生活元年

「美白」「行きつけ」「よっこいしょ」…新行動が生まれる年齢『生活元年』からみえた転機とは

2026.03.23

2026 3 月号

2025年3月、博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が『月刊 生活総研』創刊号において発表した「令和の生活寿命」。おかげさまで多くのメディアで取り上げていただき、立ち上げ当初から最大のヒット記事となりました。このテーマでお伝えしたかったのは単なる行動の寿命ではなく、「何かの終わりは何かの始まりである」ということ。そこで、今年の1月号では「食」をテーマに新しい行動が始まるタイミングをあらためて調査し、「食の生活元年」と名づけてご紹介しました。今回は、さらに対象を生活全般に広げ、「新しく何かが始まるタイミング」を探ってみましょう。(博報堂生活総合研究所 「生活元年」調査 首都圏・阪神圏・名古屋圏、20~69歳男女、1,500人、2026年1月、インターネット調査/ 「生活寿命」調査、同2024年8月)

生活元年

「終わり」と「始まり」はつながっている

「何かの終わりは何かの始まり」という例を、生活寿命と生活元年をつなげて具体的に見てみましょう。生活寿命では、徹夜をすると翌日使い物にならなくなる「徹夜寿命」は39歳5ヵ月でした。30代まではギリギリ徹夜もできる、というのは体感的にも納得できるのではないでしょうか。では、そろそろ徹夜も厳しくなってきたな……と感じ始めた生活者はどう対応するのか。今回調査した生活元年では、自分の記憶力を過信せずスマホや手帳に記録・管理させる「外部記録元年」が39歳1ヵ月となりました。どうしても衰えがちな記憶力に頼らずテクノロジーを積極的に活用する、というのはひとつの解決策として現れているのかもしれません。

また、食事で大盛りを頼めなくなる「大盛り寿命」は、42歳4ヵ月。翌日を考えて深酒を控えるようになる「深酒寿命」は42歳11ヵ月でした。40代前半は生活者にとって、食べ物やお酒との向き合い方を考え直すタイミングであることがわかります。一方、生活元年では、混雑した人気店よりも知る人ぞ知る穴場の店を探したくなる「穴場探し元年」が43歳4ヵ月。定期的に休肝日を設けるようになる「休肝日元年」は44歳2ヵ月となりました。食べ物でもお酒でも、「量」以外の楽しみ方があります。手近な店やランキング上位の店で食事を済ませるだけでなく、時間をかけてでも自分が愛せる店を見つけること。食と健康をより組みあわせて考えるようになること。これらは、ひとつの行動が寿命を迎えた際に生まれる新行動とも言えるでしょう。

失恋元年、婚活元年は何歳?

では、どんな生活元年が何歳くらいで訪れるのか、全体をざっと見てみましょう。まず10代で訪れるのは、初めて人を好きになる「恋愛元年:13歳4ヵ月」やこの年齢からなら子どもにスマホを持たせてもよいと思う「スマホ適齢期元年:15歳4ヵ月」、初めて失恋をする「失恋元年:16歳8ヵ月」など。淡い初恋は中学から高校にかけての3年間くらい、といったイメージでしょうか。スマホについては、近年は小学校6年生の卒業直前に買ってもらって地元の幼なじみとLINEでつながる、といった生活行動も見られますが、世間のイメージとしては、中3から高校に上がるくらいのタイミングが適切と考えているようです。

続いて20代で訪れるのは、夜通しで遊ぶようになる「オールナイト元年:20歳5ヵ月」、メイクをするようになる「メイク元年:22歳2ヵ月」、結婚するために婚活を始める「婚活元年:29歳6ヵ月」など。メイク元年は男女差が大きく、男性が26歳2ヵ月なのに対して女性は18歳4ヵ月。

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一方で婚活元年は男性30歳1ヵ月に対して女性28歳11ヵ月と大きな差がみられません。男女とも30歳という節目を目前にすると結婚がリアルになる、と考える人が多いようです。生活総研が2年おきに実施している長期時系列調査『生活定点』でも「結婚は若いうち、できれば30歳までにすべきだと思う」と考える人は右肩下がりで、2024年は男性で25.2%、女性は16.8%でした。今や結婚・婚活は「30歳まで」ではなく、むしろ「30歳からがスタート」という状況に変化しつつあると言えそうです。

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30代で迎えるのは、日焼けを避けて美白を意識し始める「美白元年:30歳1ヵ月」、子どもや親せき、孫などにお年玉をあげ始める「お年玉あげる元年:37歳0ヵ月」、常連客扱いされることが嬉しく感じ始める「常連客化元年:38歳6ヵ月」など。美白元年はメイクと同じく、男性34歳2ヵ月に対して女性は26歳1ヵ月と男女差が大きく開いていました。また、このくらいの年頃から、お年玉やお店の常連になる、といったある程度の経済力が求められる生活行動が始まるようです。 

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40~50代は人生の「折り返し地点」か

人生で最も多くの「初めて」を経験するのはもちろん子どもの頃ですが、大人のライフスタイルの変化に注目した今回の調査(全61項目)では、生活元年が最も多かったのは40代で24項目。野菜などをスーパーではなくコンビニでも買うようになる「コンビニ生鮮食品元年:41歳10ヵ月」、体にフィットしすぎないファッションを選びがちになる「ゆるゆる元年:44歳9ヵ月」、一生の行きつけの店が見つかり始める「行きつけ元年:46歳3ヵ月」など、最も多くの転機が集中していることがわかりました。

50代の生活元年も21項目とかなり目立ちます。休日などに夫婦で別々の場所に外出するようになる「夫婦別行動元年:51歳3ヵ月」、立ち上がるときに「よっこいしょ」「どっこいしょ」と言い始める「よっこいしょ元年:52歳4ヵ月」、自分の外見への興味が薄れ、鏡を見る回数が減る「鏡離れ元年:54歳4ヵ月」など、この時期は無理に合わせる人間関係や他人の目線といったしがらみから解放されて、本当に自分が心地よいペースを選び取ろうとしているようにも見て取れます。

60代で訪れるのは優先席に座っても良い年齢になったと思い始める「優先席元年:64歳8ヵ月」や遺書を書くなど、終活を始める「終活元年:67歳0ヵ月」など。優先席元年は、20代が62歳0ヵ月と回答したのに対して当の60代は67歳4ヵ月と5歳以上の差が開き、中高年もまだまだ健在といったところでしょうか。こうした意識の差は70代の杖をついて歩き始める「杖元年:75歳1ヵ月」でもみられ、20代が71歳11ヵ月と考えるのに対して、60代は79歳4ヵ月と答えています。若い世代が考えるよりも、実際のシニアは自らの体力や健康状態に自信と希望を持っているようです。

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元年は変化のチャンス

このように「何かの終わりは何かの始まり」と考えると、新しいことを始めるのは決して若い頃だけの特権でないことがわかります。40~50代といえば、子育てや住宅ローンなどの経済的負担、会社では中間管理職としてのストレス、また体力の低下や健康不安、人によっては家族の介護なども抱え、人生のなかで比較的大変な時期と考える人が少なくないでしょう。しかし、新しい行動が多く生まれる人生の転換期、新生の季節とも考えられるのです。

フランスの哲学者・アランの言葉を借りれば、「悲観は気分、楽観は意思」。見方を変えれば、歳を重ねることも超高齢化社会も、様々な始まりに満ちているとも思えてきませんか。また、新しい一歩を踏み出す生活者は、それまでとは異なるモノやコト、情報を必要としているはず。そうしたニーズに寄り添う企業と生活者の間には、新たな信頼関係が生まれるかもしれません。

※本「生活元年」調査では下記のように聴取しています。
『次にあげる項目について、あてはまると思う年齢は何歳ですか。(自分に該当しない項目でも、そうしたことをしている人の気持ちや立場を想像してお答えください。)』