若者30年変化 Z世代を動かす「母」と「同性」 若者30年変化 Z世代を動かす「母」と「同性」

Z世代を動かす「母」と「同性」

Part2

今回の調査結果から若者の大きな変化として私たちが着目したのは、彼ら、彼女らの人間関係の変化でした。いわゆる恋愛離れの傾向が加速する一方、「母」と「同性(の友人)」との親密さが様々な側面で大幅に増加していたのです。親子関係、交友関係を起点にとらえ直すことで、Z世代の実像がより立体的にみえてきました。

並走したり先回りしてくれるメンター・ママ

1994年調査の「父親と母親のどちらを尊敬しているか」を訊いた項目では、父親が母親をわずかながら上回っていました。

しかし、今回の2024年調査では母親が父親を大きく上回っています。それだけでなく、「自分の価値観や考え方に一番影響を与えている相手」で父親を選んだ人は約2割で変わらない一方、母親を選んだ人は4割以上にまで倍増しました。父親も以前と比べれば育児に参加するようになり、子どもとの距離感が遠のいたわけではありません。しかし、もともと距離の近かった母子の結びつきは、さらに強いものになっているようです。

調査結果からは、高等教育進学率や就業率の上昇によって社会経験が豊富になった母親が、生活の様々な側面で若者が信頼できる相談相手になっていること、母と一緒に趣味や外出を楽しむ若者は母娘だけでなく母息子の関係でも大幅に増加していることも示されています。

優しく見守ってくれるだけでなく、受験や就活、恋愛などの重要な悩みを相談できて、一緒に趣味を楽しむこともできる。常に並走したり一歩先回りして考え、程よく必要なサポートをしてくれる。そんなZ世代にとってなくてはならない存在になった母親たちを、私たちは“メンター・ママ”と名付けました。

メンター・ママが生まれた背景

背景1

「家族好き」が増えた

30年の間には震災やコロナ禍などもあり、いざというときに頼れる縁として血縁が見直される契機になりました。何が起きるかわからない不透明な社会情勢の中で、自分の生活のベースとなる家族との親密化が起きているようです。調査結果では、「家で家族とよくおしゃべりする」あるいは、「家族といるときに生きがいや充実感を感じる」という若者が増加しています。反対に「家族関係がわずらわしいと思うことがある」という若者は減少しました。

背景1

「できる母」が増えた

今の若者の母親は女性の大学・短大進学率が45%前後にまで高まった世代で、就業率も8割を超えています。多くの母親が受験や就職活動を経験し、その対応術を身につけています。そのため子どもの相談相手としても、対応できる領域が広がっているのです。
調査結果では、悩んでいる時、リラックスしているとき、怒っているときなど、喜怒哀楽のどんなシチュエーションでも母親はコミュニケーションの相手として存在感が増しています。母親からアドバイスや忠告があれば、その通りに行動する若者も3人に2人以上にまで増加しました。

背景1

「母と一緒」が増えた

母と共通の趣味をもつ若者は30年間で半数を超えるまでに増加しました。また、一緒に出かける相手としても母親は父親に比べ選ばれるようになっています。これは母娘の関係に限ったことではなく、母息子の関係でも共通の趣味をもっていたり、父より母と出かけたいという割合は共にほぼ倍増しています。
定性調査では、母と息子で筋トレやスポーツを一緒にしていたり、母と娘で推し活に一緒にハマっているといった意見もみられました。親と一緒にする趣味は、その費用を主に親が負担してくれるといったこともあり、子どもの側からすると経済的なメリットも享受できるようです。

生活者インタビュー

常に気を遣わずにすむローリスク仲間

交際関係において「自分にとって居心地のいい組みあわせ」を訊いた設問で1994年に最も多かった回答は「異性との二人」でした。しかし、恋愛離れの傾向もあって2024年には半分以下にまで減少。代わりに6割以上にまで増加したのは「同性同士の二人」という組みあわせでした。同様に「落ち込んだときに一番そばにいてほしい相手」も、「異性の一番の友達」から「同性の一番の友達」に逆転しています。

今の若者は、恋人も含めた異性との交際よりも、同性の友人との交流をより好むようになっているようです。調査結果からは、安心して様々な本音や役立つ情報をやりとりできる同性の友達と、少人数でも緊密な関係を若者がつくろうとしていることがわかりました。背景にはSNSなどの情報環境の変化、あるいは昨今のハラスメント防止やコンプライアンス意識の高まりもあるようです。

情報源として頼りになって、内輪の本音話も遠慮なくできる、境遇の近い同性の仲間たち。Z世代が構築しているそのような友人関係を、私たちは“ローリスク仲間”と名付けました。

ローリスク仲間が生まれた背景
背景1

「ダイエット対象」が
友人だった

今の若者のSNSをベースにした交友関係では、知り合いとのつながりは際限なく増えるものの、それに伴って人間関係のストレスも増えやすい側面があります。そんななかで若者は、気心のしれた親しい相手との筋肉質な友達関係をつくろうとしているようです。調査結果では、「気の合った友達がいれば(数は多くなくて)いい」と考える若者が大勢を占めるようになっています。また今の若者は、親しい友達とは進学先が別れた後でもオンラインゲームなどで交流を深める場合も多いようです。同性の一番親しい友達と知り合った時期をきいた項目では、小学校時代やそれ以前からの付き合いである割合が増加しています。

背景2

「情報戦の戦友」が
同性だった

「世の中で話題になっていることは人よりも詳しく知りたい方だ」という若者が減少する一方、「まったく情報がない世界に行きたいと思うことが、ときどきある」という若者は増加しています。処理しきれないほど情報が氾濫する社会のなかでは、自分にとって重要な情報や知識を効率的に収集する必要があります。様々な側面で境遇が近く、お互いに必要な情報の重なりが大きい同性の友人が、情報戦の戦友としても重要になっているのかもしれません。

背景3

「コンプラ解放区」が
同性だった

異性との性的な会話に抵抗を覚える若者が増えています。また「付き合っている人がいても他の人ともデートしたい」という意見は過半数から大幅に減少しています。Z世代はネット炎上などを見聞きしながら育っているため、嫉妬や誤解を招く行動は避ける傾向にあります。また、学校や勤務先でハラスメント防止を促す取り組みがあふれ、若者にもコンプライアンスが求められる場面が増えた結果、友人同士でもハラスメントととらえられないように注意を払う必要が生じています。そんな気遣いをしなくてよい安心できる関係性として、同性の親しい友人の重要度が増している、という側面もあるようです。

「若者論」の誤解を正す

  • 「変わらない」若者像
  • 「だけじゃない」若者像
  • 「正しくない」若者像