今回は、累計800 万ダウンロードを超える日本最大級のオンライン家計簿サービスZaimを運営する株式会社Zaimのご協力のもと、1年間に日本全国でどのような消費が行われているのか、その実態を分析しました。幅広いカテゴリーで365日、1日単位の消費を俯瞰することが可能なのは、生活者自身が入力した家計簿データだからこそできることです。今回は2018年1年間の都道府県別、カテゴリ別の家計簿統計データをご提供頂きました。*
分析結果を生活総研の佐藤るみこ研究員と、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センターの稲井祐介研究員が解説します。
*提供データは個人情報に紐付かないデータ形式です
365日の動向から見えてくるもの
マーケティング・テクノロジー・センターの稲井祐介です。今回はZaimユーザーの中でも2018年の1年間を通して一定回数の支出入力があったユーザーの家計簿データを基にした、外れ値や異常値を取り除いた統計データを分析しています。
一般的に休日の支出は平日に比べて高いため、週毎(7日間)の移動平均で365日での支出の動きを見てみます。このように時系列でみると、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始と年に3回まとまった支出の山があることがわかります。
次に、食費や日用品など、支出カテゴリごとに年間の推移を見てみましょう。特徴的だったのは、「交際費」と「美容・衣服」のカテゴリでした。
「交際費」に関しては、GWとお盆、年末年始に支出の山があることは全支出と共通していますが、特に年末にかけてものすごい勢いで上昇しています。忘年会シーズンの支出金額の大きさをデータでも改めて観測することができます。
一方で、「美容・衣服」は年末よりも、その手前、11月の冬のセールや、年始の初売り時期に支出金額が大きく跳ねる様子が見て取れます。
ちなみに生活総研では、翌月の消費意欲を生活者1,500名に100点満点で聴取する「消費意欲指数」を毎月発表しています。
消費意欲指数では例年、12月が1年でもっとも消費意欲が高まる月となっていますが、その推移にZaimの支出月額の実際の推移を重ねてみると、月ごとの消費の「意欲」(消費意欲指数)と「結果」(実際の支出金額)の波形は概ね似通っています。一部、GWとお盆のある5月と8月は消費意欲は前月から上昇するものの、実際の支出金額は低下するという傾向があり、生活者の心理である消費意欲指数にとっては、GWやお盆のようなハレの日の存在が影響しやすいことが伺えます。
Zaimの家計簿データは、都道府県単位で支出を捉えることも可能です。例えば下図はその都道府県内での年末年始の支出金額の365日平均に対しての上昇率が相対的に高い県を赤色で、低い県を青色で表しています。
これをみると年末年始の消費は東京など都市部では少なくなる分、帰省先の地方で行われていることがわかります。ここからは更に別の視点で、都道府県別の消費傾向から伺える県民性について生活総研の佐藤研究員から紹介します。
どの県が一番、クリスマスに力を入れているのか?
生活総研の佐藤るみこです。年末年始の消費は都市部より地方で盛り上がるようですが、その手前のクリスマスに一番、消費が盛り上がるのはどの県なのでしょうか。クリスマス期間(2018/12/23-24)は365日平均に比べて全国的に支出金額が上昇しますが、その中でも上昇率が最も高いのが下記の5県です。特に1位となった新潟県の支出金額は、365日平均の2倍近い額にのぼっています。
この背景には何があるのでしょうか。新潟博報堂のスタッフに意見を求めたところ、「家族思いな新潟県人の気質が影響しているのではないか?」という意外な回答を得ることができました。実は新潟県は日本で離婚率が最も低い県(1.29%:出典 人口動態調査 人口動態統計/都道府県別にみた年次別離婚率)なのです。特に家庭での食卓を大切にする風土があり、仕事のあと同僚と飲んでも家で食事をとる人も多いのだそうです。
ちなみに、実際の支出細目を見ると「チキン」の出現率が高かったので、よく食べる料理を聞いてみると、どうやら新潟ではカレー味の「半身揚げ」が有名とのこと。外食でも家食でも、「半身揚げ」が食べられるそうです。ビッグデータの解析に定性のヒアリングを加えることで、データの背景や生活者像が見えてきたのは面白い発見でした。
実は、クリスマスと言えば、洋食料理ではなく寿司?
クリスマス期間中の支出細目を分析する中で、更に興味深いことに気づきました。クリスマスなので当然「ケーキ」が多く購入されているのですが、実は「お寿司」も全国的に高頻度で出現していたのです。
生活総研が実施している長期時系列調査の生活定点でも、「寿司」は「好きな料理ベスト3」ランキングで20年間に渡って1位をキープしていますが、代表的な和食なだけにクリスマスとは距離があるようにも思えます。
しかし、インテージが実施しているキッチンダイアリー調査では、「クリスマスイブ当日の食卓登場メニューランキング」で、2014年~2016年の3年間に、「にぎり寿司」の登場率が1.4倍に増えており、ハレの日の「お寿司」という食文化が、クリスマスの食卓にも取り入れられつつあるようです。
そこで、Zaimの家計簿データでもクリスマス期間の「寿司」を含む品目の支出金額が食費に占める割合を都道府県別に分析してみました。上位5県は以下の通りで、最も高いのが青森県、次いで高知、山梨、秋田、愛媛となりました。
海に面していて海産物も豊富な青森、高知、秋田、愛媛の4県が上位なのは頷けますが、海に面していない山梨県が3位にランクインしているのは意外な結果です。しかし、実は山梨県は、海のない県ではあるものの、人口10万人あたりの寿司店舗数は日本一なんです。(出典:総務省統計局経済センサスと2010年国勢調査を基に、各都道府県のすし店舗数を算出)。これも、家計簿データとマクロデータを相互に検証することで見えてきた今回の発見の一つでした。
「寿司」「ケーキ」の年間での消費の波形は?
クリスマスに消費が活発な「寿司」、「ケーキ」ですが、年間でみると支出の波形はどのように動いているのでしょうか。
現在、Zaim社ではある商品群の1年間の支出の波形や、地域ごとの人気度、買う人の属性を「Zaimトレンド(α)」サービスで公開しています。
寿司の「人気度の動向」を見ると、寿司は年末年始をピークとして、GWやお盆などでも大きく上昇しており、日本人のハレと密接に関係している料理であることがよくわかります(寿司のページ)。また、ケーキの「人気度の動向」はやはりクリスマスにピークを迎えるものの、GWも一つの山になっていることがわかります(ケーキのページ)。
ちなみに、Zaimトレンド(α)では「おせち」についても取り上げられており、当然ではありますが、「人気度の動向」を見ると見事に12月30日だけに針のような山が形成されています。こちらでは特に「一緒に買われるもの」にも着目して頂きたいのですが、おせちだけではなく様々なお正月の食材が同時に購入されています。おせちを購入するのは正月の料理を買って済ませたいというわけではなく、自作の料理に加えてお正月の食卓を更に豪華に飾りたいという気持ちの表れと見ることもできそうです。
「生活者データ・ドリブンマーケティング通信」より転載