カレー版カンナエの戦い

カレーを美しく平らげる「円滑系」の静かな戦い

2026.02.16

2026 2 月号

こんにちは。生活総研に複属しているSIXクリエイティブディレクターの坪井です。今日はひとりの生活者から特徴的な行動を抜き出し、帰納的に「新種の生活者の母集団」を導き出す試みをしたいと思います。

カレー版 “カンナエの戦い”

10年来のカレー友達のYさん。彼は、カレーをとてもきれいに食べます。ルーとご飯の境目から食べはじめ、ご飯をルーにスライドさせながら食べすすめ、完食後の皿には一切の汚れを残しません。

僕はこれをハンニバルがローマ軍を破った伝説の戦い、カンナエの戦いになぞらえ『カンナエ食い』~コメ軍によるルー軍への芸術的包囲殲滅戦~と呼んでいるのですが、先日一緒に行ったカレー屋でこの戦術が通じなさそうなカレーが出てきました。お皿のセンターにピシッと縦長に盛られたご飯。その両サイドに2種類のカレー。いわゆる、“ピワン盛り*¹”だったのです。

カレー版カンナエの戦い

*1 吉祥寺のカレー店「ピワン」が編み出した美しい2種盛り

しかし、結論からいうと、彼はコメ軍を繊細に二分し、見事にこの挟撃を切り抜けてルー軍を殲滅しました。
「さすがです、Yさん。王翦*²のようです」
「いえ、米があと50粒少なかったら危なかったかもしれません」

*2 漫画『キングダム』に登場する、戦術に長けた秦の将軍

お店のために、あえて現金で払う

彼がここまでカンナエ食いにこだわる理由。食癖といってしまえばそれまでですが、お店の皿洗いの負担を減らしたいという思いもあるそうです。「ほんまかいな(笑)」と疑いたくなりますが、実際、彼は退席の際にも特徴的な行動をとります。

必ずテーブルをピカピカに拭き、会計時には「現金、しかも新札」で払うのです。理由はもちろんキャッシュレスによるお店の決済手数料の負担を減らすため。新札は、その後お釣りとして使ってもらうとお店の印象がよくなるだろうから、だそうです。(配慮すごい……)

Yさんのような「他者のコスパ・タイパまで気にして、ひとりの生活者として円滑な社会の運営に貢献したい人びと」を仮に“円滑系”と呼ぶならば、例えばほかにどんな行動をとっているのでしょうか? 聞いてみることにしました。

敵はすべての「摩擦」

Yさんに改めてインタビューをしたところ、わざわざ言うほどでもないけど……という前置きで

  • 回転率を気にして、飲食店では長居しない
  • 両隣をケアして、電車の座席には浅く座る
  • 外国人か日本人かわからない場合、日本語で話しかける
  • エスカレーターではベルトが磨耗していない右側に立つ(関東)

などの行動を教えてくれました。3つ目の「日本語で話しかける」なんかは相手のコスパ・タイパだけでなく感情コストまで気にかけた振る舞いです。

「とにかくカレー皿も、テーブルも、肩も、人の感情も、エスカレーターのベルトも、摩擦を起こしたくないんですよね」

おそるべき円滑っぷり。もはや超電導系。でも、さらに面白いと思ったのは「街なかのゴミは拾わない」とのコメント。彼にとって、社会を円滑にするための自らの行動もナチュラルでスムーズ(=普段の行動から逸脱しない、悪目立ちしない)であることが重要なのかもしれません。

改めて円滑系とは「他者との摩擦を極力避け、円滑な社会の運営にひっそりと貢献することに小さな喜びを感じる人びと」(*生活総研ではなく、僕の勝手な命名です)。皆さんのまわりにも密やかに生息していらっしゃるかもしれません。ぜひ、カレーに誘って探してみてください。