少齢化社会 博報堂生活総合研究所 みらい博 2023

Part 3 消齢化の未来

消齢化はこの先も続くのか?

過去から現在にかけて進行している消齢化ですが、
これはこの先も続いていく潮流といえるのでしょうか。
未来でどのような突発的な変化が起こるかは
見通しがたいものですが、
ひとつの参考とするため、「生活定点」データに対し
コウホート分析を実施。
各世代が2022年時より10歳上になった状態を、
世代効果と年齢効果の組み合わせでシミュレートし、2032年の「生活定点」データを推計しました。
その結果、2022年までに消齢化の傾向がみられた項目の多くが2032年においても消齢化し続けていることが確認されました。
つまり、この推計法の限りでは、
10年後も年齢による意識・好み・価値観などの違いはさらに小さくなっていくと考えることができそうです。

出典:博報堂生活総合研究所「生活定点」調査をもとに
コウホート分析を応用して推計
消齢化が進むと何が変わるのか?

消齢化の進行は、社会構造や市場、人との関わり方をはじめ、
幅広い事象に対してインパクトを及ぼします。
そこでは、これまでの方法や捉え方が通用しなくなり、
新たな視点が求められることになりそうです。
消齢化の動きが顕著になるにつれ、
「年代/年齢が違っていても、
意識や価値観、好みなどはあまり違わない」こと、
「年代/年齢に紐づく“らしさ”は薄れつつある」ことは、
徐々に社会のなかで共通認識として広がっていくはずです。
そうして、生活者が自分たちの社会を
「消齢化社会」であると認識し、積極的に向きあうことで、
個々人が生き方を変えるきっかけにも
つながっていくでしょう。

消齢化が進むことで起こる4つの変化 消齢化が進むことで起こる4つの変化

個人の生き方が変わる

•固定から可変へ •実年齢から実質年齢へ

固定から可変へ 固定から可変へ

生き方の脱デモグラが加速する

これまで自分の年齢に囚われずに生きられる人は限られており、多くの人はある程度、「年相応」を意識して生きてきました。しかし消齢化によって、これまで多くの人が抱いていた「若者は、高齢者は、こういうもの」という年齢に紐づく“らしさ”のイメージは弱まっていきます。それは「年齢とか、与えられた属性に縛られず、もっと自由に生きてもいい」という気づきにつながり、【生き方の脱デモグラ※】が加速することになるでしょう。

※デモグラ:年代や年齢、性別、居住地域などの生活者の基本属性を表す「デモグラフィック特性」の略語

属性を変えながら生きる時代へ

個人の属性は「固定」のものではなく「可変」なものへ。年相応ではなく気分相応で、老若男女を柔軟に切り替えて生きる時代の到来です。「歳の差婚」は珍しくなくなり、【歳の差クラスメイト】も日常風景に。メタバースなどのバーチャル空間は【消齢空間】としての色彩を強め、年相応から逸脱したい生活者の新たな生活拠点となるでしょう。 生き方の脱デモグラをサポートする企業の動きも活況になり、まるで異なる生き方をAIが推奨してくれる【転生アシストサービス】などの利用も進みそうです。

実年齢から実質年齢へ 実年齢から実質年齢へ

高まる「実質年齢」への関心

かつてはその人の年齢とライフステージのリンクは強く、また健康度合いとの関連も比較的はっきりとしていました。それはすなわち「実年齢」が生き方や健康を考えるための基準として機能していたということです。しかし消齢化がさらに進むと、基準としての実年齢の意義は薄れていくことでしょう。実年齢にかわって重視されるのは、肉体年齢、肌年齢、精神年齢など、フィジカルやメンタルの実際の状態を測定して算出される「実質年齢」。生活者は「実質年齢」をもとに、自分が何歳相当なのか、何歳でありたいかを意識して、人生の目標を立てたり、健康ケアをしていくことになるでしょう。

「実質年齢」基準で再編が始まる

生き方の基準は「実年齢」から「実質年齢」へ。それに伴い、実年齢ではなく肉体年齢などを基準に保険料を決める
【実質年齢保険】のような商品・サービスが支持を集めたり、企業や行政が発行する【実質年齢証明書】が、新たな資格のように活用されていくことになるでしょう。仕事などの定年を実年齢で判断せず実質年齢に切り替えるなど【節目の実質年齢化】も、各方面で進んでいくかもしれません。

人との関わり方が変わる

•対立から対話へ •両端から真ん中へ

対立から対話へ 対立から対話へ

「わかりあえる」が共通認識に

消齢化は生活者同士の関わり方にも影響を与えます。昔と比べて「全年代的に価値観の違いは小さくなっている」、「自分もほかの人も、基本的な考えはそれほど離れていない」という共通認識が徐々に浸透。それが人間関係にポジティブな影響を及ぼすことになりそうです。ネット上の顔の見えない相手とも批判の応酬に終わらず建設的に議論しやすくなったり、これまでは勝手に隔たりを感じて敬遠していた他年代の人たちとも関わりやすくなったり。「わかりあえない」ではなく「わかりあえる」が関わり方の基盤となる未来が広がりそうです。

対話を促す仕組みづくりが活発に

幅広い層、普段関わらない人たちとも積極的に対話・交流することが、社会課題の解決や個人の幸福度にもつながる。消齢化がそんな考えを後押しし、【100人でシャッフル居住】【ディベート居酒屋】など社会における人の交わりを活発化する仕組みづくりが進んでいくでしょう。同時に、離れた年代同士の対話や協働を促すコミュニケーション上の工夫も、随所で起こってきそうです。敬意とフレンドリーさを同時に表す【タメ敬語】が使われだしたり、「青二才」や「ロートル」などの【歳の差ワード禁止】が社会のルールとして浸透したりするかもしれません。

両端から真ん中へ 両端から真ん中へ

重みを増す「真ん中」の人びと

生活者の特徴が年代ごとにみえやすかった時代には、年代の両端である若年層と高齢層の意識や価値観はかけ離れていました。かつ、それぞれの特徴が語りやすかったため注目を集め、その動向が大きく取り上げられることになりました。「Z世代」や「アクティブシニア」など、“固有名詞”を与えられ、人びとを牽引する存在として語られるのは、主に両端の生活者だったのです。
しかし、消齢化が進んでいくとどうでしょうか。消齢化のグラフ波形をみると、若年層と高齢層の折れ線が接近するその中心には、ミドル層が位置していることがわかります。すなわち、消齢化と共に「真ん中」の意識や価値観が、ベンチマークとしての重みを増してくるということです。

ミドル層が躍動する社会へ

消齢化によって人びとの牽引役は「両端」から「真ん中」へ。これまで埋没しがちだった中年の生活者にとっては、【ミドルの復権】につながる朗報です。代表性の高い意識の持ち主として、また若年層と高齢層の間をつなぐコミュニケーションの要として、【触媒ミドル】が地域や企業のキープレイヤーになります。単なる「中間管理職」にとどめずに、40代の間だけ役員を任せる【重役ミドル制】など柔軟なルールを敷き、円滑な組織運営を図る動きも目立ってくるでしょう。

社会構造が変わる

•小さな群から大きな塊へ •地域差から地域和へ

小さな群から大きな塊へ 小さな群から大きな塊へ

社会で進む「デモグラ離れ」

生活者の性別や年代などの「デモグラフィック特性(デモグラ)」は、数的な把握がしやすく、わかりやすい属性として、広く社会で利用されてきました。「若者の特徴」「50代男性の特徴」などを語る動きは、日々の話題やメディアの情報、企業のマーケティング活動などに数限りなく登場します。しかし消齢化が進み、さらに人口減少も続いていくなかで、デモグラによって生活者を細かく区分して社会を把握することの有効性は、この先さらに薄らいでいきます。またジェンダーレスをはじめとする、人を個人の身体属性で区分することへの倫理的な反発も相まって、社会全体が“デモグラ離れ”への動きを強くすることになるでしょう。

捉え直しの好機がやってくる

これからの社会構造は「小さな群」ではなく「大きな塊」へ。 【脱デモグラ視点】で社会を見つめ直すことは、課題を機会に変えるきっかけにもつながります。規模の縮小に悩むマーケットにしてみれば、【新たなマス】を発見するチャンスでもあり、人口減少に直面するコミュニティにとっては、【大きな同じ】に着目して人々のリレーションを拡大し活性化するチャンスとも捉えられます。生活者全体を広く捉え直し、需要を持つ人や課題を抱える人を新たに割り出す【再集計ブーム】が各所で活発化するかもしれません。

地域差から地域和へ 地域差から地域和へ

地域格差は緩和に向かう

消齢化の影響は地域社会のあり方とも無縁ではありません。地域住民に占める若者や高齢者の割合は各都道府県でまちまちであり、それが街の活性化度合いなど、様々な「地域格差」につながってきた面があります。しかし消齢化が進むことで、「実質年齢」が表面上の年齢よりも“若い”生活者が増加するなど、格差を緩和する動きにもつながりそうです。「若者が少ない」「高齢化が深刻」と悩んできた自治体にとっては、「高齢層のなかにも実質的には“若者”のような人たちがたくさん見つかった!」などの機会をもたらす明るい兆しとなるかもしれません。

「同じ」に着目した動きが加速

さらに、「実質年齢」でみた各地域の人口構成のバラツキが、消齢化によって緩和されると、地域同士で「差」を追求して競いあう発想にも転機をもたらし、「同じ」に着目した連携が加速するかもしれません。「あっちは自分の地域とは違う」という心理的なハードルが下がり、地域をまたいだ人の移動や地域コミュニティ同士の協調が活発化。季節や目的ごとにこまめに居住地を変える【アラカルト移住】や、自治体が同じ強みを束ねてアピールする【同域連携】【合同ふるさと納税】など新たな試みが各所から出てきそうです。

市場が変わる

•ヨコ串からタテ串へ •違い作りから同じ探しへ

ヨコ串からタテ串へ ヨコ串からタテ串へ

有効性を増す「タテ串」発想

消齢化が進んでいく日本社会では市場構造も変わります。年代による違いが目立っていた時代には、下の年代から上の年代まで、それぞれを横に区分けるように商品ポートフォリオを構築する「ヨコ串」の発想が機能していました。しかしこの先、前パートでみたように、消齢化によって年代による好みや関心の違いは小さくなっていきます。そうなると、「この製品は若者向け」などデモグラ属性を絶対視せずに、思い切って複数の年代を一気通貫する「タテ串」の発想が有効性を増していきそうです。

商品戦略の再編が始まる

例えば店舗やモールのフロア構成も、性年代への依拠から脱した【タテ串フロア】が増加。「親子コーデ」「母娘旅行」など2世代を対象としていた消費も、祖父母・親・子どもまでを一気に貫いて【3世代消費】【3世代シェア】を狙える余地も大きくなっていきそうです。個々のターゲットに対しても、ひとつの商品に若年時に触れてもらい、老齢になっても使い続けてもらう【超ライフ・タイム・バリュー(SLTV)戦略】も有効性を増すでしょう。そのために、幅広い年代のみんなが使用するシンプルな機能だけに特化した【超ユニバーサル商品】の開発に力を入れる企業が増えていくかもしれません。

違い作りから同じ探しへ 違い作りから同じ探しへ

訴求の軸足は「同じ」にシフト

社会構造が「小さな群」から「大きな塊」へと性質を変えていくのに応じて、商品開発や商品訴求の切り口も変えていく必要がありそうです。生活者同士の「違い」を掘り下げて、それに合わせて細かく機能価値や情緒価値を検討していく方法よりも、年齢も見た目もバラバラな生活者の中に大きな「同じ」を探し出し、広く訴求するアプローチにこそチャンスが広がっていくでしょう。人口減少によるマーケット縮小を憂うよりも、【一億総エントリー層】くらいの心構えで、生活者に向きあう大胆な発想転換が活路につながります。

「同じを楽しむ」ニーズが新市場に

他方で生活者のなかにも消齢化を受けて、他者との差別化ではなく、年代の異なる人たちとの「同じを楽しむ」マインドが形成されそうです。企業には、生活者の「同じ探し」に寄り添う発想も重要になってくるでしょう。“共通項”の手がかりを服やメイクなどの見た目にわかりやすく盛り込んだ【記号型ファッション】、ペットの散歩や読書など、日常でルーティン化している行動を他人と一緒に行いやすくする【共時化サービス】など、「同じ探し」ニーズに応える商品・サービスは有望な市場となっていくでしょう。

生活総研の提言 消齢化が進む未来。発想転換でチャンスを見出そう。

「消齢化社会」という研究を通じて、
私たちが伝えたかったこと。
それは、「高齢化」や「少子化」といった
大きな課題に直面して
いても、
社会や生活者を捉え直し、
新しい機会を見出すことは
できるのだということです。

“少子高齢化×消齢化”で
社会を捉えよう

日本社会の将来を見通すにあたり、かねてより「高齢化」や「少子化」にはスポットが当たっていました。マクロデータで実数として把握でき、国力や経済力にも直結する人口動態は注目を集めがちですが、今回そこに消齢化という潮流を加味することで、また違う社会の姿が映しだされました。少子高齢化を社会の量的な変化と捉えるならば、消齢化はいわば、社会の質的な変化だといえるでしょう。量と質、両面の視点からこの先の社会を俯瞰してみると、 「大きな塊」や「脱デモグラ」などの新しい機会がみえてきます。少子高齢化という悲観的な見通しも、視点を変えれば大きなチャンスになり得るのです。

“デモグラ”を疑おう

ここまでお伝えしてきた通り、社会が消齢化に向かうことで、生活者を年代で括って捉えることの有効性は薄れていきます。生活者のデモグラ属性をもとに何かを語ったり、分析をすることは、フレームとしては非常にわかりやすく、納得度も得やすいアプローチでした。しかしこの先、その便利さに拘泥すればするほど、生活者のことがみえなくなっていくならば、どこかで慣れ親しんだフレームから思い切って脱却することも必要になってくるでしょう。完全に捨て去らないまでも、一度視点を「脱デモグラ」にすることによって、むしろ本当に有効な生活者の属性・特性との向きあい方がみえてくるのではないでしょうか。

次に“消える”ものに
着目しよう

消齢化は年代や年齢に着目した生活者の変化ですが、これを性別に置き換えて考えるとどうでしょうか。言わずもがな、ファッションや化粧品など消費の面や、仕事や結婚など生き方の面でも男女の違いはどんどん小さくなっています。それは男女の「ジェンダーレス化」であり、あえて言えば「消性化」ということになるでしょう。性別や年代という主要なデモグラ属性で“違いが小さくなっている”という変化が起きているのは、たまたまなのでしょうか。違いが小さくなっているほかの側面もあるのではないかと着目し、次の「消○化」の動きを大胆に予測することで、また別の未来の可能性に気がつくことができるはずです。