みらいのめ

さまざまな視点で研究員が「みらい」について発信します

2024.03.29

第55回

地元の自慢はなんですか?

from 愛知県

生活総研 客員研究員
博報堂 中部支社

山下 智弘

自分の住むまちの魅力ってなんでしょう? 何となくいいところだと思っていても、意識しないと意外とすぐに答えが出ないという人もいるのではないでしょうか。

特に、私の住む東海地方では外に対する謙遜の姿勢が無意識に根付いており、ついつい「名古屋なんて、何もないですよ」みたいなことを言いがちな気がします。一方で、地元に対する愛着がとても強いエリアでもあります。大好きな街なのに、自慢がないってもったいないですよね。

そんな、名古屋を中心にしながら愛知県、岐阜県、三重県など東海地方における地域の魅力に関する学びの場を積極的に提供している「大ナゴヤ大学」という団体があります。今回は、その理事長である大野さんに、そんな学びの場づくりと名古屋の魅力についてお話を伺いました。

大ナゴヤ大学 理事長 大野嵩明さん

―最初に「大ナゴヤ大学」の設立の経緯を教えてください。
大野さん
僕自身は立ち上げのメンバーではなく、理事長としては三代目です。最初は、ボランティアスタッフとして関わり始めました。
もともとのルーツは、東京にあるシブヤ大学というNPO法人です。渋谷には、働く人はいるけれど、住む人があまりいない。そんななか、2006年に地域のコミュニティを渋谷の街のなかで作るという大きな流れが起きました。いろんな人がつながるために「学ぶ」ということがすごくいいんじゃないかという話があり、「街の人を先生にし、街をキャンパスに見立てた学びの場」であるシブヤ大学が始まりました。

名古屋でも学びの場や、街のことを知る場がなく、初代理事長を中心にそういった場づくりをしていこうという動きがありました。その時に、シブヤ大学のノウハウを全国に展開するという話があり、それとつながるかたちで、シブヤ大学の支援を受けながらも、自分達らしい学びの場を名古屋にも立ち上げようというのが始まりです。街のことを知ったり、街の人と人がつながっていくことを何となく思い描いていたところに、シブヤ大学が重なったのが経緯ですね。

―「大ナゴヤ大学」は名古屋のどの場所から始まったのでしょうか?
大野さん
設立当時は事務所などを設けず、定款上の所在地だけを名古屋テレビ塔さんに置かせてもらっていました。
今は違いますが、大ナゴヤ大学を設立した2009年当時、テレビ塔はテレビ放送の電波塔でした。当時の理事長の想いのもと、名古屋で何かを発信をしていくという意味合いでテレビ塔を所在地としました。

―活動の概要を教えてください。
大野さん
主に授業という学び・学びあいの場を作っています。
授業は、目的に応じてブランド分けしています。
ひとつが、毎月第二土曜日開催の「大ナゴヤの日」です。開校当初から変わらず参加費無料で、誰でも気軽に参加できる学びの場として「まだ見ぬ、面白いに出会う」をキャッチコピーに、自分の興味のあるものを追い求めたり、なにか偶然知らないことに出会うような価値観を大事にしながら場を開いています。
運営も僕ら事務局スタッフだけでなく、ボランティアスタッフと一緒に作っていくし、企画も一緒にやっています。また、今回は運営スタッフとして参加しているけど、次の授業は面白そうだから生徒として参加しようということがあれば、自分の知っている面白い人を紹介したいから授業コーディネーターとして企画をするという参加の方法もあります。

大ナゴヤの日の様子

他にも、街のことを知らない、特に歴史というより街の活動を知らないという声もあり、「まちシル」という街歩きも行っています。その土地に詳しいだけでなく、自分自身が街を面白くしていこうと活動している街のプレイヤーの方々が先生となり、案内をしていただく街歩きの授業です。こちらは参加費をいただく形で実施をしています。
まちシルでは、一年に一回ずつ同じコースを歩くのですが、一年経つと新しいお店ができたりと変わっていたりします。そうした街の変化を地道に感じていくことを私たちはすごく大事にしています。

まちシルの様子

最後の3つめは、名古屋城さんと一緒に「城子屋(しろこや)」という名古屋の歴史を学ぶ講座をやっています。
名古屋城本丸御殿の孔雀之間をお借りして、学芸員さんや本丸御殿を復元された職人さんのお話を聞くなど、専門的な内容を中心に展開しています。

城子屋の様子

三つの目的ごとにブランド展開をして学びの場をつくっているというのが今の大ナゴヤ大学の活動です。

―どのような方が参加されていますか?
大野さん
やっぱり名古屋市の方が多いですね。外から転勤をしてきた20・30代ぐらいの方もいます。“あの街、気になっていたけど、ひとりで行くには……“と思っていた方が、これを機会に行くといったこともあります。
単純に街を紹介しているだけではなく、実際にプレイヤーとして街づくりを実践されている方々のお話が聞けるので、一緒に歩いて街としての動きを知ることができます。こうしたところから人と人とのつながりができて、また次の授業に一緒に参加するということも起こっています。

―運営をするうえで、どんなことをポリシーとしていますか?
大野さん
もともと僕らの源流である「大ナゴヤの日」の話が中心になってしまうんですけれども、基本的には「自分たちが知りたい。学びたい。伝えたい。」ことを大事にしながら学びの場をつくっていくことを、これからもずっと続けていく思いでやっています。

―今後チャレンジしてみたいことはありますか?
大野さん
「関わる人によって何が出てくるかがわからないことの楽しさ」をこれからも大事にしていきたいので、これをやっていこうということはあえて明確に定義をしないようにしています。
「こんな学びの場を作りたい」という思いが僕らの関わるメンバーから自発的に出てきて、また新しい学びのカテゴリーが生まれてくることが大事だと思っています。
それが具体的に何かは関わる人によって変わってくると思います。変に固めてしまうよりも、そういう偶発性が関わる人の先にあるので、その人ともに一緒にプロジェクト作っていくという考え方にしています。

―最後に、大野さんが考えるみなさんに知ってほしい名古屋の魅力について教えてください
大野さん
名古屋市は、名古屋城を中心とした城下町から、明治以降に周辺エリアと合併しながら大きくなってきました。なので、一言で名古屋と言っても、絞りの産地や江戸時代の街並みが残る緑区の有松、国際貿易港がある港区の名古屋港、かつて塩をつくっていた南区の星崎など、エリアによって特色が異なります。この多様な面が名古屋の魅力で、知れば知るほど面白くなっていく街だと思っています。まずは、住んでいる地域に目を向けてみてください。

―大野さん、ありがとうございました!

●街の動きを知ることで、自慢であふれる名古屋に

街の魅力を知ろうとなったとき、過去の歴史や今に目を向けがちですが、大ナゴヤ大学の「まちシル」は、その街の「動き」に目を向けています。その点が非常にユニークでした。
街の動きを学び、実際に一年後の街の変化を確かめにいくサイクルは、みらいへの好奇心を刺激し、ずっとその街が好きになる素晴らしい取り組みです。
こうした取り組みを通じて、名古屋の自慢ポイントがどんどんと増えていき、みんなが外に誇れる名古屋になっていってほしいです。

プロフィール

写真
大野 嵩明(おおの たかあき)さん

1981年生まれ。名古屋市西区出身。大阪大学大学院工学研究科 ビジネスエンジニアリング専攻卒業後、名古屋の投資会社に就職。その後、2012年に特定非営利活動法人大ナゴヤ・ユニバーシティー・ネットワークの職員となり、2017年に理事長就任。学び合いの場づくりとナゴヤを知るために活動中。

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