【有識者ヒアリング】
地域通貨で交換を楽しくする
仮想通貨やフィンテックなどの技術革新に呼応するかのように、日本で新しいお金との向き合い方を生み出そうとする取り組みが徐々に広がりつつあります。
その先端を行く有識者の方々に、そこにかける思いを聞きました。
第三回は、家計管理を通して、個々の世帯にとっての幸福とお金の関係を新しく結び直そうとする
影山知明氏(クルミドコーヒー店主・地域通貨「ぶんじ」中心メンバーのひとり)
にお話を伺いました。
ことばを贈る地域通貨「ぶんじ」
「ぶんじ」は国分寺で2012年から流通を始めた地域通貨です。これまで、約1.3万枚、総額130万円分が流通しています。
ボランティアをしたり、農家のお手伝いをしたりすることで手に入れることができ、もらった「ぶんじ」は国分寺周辺の約40箇所のお店や仲間同士で利用することができます。基本的に額面は「100ぶんじ」で100円分として使えますが、換金性はありません。
「ぶんじ」の大きな特徴は、裏面に小さな吹き出しが10個あり、使う時にはこの吹き出しに何か一言メッセージを書いて相手に渡す、というルールがあることです。
開始から5年経ちましたが、「ぶんじ」1枚が平均で3回ほど使われているとして、そこから計算すると、だいたい1日に20回くらい、国分寺周辺のどこかで感謝の気持ちが動いている、ということになります。
多くの地域通貨が立ち消えるなか、 「ぶんじ」は5年間で盛り上がり、盛り下がりはあったものの、今日まで続いています。理由はいくつかありますが、ことばを贈るという仕組みを、使う側も受け取る側も楽しんでいるということは大きいですね。
交換の後味を良くする通貨
「ぶんじ」の意義は、ひとことで言うと交換の後味が良くなる、ということなんだと思います。例えば珈琲店の店員にとって、お代として普通に1000円もらうよりも、900円+100ぶんじで払ってもらった方が、メッセージによって払い手の感謝が実感できる分、価値が高いんです。
これまでのお金のやりとりって、払う方も受け取る方もギブ&テイクで言えば、テイクの意識が強かった。でも、「ぶんじ」が入ることによって、ギブの意識が強まります。払い手は感謝を贈る、という気持ちでお金を使いますし、受け手も相手にいい仕事を提供しようという気持ちになる。そういう意識が普段の日本円を使う時にも生まれればいいと思っています。
通貨の形は色々あった方が面白い
「ぶんじ」には、実は様々な種類があります。例えば、10個メッセージが書かれたものは「コンプリートぶんじ」と呼んでいます。もうメッセージを書き込めないので、通常の使い方はできませんが、「持っていると何か良いことがある」と言われています。(笑)
他にも、1枚でパフェと交換できるなど特別な価値のある「スペシャルぶんじ」や、サイズの大きな「デカぶんじ」、夜のお店で使える「ピンクぶんじ」など、様々な種類を皆が勝手に偽造しており、それを規制はしていません。中には、うまい棒に「ぶんじ」をコピーした紙を貼っただけの「うまい棒ぶんじ」なんていうのもあるんですよ。
この、通貨発行も含めてどこが中心なのかよくわからないところも、法定通貨にない面白さですね。
地域コミュニティというのはともすれば部外者を排除するバイアスも働きますが、流通性のある通貨を軸とすることで、連帯の中に様々な人を巻き込んでいくこともできるんじゃないかと考えています。