博報堂生活総合研究所 みらい博2025 働き直し 仕事が変わる。日本が変わる。

「半分」に分かれる
重要な働くに関する価値観
~マネジメントはますます困難な時代に~

2025年度のみらい博のテーマは「働く」でしたが、みらい博の書籍やwebサイトで紹介した調査データは、実はほんの一部で、博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)では、4回にもわたって(2024年5月、8月、10月、12月)膨大な数の質問を聴取しています。この膨大な一連の調査において、働くに関する重要な価値観は「半分」に分かれるものが多くありました。
では実際に、どのような項目の価値観が「半分」に分かれていたのか詳しくみていきます。

①「働く幸せが欲しい」派VS「働かない幸せが欲しい」派(2024年8月調査)

まずご紹介したいのは、「働く幸せが欲しい」派か「働かない幸せが欲しい」派かどちらかという項目です。結果は、「働く幸せが欲しい」と回答した人が48.8%、「働かない幸せが欲しい」と回答した人が51.2%となっています。最近は、若いうちに経済的に自立して仕事を辞める「FIRE」や、アメリカにおいては、「Lazy-Girl Job(怠け者の仕事)」という自宅で仕事が可能で、上司も厳しくなく、午後5時には必ず仕事が終わり、ソコソコの年収がもらえるキャリア観が注目を集めているので、「働かない幸せが欲しい」派が増えてきているような気がしてしまいます。
実際に、「働かない幸せが欲しい」派が他の性年代に比べて高かったのは男性20代で58.8%、男性30代で58.8%、そして女性20代で66.7%となっており、若年層においては「働かない幸せが欲しい」派が多数存在しているようです。
しかし、全体でみると結果は「半分」。仕事を人生の重要な一部と捉え、やりがいや充実感を得たいと考えている人も中高年を中心として存在しているようです。

② 「人の成長や育成に関わる仕事をしたい」派VS「自分の成長だけを考える仕事をしたい」派(2024年5月調査)

「人の成長や育成に関わる仕事をしたい」派か「自分の成長だけを考える仕事をしたい」派かという質問も聴取しています。「人の成長や育成に関わる仕事をしたい」と回答した人は51.6%、「自分の成長だけを考える仕事をしたい」と回答した人は48.4%という結果になりました。
性年代別でみてみると、他の性年代と比較して「自分の成長だけを考える仕事をしたい」派が高かったのは、男性20代で57.3%、男性30代で53.9%となっています。男性20・30代は「働かない幸せが欲しい」派が他の性年代に比べて多数存在することは先ほどご紹介しました。そもそも仕事への意欲が高まりきらない時期において、他の人の面倒までみるモチベーションはまではないということなのでしょうか。また、将来を見据えて、若いうちにスキルを習得することを意識しているのかもしれません。
また、40・60代では「人の成長や育成に関わる仕事」派が多数派であるのに対し、50代においては男女ともに、「自分の成長だけを考える仕事」派が多数派に転じています。定年退職を見据えて、リスキリングを始める方もいるのかもしれませんね。

③仕事は「ひとりで進める」派VS「仲間とチームワークで進める」派(2024年10月調査)

「仕事はひとりで進める」派か「仕事は仲間とチームワークで進める」派かという項目も聴取しています。結果は、「自分ひとりで仕事を進める」と回答した人は48.1%、「仲間とチームワークで仕事を進める」と回答した人は51.9%となりました。ひとりで仕事をする方が作業に集中できたり、自分の意志が反映されやすかったり、対人関係のストレスを感じにくいなどのメリットがありますが、一方で仲間とチームで仕事をすることで、アイデアに煮詰まったときにアドバイスをもらえたり、何かを成し遂げたときの達成感が共有できたり、作業分担ができるなどのメリットもあります。
性年代別でみてみると、他の年代に比べて「仕事は仲間とチームワークで進める」派は女性20代で57.6%、女性30代で58.3%と高くなっています。女性20・30代は結婚や出産によってライフスタイルに変化が起こりやすく、仕事と家庭の両立させるためにはチームで協力して業務を分担する必要がある様子がうかがえます。

④「仕事の内容重視」派VS「一緒に働く人重視」派(2024年8月調査)

続いて、「仕事の内容を重視する」派か、「一緒に働く人を重視する」派かという項目についてご紹介します。「仕事の内容を重視する」と回答した人は50.7%、「一緒に働く人を重視する」と回答した人は49.3%という結果になりました。
性年代別でみてみると、「一緒に働く人重視」派が女性20代で67.6%、女性30代で67.8%と他の年代に比べて高くなっています。先ほど「仕事は仲間とチームワークで進める」派が女性20・30代で高くなっているデータをご覧いただきましたが、今回のデータも同様で、ライフスタイルの変化が起こりやすい年代ならではの結果と考えられます。
また、「仕事の内容重視」派が多数存在するのは、男性40・50・60代、女性60代となっています。ある程度スキルが身につき、自分の裁量が大きくなればなるほど、ひとりで回さなければならない業務は増えてきますから、どのような仕事に関わるかが重要に感じられるのは納得です。

⑤“働いている時の自分”と“本来の自分”は「同じ」派VS「違う」派(2024年10月調査)

仕事が休みの日に同僚に会うと、仕事の際と全く印象が異なる人はいませんか。“働いているときの自分”と“本来の自分”は「同じ」派か「違う」派かという質問についてもみていきましょう。「同じ」と回答した人は、51.9%、「違う」と回答した人は48.1%という結果になりました。
性年代別でみてみると、他の性年代と比較して「違う」派が、男性30代で56.0%、そして女性20代で54.0%、女性30代で54.1%と高くなっています。最近は若年層を中心に、ひとつのSNSにおいて複数のアカウントを使い分けている人が多数存在します。過去に生活者ヒアリングをしたなかでは、10個近いアカウントを使い分けている方もいらっしゃいました。ひとりの人間といえども、例えば、推し活が好きな自分、ファッションに興味がある自分、英語が得意になりたい自分……複数の側面を持ち合わせおり、それぞれのアカウントをつくっているとのことなのです。若年層を中心として、このシチュエーションによって自分自身の個性を出し分ける「カメレオン」化が無意識のうちに得意になっているようです。過去に行った生活者ヒアリングでは、仕事を多く振られすぎないために、あえて「おバカキャラ」を演じるという若者を見たこともあります。「仕事」ではどのような個性を出し分けるとよいだろうか、という、ある種の自己ブランディングを行っている人は増えているのではないでしょうか。

⑥「アイデアや創意工夫が求められる仕事をしたい」派VS「規定や指示されたことをきちんとこなす仕事をしたい」派(2024年5月調査)

では最後に、「アイデアや創意工夫が求められる仕事をしたい」派か「規定や指示されたことをきちんとこなす仕事をしたい」派かという質問についてみていきましょう。「アイデアや創意工夫が求められる仕事をしたい」と回答した人は49.0%、「規定や指示されたことをきちんとこなす仕事をしたい」と回答した人は51.0%という結果になりました。
性年代別でみると、男性は、20・30代では「規定や指示されたことをきちんとこなす仕事をしたい」派が多数派であるのに対し、40代以降では「アイデアや創意工夫が求められる仕事をしたい」派が多数派に転じます。仕事のおもしろみが味わえる余裕が40代以降にようやく生まれるということのでしょうか。一方女性は、60代を除いて「規定や指示されたことをきちんとこなす仕事をしたい」派がずっと多数派のようです。家事に育児に、仕事以外にもやらなければならないタスクを多く抱えているからこその結果なのでしょうか。そして、それらが落ち着いて仕事に割ける時間的、体力的、精神的な余裕が生まれるのが60代ということなのかもしれません。

今回の記事では仕事に関する重要な価値観が「半分」に分かれたデータを6つ紹介しました。

同じ職場のなかで、あるひとつの価値観がマジョリティであれば、管理職はその考えを尊重すればより多くの社員が納得してくれるのですから、マネジメントしやすい状況であると考えられます。しかし、働くに関しては、二律背反にある価値観が併存しているのですから、どちらかだけを尊重すればよいという簡単な状況ではなく、マネジメントが非常に難しい時代になっているようです。

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