意味不明金

使途不明金ならぬ「意味不明金」の実態

2025.05.19

2025 5 月号

「裏金」は、時代劇の悪徳商人とお代官さまとのやり取りなどでもしばしば描かれますが、日々の生活のなかで出たり入ったりするお金のなかにはどう使われたのか明細が不明なものも確かにあります。

博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)は、1982年8月発行の『生活新聞』において「使途不明金」を特集しました。これは、総理府統計局(現在の総務省統計局)が毎月発表していた家計調査報告において、使途不明金(現在は「こづかい(使途不明)」と表記)の月額が「食料費:69,032円」に次ぐ28,276円で、支出全体の11.3%を占めていたことに注目した調査記事でした(データは1981年平均)。

使途不明金は激減

それから40年以上が過ぎた2024年、同じ調査における「こづかい(使途不明)」の月額平均は5,867円。1981年当時の1/5程度まで激減しています。これは、長らく続いた景気の低迷や可処分所得の減少に加えて、サブスクリプション料金など固定費の増加、キャッシュレス化でお金の流れが透明になったことなどが影響しているかもしれません。また、このデータは世帯単位の調査なので1世帯の人数が当時より減少したことも影響している可能性があります。

このように、自分にとっては使途不明でなくなりつつあるように見える支出ですが、周囲から見れば不明なお金の使い方は今もまだあります。例えば、身近な人のお金の使い方について「そんなものにお金を使うのは意味不明だ」「無駄としか思えない」と感じたことはないでしょうか?

今月の『月刊 生活総研』は、こうした他者から理解されづらいお金の使い方について生活者に聞いてみました。(博報堂生活総合研究所「意味不明金」調査 首都圏・阪神圏・名古屋圏、20~69歳男女、1,500人、2025年4月、インターネット調査)

5割が経験する「意味不明金」

まずひとつ目の質問は、「無駄」「意味がわからない」と感じる買い物やお金の使い方を対象にしたもの。「周囲にいる人について『無駄』『意味がわからない』と感じたことがある」「自身について誰かから言われたことがある」「自身について自覚したことがある」「あてはまるものはない」という選択肢から複数回答で答えてもらいました。

周囲の誰かのお金の使い方について「無駄」や「意味がわからない」と感じたことがある人は32.8%。一方、誰かに指摘されたことがある人は9.6%と少なく、他人のお金については「意味不明」と感じやすいものの、指摘を受けるのはかなりレアケースであることがわかります。また、自身について自覚したことがある人は14.6%と、誰かに言われた経験者よりも多いようです。

意味不明金

「◯◯にあんなにお金を注ぎ込むなんて意味不明だよ」などと誰かに言われた経験者(9.6%)が1割以下にとどまる理由は、意味不明金についての対応を聞いた調査結果からもうかがえます。

周囲の対応は…

「周囲の人の『無駄』『意味がわからない』と感じる買い物やお金の使い方について、どのように対処するか」を聞いた質問では、圧倒的に多かった答えが「見て見ぬふり」で71.7%。「やめてもらえるよう話す」(11.6%)、「嫌味を言う」(9.8%)といった何らかのアクションをする人は合計しても2割にとどまっています。

無用なトラブルを避けたい心理もあってか、ほとんどの人は「意味わかんないよ……」と思いながらも特に関わろうとはしない。だから、「誰かに言われたことがある」と答えた人は1割以下とかなり少ないのでしょう。

意味不明金

支出先は推し活、ゲーム…

では、どんな支出が「意味不明」と思われやすいのでしょうか。周囲の人の意味不明支出について自由回答をカウントしたなかで最も多かった答えは、「推し活やアイドルグッズの購入」で33件。「ゲームへの課金」と「ギャンブル(パチンコなど)」が29件で続きます。分煙がかなり広がった世相もあってか「タバコ」は26件ですが、同じ嗜好品でも「お酒・飲み会」は14件と少し差が開きました。

意味不明金

これらはいずれも、支出する側にとっては深い愛着やこだわりがある、没入感が高い行動です。昨今はイマーシブ(没入型)コンテンツが注目を集め、体験できる場も増えています。たとえばVR映像を見ている様子を思い浮かべていただくと、ゴーグルを装着している人には感動や驚きがあっても、周囲の人からは何を見ているのかさっぱりわからない。ある趣味にどっぷり熱中することを「沼る」と言いますが、沼りやすい趣味や支出は周囲から意味不明金と評価されやすいと思われます。

n=1の答えから「虫の目」で迫る

ただ、「没入しているものへの支出は周りから理解されにくい」という調査結果だけでは、阪神タイガースを率いた岡田彰布・元監督の言葉を借りれば「そら、そうよ」といったところでしょう。そこで、自由回答のなかから筆者が興味深いと感じた声を【誰の】【どんな行動】【「意味がわからない」と思う理由】という流れでご紹介します。

  • ケース①

東京に住む60代の女性は、【娘の夫】が【映画館で前後左右の席をすべて購入する行為】が理解できないそうです。理由は【もったいない】から。たしかに左右が空いて前は見やすく、後ろからも席を蹴られなくなるのは安心ですよね。義理の息子さんは映画を深く愛しており、最高の空間を作りたいのかもしれません。鑑賞料金は5倍かかってしまいますが、「人払い欲求」とも言えるでしょう。

  • ケース②

大阪に住む20代の女性は、【姉の夫】が【外食】するのが意味不明とのこと。くわしく理由を見てみると、【お弁当をつくってもらえるのに断って外食しているから】。最近はランチ代も上がっているので、こう言いたくなる気持ちもわかりますが、お義兄さんの行動は一日一食くらいは手料理以外で好きなものを食べたい「プチ贅沢欲求」にもみえます。

  • ケース③

東京に住む50代の女性は、【夫】が【自動販売機で飲料を買う】ことの意味がわからないといいます。【ドラッグストアで買えば半額なので】という理由は、上述した「ランチは外食しないでお弁当を」という節約志向にも近いものを感じます。ただ、自販機はあまり場所を選ばずに冷たい・温かい飲み物が手に入るのがメリット。夫は飲み物の「温度欲求」を叶えているのかも。

  • ケース④

大阪に住む50代の男性は、【同僚】の【腕時計】が無駄だと感じるよう。【時間がわかればいいから】という理由ですが、スマートフォンや携帯電話が普及し、時間を知るだけならそもそも時計を身につける必要がなくなっている実態もうかがえます。この同僚の方は、職人の手による高級な自動巻き時計を愛用しているのかもしれません。時間だけならスマホでもわかる時代だからこそこだわる「手仕事欲求」とも考えられます。

自覚しているのは意外にも…

さて、支出について誰かに「意味がわからない」と言われる(9.6%)よりも、自覚する人の方が多い(14.6%)ことは先ほどご紹介しました。不思議なことに、自覚している対象はずいぶん様子が違うのです。

自覚している意味不明支出の自由回答を数えてみたところ、最も多かったのは「お菓子・おやつ」で17件。「ギャンブル」はこちらでも12件ありますが、「酒・飲み会」「ゲーム」が1桁台で続き、「推し活」を意味不明と自認している人はわずかに3件でした。

意味不明金

推しへの愛は、周りからは意味がわかりづらいものの本人にとっては確固たる気持ちであり、信念がある支出なのでしょう。一方でお菓子やおやつは、空腹や「自分へのごほうび」などと言いながらついつい買ってしまいがちなもの。食べ終わってみると「意味不明だった」と感じる人が多いのは、愛の深さ=沼度からみると順当のようにも思えます。

使途不明金は暮らしのなかで激減していますが、意味不明金は今後どうなっていくでしょう。インフレも厳しい世の中で「無駄遣いするな」という意見ももっともですが、愛と没頭から生まれるお金だとするならば少しは大目に見た方が生活に彩りが出そうな気もします。

1982年の生活新聞「使途不明金」

本文冒頭でも紹介した1982年8月31日発行の生活新聞「使途不明金」です。

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