
令和の生活寿命
〜「徹夜できる」のは何歳まで?
2025.03.17
「人生100年時代」とのかけ声も聞かれる昨今。しかし、そんな時代だからこそ、どれだけ元気な状態で長生きできるかという「健康寿命」という言葉も耳にするようになりました。「ピンピンコロリ」はひとつの理想ですが、長い人生において寿命を迎えるのは健康だけではないのです。
博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)では、首都圏・阪神圏の20~69歳男女1,000人を対象に、「生活寿命」についてインターネットによる定量調査を行っています。生活寿命とは、「ある生活行動ができなくなったり、したくなくなったりする年齢」のこと。ちなみに、タイトルにある「徹夜寿命(徹夜すると翌日使いものにならなくなる)」は、2024年調査では39歳5カ月でした。
この調査は、2014年、2019年、2024年と3回にわたって続けてきました。人が長く生きるようになった時代において、さまざまな行動の寿命はどのように変化しているのでしょうか。

「流行語」を使える寿命は
10年短く
「◯◯などの流行語を使いたくなくなる」という【流行語寿命】」。2014年調査では「47歳6カ月」だったのですが、2019年は「39歳5カ月」、2024年の調査では「36歳10カ月」と、この10年で10歳近くも短くなっているのです。

昨今は「ネットミーム」という言葉がしばしば聞かれますが、流行語が生まれて広がるには、ソーシャルメディアの役割が欠かせなくなっています。そのため、以前より流行が細分化していることに加えて、マスメディアがそうした言葉を取りあげはじめる頃にはすでに流行が終わっている場合もあります。上の世代は流行り言葉を追いかけることに限界を感じているのかもしれません。
【恋愛寿命】は男女とも低下
「他人に対して、恋愛感情を持てなくなる」という【恋愛寿命】は、「55歳9カ月」。100年人生の後半戦は、恋とは縁が薄くなるのも仕方ないかもしれません。ただ、こちらも2019年の調査では「59歳7カ月」、2014年は「60歳6カ月」と、特に直近5年間で急激に減少したことがわかりました。また、10年間の変化を男女別にみると、女性は「4歳4カ月」、男性は「5歳2カ月」短くなり、男性の方が減少幅が大きいようです。

「恋愛離れ」も報道などでよく見かける若者だけでなく、上の世代でも起きていることがうかがえます。コンプライアンス意識が高まるなか、不倫・婚外恋愛への警戒感やセクハラになりうるような行動を避けようとしている生活者の意識が垣間見えます。長寿化の進行で、パートナーに先立たれたり、熟年離婚したりする人も増えるでしょう。恋愛寿命が短くなり、ひとりで過ごす老後が長くなる世の中は、少し不安にも感じます。
母親との関係改善は
若者以外でも
この10年間で伸びた生活寿命もあります。最も顕著なのは【母親デート寿命】。「母親とふたりでショッピングに行くのが、はばかられるようになる」という質問で、2014年は「40歳3カ月」だったのが、2024年には「45歳10カ月」に上昇しています。この項目も男女差が大きく、女性は「3歳5カ月」伸びていますが、男性は「7歳9カ月」上昇して、寿命は「37歳6カ月」にまで伸びました。

Z世代と母親との信頼関係が強くなり、メンターママ化していることについては、昨年、生活総研が発表した「若者30年変化」でもご紹介しました。私たちはその背景として、家族と一緒に過ごす時間が増えて「家族好き」が増加し、社会性の高い「できる母」が増え、「母と一緒」の行動が増えた、と分析しました。母親との関係改善は幅広い世代に及んでおり、特に大人の男性が母親と仲が良いことも受け入れられつつあるのかもしれません。
女性の「推し活」は
年齢の壁を超えて
「アニメ、アイドル、鉄道などに熱中し続けられなくなる【熱中寿命】」は、「44歳2カ月」から「48歳」に増加。特に女性は「44歳0カ月」から「49歳4カ月」まで大きく伸びています。昨今は「推し活」という言葉が一般的になるほどファン活動は大きな市場に成長していますが、女性の方が息長く熱中し続けている様子が想像できます。

昨年、生活総研で調査した生活者でも「韓流アイドルのライブを見るために母娘で韓国遠征する」「ネットに強い娘が予約とチケット代を担当し、母が韓国への旅費を負担する」といった方もみられました。推し活によって生まれる人間関係やコミュニティが、熱中できる寿命を延ばしている可能性もありそうです。
歳を重ねるほど
生活寿命は伸びる
超高齢社会といわれるこの国で、あまりに早く生活寿命が終わってしまうようでは不安を覚える人もいるでしょう。しかし、若い世代と中高年では感じている生活寿命が異なります。
例えば【人ごみ寿命】について、20代は42歳10カ月と回答していますが、60代は57歳11カ月と大きな差があります。【信号ダッシュ寿命】は、20代が41歳2カ月と答えたのに対して60代では61歳7カ月。50〜60代でも人ごみに出かけることや点滅した信号でダッシュすることを諦めてはいないようです。

人生100年時代の中高年は、若者たちが想像する以上に元気に人生を楽しんでいる様子がみえてきます。今後、AIやロボット技術の進化や普及などが進むと、さらに歳を重ねることを楽しめる世の中が近づいているのかもしれません。