若者30年変化 Z世代を動かす「母」と「同性」 若者30年変化 Z世代を動かす「母」と「同性」

「若者論」座談会
~クリエイター篇~

博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)は、2024年1~2月に19歳~22歳未婚男女を対象とした「若者調査」を30年ぶりに実施しました。
調査内容は30年前と同一。1994年と2024年、それぞれにおける若者の動向・意識を比較した時、大きな変化が見られた項目がある一方、あまり変化していない項目もありました。そこで第2弾となる「若者論」座談会ではその調査結果を見返しながら、タレントやアイドルの撮影を数多く手がけている映像ディレクターの月田茂さん、学生時代にアイドル活動経験のある、ハッピーアワーズ博報堂クリエイターの内山奈月さんに、アイドルを切り口に意見をぶつけ合っていただきました。

月田茂

映像ディレクター。数多くのTVCMをはじめ、人気アイドルグループのMVやPVも手掛ける。

内山奈月

1995年神奈川生まれ。2018年博報堂入社。コピーライター/アクティベーションプラナー2023年、TCC新人賞受賞。 

今の時代の「成功」ってなに?

お2人ともアイドルについてはお詳しいと伺いました。面識もおありだとか??

そうなんです。とはいえお会いするのは久々なので改めて聞いてしまいますが、内山さんはいつ頃、どうしてアイドルに興味を持ったんですか?

私は17か18ぐらいですね。当時アイドル戦国時代といわれていたような時期だったので人気アイドルグループの舞台裏に密着したドキュメンタリー映画がやっていたです。それを目にして、『なんてドラマチックな世界なんだ』って思ったんですよね。熱い部活のような。汗を流しながらキラキラ輝く世界に憧れてアイドルのオーディションを受けました。

なるほど、確かに熱い部活的な感覚で活動していた人も、当時のアイドルグループだと多いかもしれないですね。競争環境に負けず嫌いの子たちが集まって、それぞれ自分の目標の旗を立てて…、みたいな雰囲気があったのかもしれません。

今回の生活総研さんの研究では今の若者は「ありのままの自分を受け入れるようになった」という傾向が強いと調査結果にありましたが、そんな当時のアイドルに比べると今の若者は客観的に自分をみて、「無理なことは無理」とフラットに判断している感じはあるかもしれないですね。

そうかもしれません。

何かで成功しようと思った時、「欲」が必要になりますよね。勝ちたい、儲けたい、目立ちたいと思うとき、その原動力が欲だとすると、若者全体の欲自体が下がってる感じがするんです。もっと上の段階に行きたいっていう、いわゆる「上昇志向」に導かれることが少ないのではないかと。

たしかにいちファンとして見ていて、アイドルの中でも上昇志向の差は出始めている気がします。もうSNSが生活の中に当たり前にあって、アイドルでもそうでなくても、客観的に自分がどれぐらいの位置にいるかがわかりやすい時代ですよね。
SNSを見たら、自分よりおしゃれで、自分より歌が上手くて、自分より映画に詳しい人がいくらでもいる時代だから、「欲が無い」っていうよりは、客観的に自分のランクを判断してどう立ち回るかみたいなことを、みんなが考えてるのかなって。
決して諦めではなくて、堅実に挑戦して、それがうまく当たった人がグググって伸びてく、みたいなことなのかなって思います。

なるほど。確かに決して無欲ということではなく、客観的に自分の立ち位置と挑戦する方向を見極めている感じはありますね。

インフルエンサーを見ていると、人気のある人はもちろん努力もしているけど、タイミングを捉えるのもとても上手なんだろうなと思います。

うんうん、インフルエンサーの世界はそうこともありますよね。
もうひとつの成功のカギは「王道の世界」だと思うんですよ。野球なら野球、とにかく決めた領域にひたすら打ち込む、みたいな人って、一定数いる。今日本で成功する人たちは大体そういう思考なのかなと。そうじゃないともう勝ち残れないぐらい色々な物が高度化してるっていうこともあると考えています。
少し前だったらある程度知識があったり能力があればそこそこ上に行けたと思うんですけど、今はどの分野も全体の底上げが進んでしまっている。そこで勝ち抜こうと思ったら、もう異常なほどそれに特化し能力を高められる努力を続けないと突き抜けられない時代になったのかなと感じています。
アイドル業界はそのあたりはどうなっているんでしょうか?

アイドル業界は、王道路線で売れる子と、それ以外の道を切り開いて売れる子がいるじゃないですか。生まれ持った魅力を磨き上げて、ど真ん中で戦っていくのももちろん素敵ですけど。それが難しいって思ったら、新しい道を切り開いて人気を集めることだってできるのが面白さだと思います。私はアイドル活動の中で、王道路線は無理だと気づいた側のアイドルでした(笑)

そうなんですね。確かに元アイドルのなかには番組コメンテーターなどで人気がでている方もいますが、自分がどうやったら芸能界で生き残れるのか、戦略をしっかり自分の中で考えていたんだろうと感心することがあります。やはり成功する人には何かしらの賢さがあるんだと感じますね。

グループ内の「わちゃわちゃ」は、
なぜ好まれる?

調査結果では、トレンドへの興味やファッションへの関心など、今も昔も若者の特徴が変わらないことがわかりました

ただ、その修得の仕方はこの30年でだいぶ変わった印象があります。SNSがあるから、自分より全然詳しい人とか自分より全然おしゃれな人とか、そんな存在を知る機会が増えていますよね。その中で差別化図ろうとするから、以前よりもっと尖った人が出てくると思っています。そういうデータでは見えない変化はあるのかなと。

確かに。今の若い人は、ファッションなどの刺激をリアルタイムにSNSから受けているわけですもんね。

例えば結婚の話をすると、昔だとリアルに知り合った人の中から結婚相手をみつけるのが普通だったと思うんですが、今はネットで「自分がもっと好きになれるかもしれない人」を大量に知ることが出来ますよね。
以前なら、興味を抱く対象が芸能人みたいな割と特殊な人たちに限られてたのに、今はここの場所に行けば会えるとか、ここにはこういう素敵な人たちがいる的な情報をネットで知れるようになってしまっているから、 身近な「まあまあ」で我慢できないのかも。これがスマホ時代のカルチャーのひとつなのかなと僕は思っています。

発信もみんな上手ですよね。今ショップの店員さんがSNSやってるのって普通だと思うんですけど、みんな美容も力を入れてるし自撮りもプロ並みだし。自分を磨いて発信するのは芸能人に限った話ではなくて、一般の人も当たり前にする時代ですもんね。

例えば韓国アイドルはいわゆる前述の「王道の世界」観で、全員ストイックに努力し、美も歌も踊りも磨き続けるみたいな感じですが、日本は昔からデビューやそれより前から始まる成長物語を楽しむ、みたいなところがありますよね。
アイドルオーディションのドキュメンタリーを見ていると、上手に踊れないとか歌の練習をきちんと出来ていないとか、そんな子が多くて面白いんです。見ている僕も応援したくなるというか、熱中しちゃう(笑)。
例えば中学生くらいの頃から事務所入りしてバックダンサーをし続けているアイドルなんかは、最初はそんな感じでも徐々にステージに立つ能力が培われていく。
ステージに立つことは大変で、どういう風に立てば良いか、どういう気持ちで立つか、どういう風に立ったら人からちゃんと見られるかっていうのは、結構レベルの高いスキルだと思うんです。

そうですね。

撮影の場面では、「自然に歩いてください」みたいな演技の時とかに、よくその能力が現れるんです。演技力ない人は自然に歩くこと自体が難しいんですよ。
ステージに立つのも一緒で、自然に立っている状態をノーマルにできる体つきになるというか、精神構造になるというか、体質化するというのは思ったより大変なことだと感じます。だから、そういうことが出来るようになってしまうアイドルの育成システムはよくできているなと感心します。
ちなみに内山さんが活動していたグループも、一時期150人くらいまでメンバーが増えましたよね?

今すごく減ってて、40数名ぐらいですね。卒業するメンバーが増え、同時に色々なアイドルユニットがたくさんできちゃったから、分散しているのかもしれません。そういうグループを脱退して、地下アイドルのセンターになっている子も最近意外と多いみたいです。

アイドルが日常化した結果、ある意味のベンチャー化してるってことですよね。それはこれまでの「弱肉強食」みたいな世界観が、多分若干時代と合わなくなったんだと僕は思うんです。
調査結果だと、今の若者は「頑張ってもっと上にあがろう」的なことに意欲的ではないということになっています。とにかく気が強くて目立ちたい、そんな弱肉強食の中で自分を高めたいっていう人たちも減って、誰かを落としたりすることもなく、平和に生きているのが好きっていう傾向になってきているというのは思います。
だからアイドルを応援するファンも、グループメンバーがわちゃわちゃ仲良くしている瞬間に愛着が湧いたりするということなのかなと。

「量産型」を目指す若者の気持ちとは?

話は戻りますが、ファッションやトレンドにこだわる若者、予想では今も昔ももっといると思っていました。全体的にみんなおしゃれになって底上げされたから、「私おしゃれにこだわってます」って言いにくいんでしょうか?

真似しやすいおしゃれを発信する人が増えてるのかなとも思います。私の知ってる元アイドルの子も、フォロワーが真似できるファッションしかインスタグラムに投稿しないって決めていました。フォロワーさんが、彼女のファッションを丸ごと真似できるようにしているみたいです。すごいですよね。

なるほどね。あえて一般のファンに真似てもらう戦略的ファッションということなんですね。

そうなんです。以前、後輩が、「私、量産型になりたい」って言ってたことがありました。量産型の可愛く平均的な美女像みたいのに憧れる子も多いんです。後輩はすっごく可愛い子なんですけど、そこを目指してすごい努力していて。「個性を出す」というのはまた違う話だとも感じましたね。

母親が尊敬されるようになった背景は?

他にデータで気になった調査結果はありましたか?

「メンターママ」の部分、つまりZ世代の若者は父ではなく母を尊敬している、頼りにしているということなんですね。
この分析結果を見て思ったのは、父親の社会性と男っぽさっていうのは子どもにとっていらないものになってきているということなのかなと…。特に日本の社会性って会社的だと感じることがあるんですが、そういうところの押し付けが嫌だと感じるんでしょうか。

今の時代、そうなのかもしれないですね。

母親は働いていたとしても、多分“会社人間”みたいなことにはなりにくいのかもしれません。だから母親の方が尊敬されているのかも。
今の若者は高い社会的地位につきたいという思いが強いわけじゃないという分析もあるので、大企業に入りたいという調査結果も、父親のよう出世したいということではなくて「大企業の方が安定してるし、給料が高い」とフラットに考えているのかもしれません。
それくらい社会が変わって、若者の考え方も変わったということなんでしょうか。

ためになるアドバイスをくれるのは父よりも母っていう感じがします(笑)父のことも尊敬はしてるんですけど、相談しても固いと言いますか、正論で返されてしまうことも多くて…。

確かにそれは、そういうこと聞いてんじゃないんだよ、ってなっちゃうかもしれません(笑)。

母の方が寄り添って柔軟に考えてくれて、その場その場のアドバイスをくれる気がします。

自分が見ている範囲で言うと、最近制作プロダクションに入った新入社員の方で現場の仕事により柔軟に対応できるようになっていくのは、女性の割合が高いように感じます。男性社員は自分としての考えというよりは、こうやるのが一般的には良い、という風に捉えている傾向があるというか。判断材料は同じでも、多分女性の方がもうちょっと自分の考えで動いているように、現場では感じています。

母のキャリアについて聞いた時に、母ってこんなに苦労してきたんだと驚いたことがありました。子供が生まれたタイミングで働き方を変えたり、時短しながらも上司として引っ張らないといけなかったり。そういう苦労の知見が溜まっているから、相談すると勉強になるなと思いましたね。

「若い時の苦労は買ってでもしろ」って今は時代に逆行した意見だと捉えられますが、そういうお母さんの話を聞いていると、母親を尊敬する若者が増えた今回の調査結果の裏側には、これまでの母親の苦労の知見が影響しているようにも感じられますね。

今回の取材ではアイドルを切り口に若者調査を深堀りしてみましたが、いかがでしたでしょうか。引き続き第三弾も公開予定ですので、ぜひ楽しみにお待ち下さい!

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