病院食でアレンジ料理

病院食でアレンジ料理 みんな向けの「既製品」を自分だけの「私製品」へ 

2026.09.28

2026 9 月号

肩の手術とリハビリで長期入院をしていた頃の兄(67歳・独身)の話です。兄が入院して間もないある朝、チャットアプリでこんな連絡がありました。 

病院食でアレンジ料理

このチャットを皮切りに、トレーに乗った病院食とそれをアレンジした料理の写真や解説が次々と送られてくるようになりました。患者さんの病状にあわせて多少の違いはあるでしょうが、みなさんと概ね同じメニューを自分好みにする兄のチャットからは、みんな向けの「既製品」にひと手間を加える楽しさや喜びが感じられました。今回のコラムでは、そんな病院食のアレンジ料理から得た示唆をみなさんにお届けしたいと思います。 

焼魚と煮物の病院食をアレンジして出汁茶漬けに 

病院食でアレンジ料理

兄から送られてきた病院食をアレンジした出汁茶漬けの写真を見ると、人参を立体的に添える、葉物野菜も加えるなど、盛り付けや色合いにも配慮していることがわかります。兄は長年にわたり食に関わる仕事をしてきたので、細部にまで自己流でこだわることが楽しいことなのだとも感じます。 

他にも、 
・食パンに卵や野菜をのせてトースターで焼いた、オープントースト 
・チーズと食パン用のジャムで、チーズケーキ 
・焼いた豚肉にデザートのマンゴーを潰してのせた、マンゴーポーク 
など、兄のアレンジは多彩です。 

肩の故障のため片方の腕が動かせないなか、兄は病院食のアレンジにせっせと励み、毎食後に写真を送ってきてくれました。そして、たまにアレンジしづらい病院食が出た時には、「今日のお昼はあまり何もできませんでした」と少し寂しげなチャットが届くのです。 

自由が制限される入院生活。だから、自由なアレンジが楽しい 

ずっと独身で自由な暮らしと人生を謳歌する兄にとって、入院生活は心身共にしんどかったと思います。行動を制限され、病院の規約に従わねばならないのですから。入院で自由を奪われるなか、自分で好きなようにできるのが病院食のアレンジだったのでしょう。入院中で何せ時間はたっぷりありますから、兄にとっては「アレンジは遊び」みたいで楽しかったのだと思います。 

そもそもラッキーだったのは、兄がもともとアレンジ上手であったこと。例えば、レトルトや冷凍食品、お総菜にはひと手間加えて、自分なりの手料理にしていました。ビュッフェなど飲食店でも個々の料理を食材として扱い、自己流に仕立てるのを好んでやっていました。そして、このアレンジ志向は兄だけではなく、生活者の間でも高まっているのです。 

食で進むアレンジ志向。他分野でも「私製品」を楽しもう 

博報堂生活総合研究所が定期的に実施する「食に関する生活者調査」(首都圏・阪神圏・名古屋圏、20~69歳男女、1,500人、2025年3月・2026年3月、インターネット調査)によると、レトルトや冷凍食品、お総菜などの「調理済み食品をよく使う」人が増えています(2025年52.1%、2026年58.2%、6.1pt増)。そして、注目したいのは、その使い方。「調理済み食品をアレンジした料理を食べる」が2025年40.4%から9.2ptも増えて、49.6%と約半数に達しています。さらに、こうした「調理済み食品のアレンジ料理は手作りだといえる」と考える人も4.7pt増で、3人に2人の割合(61.9%)となっています。 

病院食でアレンジ料理

これから求められるのは「完成品」より「半製品」? 

生活者の価値観や行動が多様化する今、この「私製品」への志向は食だけでなく、ファッションや趣味のグッズなど他分野にも広がっていくのではないでしょうか。だとしたら、これから求められるのは、自由なアレンジが効かない「完成品」ではなく、あえて未完で提供することで生活者が好きなように仕上げて完成させる「半製品」なのかもしれません。