みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2018.09.04

第22回

「リニア開通」は未来への分岐点

from 愛知県

生活総研 客員研究員
博報堂 中部支社

三輪 慎一郎

この写真、名古屋駅太閤通口前の「リニア中央新幹線」の工事現場です。
名古屋に住んでいると、2027年に品川⇔名古屋間で開通する「リニア中央新幹線」が、着々と進んでいることを実感します。

リニア開通への期待と不安

数年前から、このエリアで未来を語る際には、「リニア開業を見据えて」や「リニアを生かして」いう枕詞が付くようになっています。この言葉、「東京オリンピック」が枕詞になる時とは違い、ちょっと複雑な気持ちが織り込まれた言葉なのです。というのは、名古屋市や愛知県の公開資料にも書かれているように、リニアの開通が、中京圏発展の起爆剤になると言われる半面、首都圏への「ストロー現象」を起こすのではないかと心配されており、「明るい未来」に直結するビックプロジェクトというよりは、このエリアの、「未来への分岐点」になる出来事として捉えられているからです。
【ストロー現象】2つの都市が交通網で結ばれたとき、吸引力の強い都市に他方の都市の活力が吸い上げられる現象のこと。

ストロー現象を予感させる「女性の首都圏転出」

ストロー現象に似たようなことは、数年前から愛知県で起こっています。それは、女性の首都圏への転出者が転入者を大きく上回るという「女性の首都圏転出超過現象」です。(総務省:住民基本台帳人口移動報告より)
これは、ものづくりの町(製造業の町)が抱える、男性に比べて、「女性の働く場や活躍する場が少ない」という雇用構造が関係しているといわれ、大学進学時や新卒就職時・転職時に、仕事や活躍を求めて、若い女性が首都圏に出て行ってしまうことが原因です。
その結果、愛知県では、20~34歳の男女比が大きく偏り、この年代では、全国で最も男性比率の高い県になっています。(総務省:住民基本台帳人口要覧より)
現状のエリア特性のまま、リニアが開通すると、首都圏に働く場・活躍の場を求める人を、更に増大させるのではないかと危惧されているのです。

首都圏との「相互補完」の関係構築

リニア開通は、首都圏と中京圏を“緩やかな1つの生活圏”とする「5千万人リニア大交流圏」を生みだすと考えられています。大交流圏下の中京圏が、首都圏と同質化(ミニ東京化)すると、ストロー現象は避けがたいので、首都圏と、どんな「相互補完の関係」を築けるかが(特に産業・経済面で) 課題とされています。
私は、その課題解決のヒントとして、近年、地元企業が取り組み始めている「オープンイノベーション活動」に注目しています。

愛知県は、トヨタ自動車を筆頭に、沢山のメーカーやサプライヤー(部品メーカー)、工作機械メーカーが存在し、「ものづくりの町」として発展してきました。2017年度は、多くの地元企業が過去最高益を計上するなど、好業績が続いています。しかし、昨今の各国政府や自動車メーカーが発表する「自動車のEV化方針」により、多くの企業が、現状のビジネスモデル(内燃機関が前提)だけでは、いづれ立ち行かなくなるのではと危機感を高めています。
そこで、いくつかの地元企業は、次のビジネスを模索し、「オープンイノベーション活動」に取り組み始め、中京圏に留まらず、全国の企業・ベンチャー・スタートアップ/大学/研究機関との、「相互補完」の関係構築を始めています。
例えば、株式会社デンソーは、2016年にオープンイノベーションをミッションとした拠点を東京に設け、これまでに、 8つの大学 ・ 研究機関と組織連携契約を締結したり、有望なベンチャー企業との連携 ・ 出資に成功するなどの成果を残しています。また、2018年4月には、Crewwによるオープンイノベーションプログラム「DENSO ACCELERATOR 2018」も開催しています。
今後、このエリアでは、同様な取り組みをする企業が増えていくと思われます。

アイデアを実現する町へ

現状、地元企業が展開している「オープンイノベーション活動」は、自社リソースを提供し活用してもらう「アクセラレータープログラム」が中心で、特に“エリア特性のある取り組み”をしているわけではありません。
しかし、 「オープンイノベーション活動」を続けて、他エリアや他領域との“人脈やネットワーク”が拡がり、新しいアイデアが共創できれば、このエリアの特徴である“系列:領域をまとめて任されるサプライヤーシステム”で鍛えられた、「スピード」や「コスト競争力」が大きな強みとなり、『実現力のあるパートナー』として、明確な「相互補完の関係」ができていくのではないかと思います。
そんな企業が増えていけば、「アイデアの実現は愛知で」という大きな流れができるかもしれません。
【アクセラレータープログラム】企業が展開するオープンイノベーションの一環として、ベンチャーやスタートアップに対し自社のリソースを提供し、自社の新規事業を協業or投資により創出する目的で開催している。そのため、プロトタイプが完成しているスタートアップ企業を対象とすることが多い。

リニアの開通まで、あと9年です。
それまでに、このエリアが、「ものづくりの町」から、『アイデアを実現する町』に発展すれば、自動車を中心とした製造業だけでなく、新たなアイデアの周辺産業にも雇用が生まれ、「ストロー現象も心配するほどじゃなかったね」となるのではと期待しています。

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