若者30年変化 Z世代を動かす「母」と「同性」 若者30年変化 Z世代を動かす「母」と「同性」

母子のチャット徹底観察
〜12万件のやりとりを可視化してみる

膨大なメッセージが行き交う「母子チャット」

生活総研では、2024年1~2月にかけて19~22歳の未婚男女を対象とした「若者調査」を30年ぶりに行いました。分析結果からは、若者が「母」、そして「同性の友人」との関係を強めてきている様子がわかってきました。そこで私たちは、現代の若者の親子関係をより立体的に把握するために、「チャットアプリ母子やりとり調査」を実施しました。(具体的なやりとりのいくつかはこちらでご紹介しています。) このコラムでは母子チャットのテキストデータを自然言語解析した結果を中心にご紹介します。

同調査では18歳から22歳の若者男女とその母、合計27組のチャットの記録を、同意を得て個人情報を削除したうえで提供していただきました。分析したチャットの総チャット件数は12万6420件、対象期間は最長の母子で17ヶ月に及ぶデータでした。そこでやり取りされているメッセージや画像、スタンプの量は膨大です。

息子と母 vs 娘と母 どちらがチャットが多い?

まずは母子でどれくらいのチャットがやりとりされているのか、「息子と母」「娘と母」に分けて、1週間の平均チャット件数を算出してみましょう。

ご覧のように「娘と母」では、子も母も、平均して1週間に60件ほどずつ、母子で計120件前後のチャットを送り合っていて、「息子と母」よりも多くなっています。1週間に60件ずつということは、一日あたり8〜9件ずつのチャットを送り合っているということになります。この27組においては25組が同居している母子なのですが、一つ屋根の下にいても活発にチャットしている様子が感じられます。

また「娘と母」よりは少ないといっても「息子と母」も1週間に平均して40件強、一日あたり6件ほどのチャットを送り合っており、多い母子になると週平均で150件前後ずつ、計300件以上のチャットをやりとりしています。それだけお互いに伝えたいことがあるようです。

加えて着目したいのは、各母と子のペア内では、送っている件数にそれほど差がないことです。「母が息子や娘のことを心配して、一方的にたくさんのチャットを送っている」「子の側は煩わしくて既読スルーしている」というわけではなく、相当程度のキャッチボール的な会話が成立している様子がうかがえます。

母子チャットで何がやりとりされてる?

では実際にどんな内容がやりとりされているのでしょうか?ここでは全27組の計12万件のチャットをプログラミング言語Pythonを使って自然言語解析し、品詞ごとにどんな語がよく使われているのかを分析、可視化してみたいと思います。可視化に使うのはツリーマップ(値の大きさに比例したサイズの長方形でデータの大小を表す図)風の手法です。

写真、スタンプ、そして「今」を共有する言葉たち

まずは母子チャットで使われている名詞から分析してみましょう。

チャット記録データの取得の仕様上、画像が添付された場合は[写真]という語が名詞としてデータに記録され、スタンプが送られた場合は[スタンプ]いう語が名詞と記録されます。今回の分析ではこれらを他の名詞と同列に扱って分析しました。その結果、出現頻度1位は「写真」となり、「スタンプ」の1.8倍多く送られていることがわかりました。

スタンプの方が短いステップで気楽に気持ちを表現できるので多そうですが、実際のところ、母子がそれぞれ自分で撮ったりスクリーンショットしたりした写真や画像が多く送られているようです。あらかじめ用意されたものではなく、相手に見てほしい風景や情報を画像として送っているということかもしれません。

他には「今日」「今」「何」「時」「どこ」など、違う場所にいながらそれぞれのイマ・ココの情報を共有するために使われるとみられる語が並びました。一昔前なら「若者は親に自分の居所や行動を詮索されたくない」というイメージもあったかもしれませんが、現代においてはむしろ逆の面もあるようです。

「帰る」「食べる」「寝る」…現代の食と生活時間

次に動詞です。

「帰る」「行く」「着く」「乗る」など、外出先と家との移動に関わると思われる語がランクインする他、「食べる」「寝る」といった語をやりとりしていることから、同居していても食事時間や就寝時間がバラバラである様子が見えてきます。

「美味しい」「安い」「高い」…母子で共有する味覚とお買い得

次に形容詞です。

「いい」というポジティブな語が多数使われている他、「美味しい」がランクインしています。母子別々に摂った食事の感想を送り合っているようです。また「安い」「高い」がランクインインしていることから、母子で様々なものの値段を吟味している様子が伝わってきます。

韓国、K-POP、SNS…母子の共通の関心事

次に固有名詞です。

大都市や繁華街の地名が多いですが、その中で韓国が強い……! 元のチャットデータにもK-POPのグループ名やコンサートの話題などが登場していることから、韓国旅行などが母子共通の関心事になっているのかもしれません。また他のSNSのサービス名もランクインしていることから、母子どちらかが見つけた興味深い投稿などを、メディアを横断して母子チャットでシェアしているようです。

「笑」「ありがとう」「ごめん」が紡ぐ絆

次に感動詞です。

「笑」「笑笑」が上位にランクインしているのが、なんとも微笑ましいですね。また「ありがとう」だけでなく「ごめん」や「お疲れ様」など、互いを気遣う語がやりとりされているようです。

感情を解放し合う母子

最後に絵文字です。

チャットアプリ内で通話があったことを示す電話の絵文字がトップでした。チャットも活発に送り合いつつ、ここぞというときは直接電話し合っているようです。他には泣き笑いなどの顔など、母子で感情を解放して笑い合っている様子もうかがえます。

以上が27組全体のチャットの傾向分析でした。

触って探る、母子チャットデータ

最後に、個別の母子のチャット内容にフォーカスしてデータ可視化を行った、インタラクティブなチャートをご紹介します。

PCでご覧の場合はポインタ、スマホでご覧お場合は指で、「息子」「娘」「母」の個別の棒グラフをクリックもしくはタップしてみてください。すると、その生活者が相手に送った全チャットに出現する主な語句がバブルチャートで表示されます。バブルの大きさは出現頻度に対応しており、色は品詞ごとに塗り分けられています。語のバブルを触っていただくと詳細がポップアップで表示されます。また品詞の凡例の中のいずれかを触っていただくと、その品詞だけがハイライト(強調)表示されます。

「娘」の中でも、電話がすごく多い人もいれば、「ありがとう」の方が多い人もいます。「母」の中でも、「写真」が一番多い人もいれば、絵文字の「😂」が一番多い人もいます。思いのままに触っていただくと、同じくらいの年齢の同じ性別の組み合わせの母子でも、それぞれの関係性のなかからできあがってきたコミュニケーションの個性が感じられるのではいかと思います。

学業、バイト、就活で日々忙しく過ごす若者、そして共働き世帯も増えて慌ただしく過ごす母。そんな現代の母子が交わした12万件のチャットからは、一緒にいる時間をつくるのが難しいからこそ、密にメッセージを送り合う様子が伝わってきました。

親子の絆を繋ぐデジタルの糸

現代の母子のコミュニケーションは、対面だけでなくチャットという形で日々活発に行われています。今回の調査では、27組の母子から12万件を超えるチャットデータを分析し、写真やスタンプ、そして何気ない日常語を通して、外出先で別々の時間を過ごしていても、まるで一緒にいるかのような密なやりとりがされている実態が明らかになりました。インターネットという、元々は遠くの他者と繋がるためのテクノロジーを使って、生活者は最も近しい相手と、より親密になるためのコミュニケーションを行なっているのも、よく考えてみると興味深い現象です。

一見単純な「おはよう」や「おやすみ」「ごめん」といったメッセージや、写真、スタンプ、絵文字の背後には、互いを思いやる気持ちや、共有したい出来事、そして絆が、確かに存在しているようです。テクノロジーの進化によってコミュニケーションの形は変化しても、家族の温もり、特に母と子の繋がりは、いわばデジタルの糸という形をとって確かに受け継がれているのかもしれません。

伊藤耕太

株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 上席研究員。2002年博報堂入社。国内外の企業や自治体のマーケティング/ブランド戦略の立案や未来洞察、イノベーション推進の支援に携わりながら、企業向けの研修講師や中高生向けキャリア教育プログラム講師などを担当。2021年より現職。生活者データのエスノグラフィーやビジュアライゼーションに取り組む。

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