今回は、ヤフー株式会社(以下、ヤフー)との共同研究です。Yahoo! JAPANに蓄積されたオンライン行動データの解析から、時間の使い方に関するこれまで見えなかった年代差を明らかにしました。
ヤフーの山崎潤氏、佐々木孟氏と、ストラテジックプラナー土居将之、生活総研の酒井研究員が分析結果を振り返り対談します。
画面スクロールの長さに年代差が表れた
博報堂生活総研 酒井崇匡(以下、酒井):
本日は宜しくお願い致します。お二人はヤフーのメディア統括本部のアナリシス部に所属されていますね。
ヤフー 山崎潤(以下、山崎):
はい。普段の業務では、Yahoo! JAPANのトップページやニュース、天気、スポーツといったサービスを管轄しています。私と佐々木は、それらのサービスから得られたデータを分析し、もっとユーザーのためにできることはないか、もっと魅力的なメディアにできないかを分析してレポートしています。ユーザー調査、競合分析、事業企画のKPI設計といったことが業務領域ですね。
酒井:
今回の共同研究では、博報堂生活総研が行った「みらい博2020 私の時間が溶けていく」に関連して、Yahoo! JAPANに蓄積された行動データから生活者の時間の使い方を分析しました。
山崎:
メディアにとって「時間」は重要な概念ですし、KPIの一つとしても「滞在時間」を追っています。ユーザーの一日の生活時間の中で、いつ見てもらっているのか、時間帯別にどのようなニュースが欲されているのか、といった観点は、サービス改善でも大事になります。そこで、生活総研さんと一緒に分析しながら、時間に対する知見や価値観を学ぶことは、これからもメディアとして生き残っていくためにも必要なのだと考えました。
酒井:
Yahoo! JAPANのポータルサイトには検索はもちろん、ニュースやショッピング、天気情報など様々な機能が集約されているため、生活者の「新しい時間の使い方」を考えるうえで、非常に興味深い分析対象でした。特に今回の分析では、情報接触や購買行動に関して、年代による顕著な差が数値的に明らかになりましたね。まずは情報接触に関するデータから見ていきましょう。
ヤフー 佐々木孟(以下、佐々木):
情報接触に関するデータとして注目したのは、スマホ版のYahoo! JAPANトップページにある、いわゆる「タイムライン」といわれる記事が並んでいる部分の閲覧データです。タイムラインにはユーザーごとに個別最適された記事タイトルが表示されています。ユーザーはタイムラインをどんどん下にスクロールして、気になる記事があったらタップして内容を読むのですが、ではどのくらい下の記事まで読まれているものなのかと。そこで、ユーザーが一日にタップした中で最も下部に表示されていた記事の表示順位を計測し、年代別にその平均値を算出してみたんです。
酒井:
その結果が上のグラフです。実は40代が最も下部、40.6番目の記事までじっくり目を通しているんですね。50~60代も40番目前後まで見ているのに対して、30代は36番目、20代は31.1番目までしか見ていませんでした。20代は40代に比べ、約10記事分もスクロールが短い、ということになります。
山崎:
40代以上は暇つぶし感覚も含めて下部までじっくり見て頂いています。それに対して、20代は上の世代に比べてチェックする情報源が多い。そのため、Yahoo! JAPANトップページのタイムラインから一定の情報を仕入れられたら切り上げて、SNSなどまた別の情報源のチェックに移っているのだと思われます。
あるいは、Yahoo! JAPANトップページの中に留まるにしても、タイムラインを上から下までじっくり見るというより、上位に気になる記事があった時点で検索窓に関連するキーワードを入れて、能動的に情報を掴みにいくスタイルの人が多い。そういう情報取得は、Twitterなどでも見られる動きだとは思います。
佐々木:
生活総研の「みらい博2020」では、若い世代は時間を圧縮してコンテンツを消費していくスタイルが増えているというお話がありましたね。20代は1回あたりの情報消費に使う時間をそもそも短くしているのだろうと感じました。
「隙間時間の中の隙間時間」を、どう使うか
博報堂第三プラニング局 土居将之(以下、土居):
年齢が近い僕としては、「20代が30番目の記事まで見ている」というのは、それでも随分下の方までスクロールしているんだな、という印象を持ちました。これほど年代差がある中で、重要な点が二つあると考えます。それは「情報の鮮度」と「情報収集の頻度」です。
若年層は基本的に常に新しいものが入ってくることが普通で、Instagramでも編集して丁寧な投稿をするよりは、すぐにストーリーズへアップする行動が出てきています。Yahoo! JAPANトップページに載っている情報も、優先度をつけてすぐに得ていくようになっているのでしょう。
あとは隙間時間の利用についても、1日の中に「細切れの時間」が大量に発生しており、その時間が1分から2分ほどと短い。つまり、アプリを立ち上げて、パッと見るような行動が増えてくると、必然的にスクロールの量は減るはずですよね。
酒井:
「みらい博2020」でも、「時間の塊がなくなる」という話は確かにありましたね。暇な時間に見ているのは全年代で共通しているけれど、その時間の単位が20代はすごくコンパクトになっていると。
山崎:
これはユーザーインタビューで聞いたことなのですが、生活時間の隙間時間だけでなく、「スマホ内での隙間時間」もあるといいます。たとえば、LINEを送って返ってくるまで、Twitterにつぶやいて反応のレスがくるまでといった時間が該当します。言わば「隙間時間の中の隙間時間」がある。その時間にパッと見て、通知が来たら戻るという行動の中で、この結果のデータが出てきたのかもしれません。
酒井:
これは今回の研究範囲外ですが、SNSのタイムラインでも、一度にスクロールする長さを計測したら、実は20~30代は40代以上よりも短いかもしれないですね。一度にじっくり見るか、細切れの時間で頻繁に見るかは世代によってスタイルの差が大きくありそうです。
若者は1.2倍速で買い物をする
酒井:
続いて、買い物行動についての分析を見ていきましょう。
佐々木:
こちらはユーザーがYahoo!ショッピングに訪れてから、最初に注文ボタンを押すまでの平均時間を出したデータで、全デバイスを対象としています。
酒井:
こちらも年代差が大きくありましたね。50代が一番長くて18分53秒なのに対して、20代は15分48秒と、3分以上の差がありました。速度に変換すると、20代は50代の1.2倍速で買い物をしている、ということになります。この結果はどうご覧になりましたか。
佐々木:
単純に年齢が若い人のほうがスマホの操作に慣れていて、操作する速度が速いのもあるとは思います。ただ、それよりも若い人ほど「買うものが最初から決まっている」のではないかと感じます。Instagramなどで目にした商品を、そのまま指名買いするとなれば、意思決定も早くなるはず。サイト上で比較したりする時間が若い人は少ないのかな、と。
土居:
僕も実際、Instagramで気になった洋服を普段からPinterestなどにまとめていますから、そのお話は実感できます。欲しいイメージがある中で、自分が買える価格帯のものに出会えたら、そこで決めて買ってしまうんですね。
酒井:
博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が「情報引き寄せ」と呼んでいる現象にも近いのかなと感じます。
土居:
あとは、いろんなメディアで買えることがわかっており、ポイントの付与率なども一つひとつ違うとはいえ、そこを考え出すと時間が失われてしまう。それへの恐怖や嫌悪の気持ちがあるので、勢いで決済まで進んでしまうというのもあります。
山崎:
今はフリマアプリのおかげで、気に入らなかったら売ってしまえば、それほど損にはならないと思える前提もあるのでしょうね。高価なものでも「買うハードル」に違いが出ているわけです。
土居:
確かに僕も、洋服は特にその意識があり、2~3カ月で出品することもよくあります。
感覚消費派が増えている
酒井:
実際に私たちが調査している「生活定点」調査でも、消費のスタイルは長期的に変化していることがわかっています。ブランドやスタイルの好き嫌いで判断する「好み消費派」がじりじりと減っているのに比べ、ピンとくるかこないかで判断する「感覚消費派」が1992年に17.8%だったところが2018年には32.5%と、ほぼ倍増しているんです。
僕らは別名「ピン消費」とも呼んでいます。年代的にピン消費は若い世代に多いですが、近年は徐々に上の世代でも増えてきています。
土居:
確かに最近ではウェブ広告に限らず、購入ページのリンクがついているSNS投稿もあり、そこでは飛んだ先でさらに比較をするような行動にはなりにくいですね。ピン消費を加速させている理由になるかもしれません。
酒井:
2つの結果を見てきて、非常に面白いのは、行動データだけで見ると、若者の時間はどんどん短くなっていて、それだけ高速で生活をしているように思える。けれど、YouTubeでは朝の時間を穏やかに過ごすような「モーニングルーチン」が人気だったり、夜寝る前にお茶を飲んだり、サウナでととのったりと、「ゆっくりした時間の確保」にも関心が高い。それは時間を細切れにしているからこそ、あえて確保するために行動しているのかもしれません。
山崎:
20代は接触情報量が多くなり、高速で生きたいけれど、ずっとは走り続けられないというか。モーニングルーチンやサウナといったもので人間としての落ち着きを得て、また高速で消費して……というサイクルなんですね。
土居:
僕も夜寝る前にお茶を煎れて飲むのがルーチンになっています。
佐々木:
自分の楽しみを確保するためにも、効率化できる情報摂取は手早く済ませ、自分の中でプライオリティが高くないものについてもとことん圧縮しようというような考えが強いのかなと思いました。
飲み会に行きたくないのは何歳か?
酒井:
後半では、より具体的なテーマに関して見ていきたいと思います。実はYahoo!検索データの分析過程で、20代は「飲み会 行きたくない」というキーワードでの検索が上の年代に比べて非常に多いという結果が出てきました。笑
これも「時間の使い方」に関する20代の意識が表れている結果とも取れるので、より解像度の高い分析をしてみようと。10歳刻みではなく、1歳刻みのデータをみることで、具体的に何歳の若者が飲み会に行きたくないと検索しているのか、検証してみました。
佐々木:
これまで「年代ごと」にデータを見ることはありましたが、膨大なデータを「年齢別」で細かく分析したのは初めてでした。年代だけではわからない動きが見えてきて、こちらも分析者として素直に面白かったですね。
(次回に続きます。ご期待ください。)
「生活者データ・ドリブンマーケティング通信」より転載