもともと、落語好き。上方・江戸を問わず、お気に入りの方の落語会に参加します。いらっしゃるお客様は中高年の方が目立つものですが…。他にどんなお客様がいらっしゃるんだろうと、会場を見回してみました。案の定、新旧入り混じり。まずは、従来の落語ファンと思しき、ご高齢の男性同士や、着物をビシッときめた50~60代の女性、中高年のご夫婦といった大人の方々。合間を縫うように、いかにも「ロック好きだぜ!」ってな感じの黒づくめの30代ぐらいの男性や、カラフルに彩られた髪の若い女性。りょうばさんが落語家になる前にされていた活動のファンの方が、落語デビューを果たされているのでしょう。そのため、客席は、落語会でも、ロックのライブでも見られない、非常にユニークな場と化していました。

年齢も髪の毛の色も、多様なお客様が集結!

好きが高じて、ジャンルを超える。そして、異なるジャンルの組み合わせによって、新しい楽しみ方を生みだす人が増えていく…。今回の「好きの未来」では、そんな予想もしています。例えば、もうひとりの好きの達人・辻一恵さん。ご主人が経営する美容師を手伝いながら、ご自分も美容関連の講習会を開いています。興味深いのは、辻さんの講習内容。顔骨格診断、造形心理学、カラー診断など、様々な理論を組み合わせて、「本当はどんな美を求めているのか…」をお客様自身が気づけるメソッドを独自開発しているんです。

ジャンルのマリアージュによって生まれる新しい[好き]。世の中を見回してみると、好きの未来の兆しは既に生まれています。例えば、ヘビ-メタルとアイドルの融合で人気のBABYMETAL。かつては、BABYMETALについて、「ヘビメタではない」「いや、ヘビメタだ」という論争もあったようです。ジャンルが組み合わさり、新しい[好き]が生まれる、そんな未来のスタンスに立つと、BABYMETALはヘビメタでも、アイドルのどちらでもなく、BABYMETALという新しい好きなんでしょうね。また、東京では2017年1月から5月にかけ、和食がテーマの、見て食べる体験型デジタルアート「食神さまの不思議なレストラン」が開催されていました。画面に触れるとアニメーションが反応するデジタルアートを楽しめる、飲食コーナーでお稲荷さんや日本酒も楽しめる…。しかも、会場は美術館でも、展示場でも、飲食店でもない、古いビル。
このように、従来のジャンルのどこにも当てはまらない、新しい楽しみ方が生まれています。

最後に…。落語会が終わった後、[好き]の研究者としての好奇心を抑えられず、ついついロックファン時代の女性たちを街頭インタビュー。聞けば、りょうばさんのドラムのお弟子さんなんだそう。りょうばさんの昔の著書に先ほど書いてもらったばかり…というサインを見せてくれました。しかも、写真もOKということでしたので、お披露目します。画面では見えにくいかもしれないけれど、アニメが描かれた「ドラムやってみよう」の表紙に、桂りょうばのサイン。素敵にマリアージュしてます。「好きの未来」、楽しくなりそうですね。

ロックバンド時代の前田さんの著書「ドラム、やってみよう!(一迅社)」に「桂りょうば」のサイン

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