「夕食らしさ」が消えていく?写真にみる食の「フリースタイル化」
研究員の松井が気になるテーマについて執筆します。今回は、写真にみる食の「フリースタイル化」について取り上げます。
私が所属している博報堂生活総合研究所では、衣・食・住などのテーマに合わせ生活者が自由に撮影した写真を収集・分析する「写真調査」を行っています。そして、その全データを閲覧や検索ができるサイトとして「生活図鑑」にまとめています。
今回は、その生活図鑑で朝食、昼食、夕食、間食の食卓風景と、冷蔵庫、冷凍庫の収納写真を収録している「食」のデータから、気になった食卓風景をご紹介したいと思います。
この食事は三食のうち、どれ?
さっそくですが、こちらの写真をご覧いただきたいと思います。生活図鑑のなかから、何名かの食卓写真を並べていますが、この食事はそれぞれ、朝食、昼食、夕食のうちのどれだと思いますか?
答えは、すべて夕食です。数が多いわけではありませんが、パンやヨーグルト、フルーツ中心の、まるで朝食のような食事が並びます。そして、コメントも一緒にみていくと、その理由がわかってきます。
「お昼に食べ過ぎた」「食欲がなかった」「ひとりで簡単に」「おつまみとして」「夜遅い」など、背景は様々ですが、状況に合わせて食事内容を選んでいる生活者の姿がみえてきます。
なお、次の写真もみていただきたいのですが、先に答えを言ってしまうと、こちらは昼食です。
フルーツやヨーグルト、パンもライ麦や全粒粉など少しこだわりがみえることから、「すぐ用意できて、栄養が摂れる」という朝食で求められるような要素で食事が選ばれたのではないかと推察しています。一汁一菜や、ワンプレートなど、食の簡便化は進んでいますが、昼食も夕食も行きつくところは「朝食化」になるのでしょうか。
朝食の「飲み物派」と「お菓子派」に注目
では、フルーツ派やヨーグルト派が元々一定数いる朝食は、どんな食卓風景なのでしょうか。朝食の簡便化がさらに進むと「飲み物派」や「お菓子派」が現れます。つまり、朝食の「間食化」といったところでしょうか。
飲み物派については、「プロテイン」の存在感が、時代とともに増していそうです。そして、生活図鑑で撮ってもらった朝食がたまたまお菓子だった可能性はありますが、その方々を「お菓子派」としてみていきます。そもそも朝食に菓子パンやパンケーキはパンの延長線上で挙がりやすいため、類似したドーナツやカステラなども出現します。そして、ゼリー系やビスケット系の栄養補助食品も散見されました。
それ以外のお菓子として注目したのは、チョコや和菓子です。「カカオや小豆の栄養」とまで生活者自身は考えていないでしょうが、糖質は、ごはんやパンなどの炭水化物よりも早くエネルギーになるので、単に甘いものが好きというだけでなく、手軽なエネルギー源にはなっているのかもしれません。
食事の「フリースタイル化」
子ども時代、家で夕食にパンが出たことはなかったので、私には夕食でパンを食べるイメージが社会人になってもしばらくなかったですし、夕食に焼きそばを出した奥さんに、「焼きそばは夕食のイメージがないなぁ」と言った旦那さんの話を聞いたことがあります(麺類は休日の昼に食べるイメージなのかも?)。そう考えてみると、従来は「朝食らしさ」「夕食らしさ」など食べ物を基点に食事を選ぶことが多かったのかもしれません。
それが、外食での食経験の広がり、ひとりで食べる機会の増加と、それに伴う食べる時間の自由化、準備の時短志向などによって、食事の区分が曖昧になり、「フリースタイル化」してきていると感じます。そこで、自分を基点に「食べやすい」「準備しやすい」「栄養が摂れる」食事を選ぶように変化しているのではないでしょうか。自分の体調や気分に合わせて、食事や飲み物を調整する「チューニングフード」という最近出てきている考え方にも通じると考えられます。
今後、様々な料理や食材が、どのタイミングでも食べられる可能性が広がるということは、補食のような栄養感や、いつでも食卓に出られるように常備と準備のしやすさが重要になっていくのかもしれません。
【調査概要】
■写真調査「食」
-調査対象 20~69歳の男女313名
-調査方法 インターネット調査(全国)
-調査時期 2022年2月(※平日の食事を聴取)
【関連サイト】
食|生活図鑑|ひらけ、みらい。生活総研
【Yahoo!ニュース エキスパートより転載】
https://news.yahoo.co.jp/expert