すっぴん豪華主義

すっぴん豪華主義 「あえて引く」が新しい贅沢に

2026.02.16

2026 2 月号

研究員の加藤です。美容室で何気なく手に取った雑誌のとあるページで、思わず目が留まりました。特集されていたのは、豪華なトッピングを競う一杯ではなく、スープと麺だけで勝負する「具なしラーメン」だったからです。

「塩むすび」も人気

一瞬、「昨今の物価高に対応した商品なのかな?」とも思いましたが、実は、機能を削ぎ落としたり要素を減らしたりする「あえて引く」スタイルのようなのです。コンビニの「塩むすびを思い浮かべてみてください。海苔も具もない代わりに、有名店監修や希少米の使用といった「米そのものの質を極限まで高めたこだわりが添えられています。飾りのない「素」の状態だからこそ、私たちは米という本質そのものの魅力をダイレクトに味わうことができるのです。

こうした「あえて引く」スタイルは、企業が生活者の節約志向に向き合い「本当に求められている価値は何か」を突き詰めた結果、生まれた発想なのかもしれません。余計な飾りを省く代わりに中心となる質を極限まで高める、これを単なる節約と片付けるのはもったいない気がします。

「ふだんの食事にお金をかけたい」

実際、博報堂生活総合研究所が全国の男女3,900人を対象に毎年秋に実施している「生活気分」調査における2025年の結果では「来年(2026年)お金をかけたいもの(全25項目)」のトップ3は、「ふだんの食事」(23.1%)、「旅行」(22.5%)、「貯金」(19.0%)で、前回3位だった「ふだんの食事」が1位に浮上しました。これは単に「食費が高騰してお金がかかってしまう」という消極的な話ではないのかもしれません。たとえ安価であっても納得のいかない質のものには財布の紐を緩めない。そんなシビアな目を持つ生活者が、自分が価値を認めた「本物」に対して、主体的にお金を投じようとしている結果ではないでしょうか。

それはいわば、「すっぴん豪華主義」。「これ以外はいらない」と割り切ることで、本当に価値を感じる要素にだけ全力を注ぐ賢い選択です。かつて話題になった「安アパートに住んで高級車に乗る」というような「一点豪華主義」は、生活のすべてを切り詰めてでも一つの象徴を手に入れる、いわば「背伸びの贅沢」でした。しかし、今の「すっぴん豪華主義」は、言うなれば素肌の美しさ。無駄な要素を大胆に削ぎ落とすことで、中心部分の質を手の届く価格にまで引き寄せる「身の丈の贅沢」なのです。

生活者自身が関われる楽しさも

同時にこの形は、最高級の質を「自分にとっての100点」に仕上げる楽しみを、私たちの手に委ねてくれます。たとえば、究極にシンプルな具なしラーメン。お気に入りの薬味を加える、あるいは「あえてそのまま」という決断を自ら下すことで、そのスープは自分だけの特別な体験へと昇華されます。塩むすびであれば、その日の気分で塩加減を微調整したり、お気に入りの海苔で包んでみたり。

企業側がコストだけでなく、装飾という「完成」までをあえて削ぎ落とす。それによって生活者は、素材のポテンシャルを自分流に引き出すことができるのです。これは前もって用意された100点を受け取るだけでは得られません。この「企業側がすべてを埋め尽くさない」という潔い余白こそが、すっぴん豪華主義の、質を自らの手で完成させるという真の「贅沢」を可能にするのです。

あれもこれもと欲張らず、本質を味わうために余計なものを削ぎ落とす「すっぴん豪華主義」の時代。『足す』ことよりも『引く』ことに贅沢を見出すこの価値観は、生活者が最も大切にしたい本質を見極め、日常に充足感を見出すための現代的なあり方といえるのではないでしょうか。

「ネタ会」とは?

生活総研では毎月1回、研究員が身のまわりで見つけた生活者についての発見や世の中への気づきを共有する「ネタ会」を開催しています。粒違いの研究員が収集してきた採れたての兆しをご覧ください。