ぼかし言葉

「ぼかし言葉」の消齢化!? 時代を生き抜く表現術

2025.05.19

2025 5 月号

生活総研の松井です。突然ですが、みなさんはメールやチャットでメッセージを打つときに、よく使う言葉や表現はありますか? つい出てしまう私の癖は、「ちょっと」「一応」という前置きと語尾に「…(三点リーダー)」をつけることです。この「…」のビジネスでの多用は「三点リーダー症候群」として、受け取った相手に自分の意図を察してほしいと自らの説明責任を曖昧にする良くない表現という指摘もありますが、使っている私としては、語気を柔らげたり、ニュアンスを込めたいという思いがあります。

また、チャット慣れした若者が「。(句点)」で区切られると威圧的に感じる「マルハラスメント(マルハラ)」にも共通していえることですが、こうした打ち言葉には若者を中心に「余白を残した曖昧な表現」を好む最近の傾向があるようでおもしろいと感じています。

曖昧表現の歴史

そもそも、曖昧表現はいったいいつから使われているのでしょうか? 近年の若者を中心とした曖昧表現の系譜としては、1990年代後半から研究されている「ぼかし言葉」があります。ぼかし言葉とは「って感じ」「~系」「みたいな」などの言葉で、宇都宮大学の日本語学者である堀尾佳以先生の著書『若者言葉の研究─SNS時代の言語変化─(九州大学出版会)』によると、①付け加えることで、表現をぼんやりとしたものにするもの、②除外しても文の大意は変わらないが、ニュアンスに差があるもの、③責任の所在がどこにあるのかを、わからなくしてしまうもの、と定義されています。

「ぼかし言葉」の使用、拡大中

加えて堀尾先生に取材をしたところ、「ほぼほぼ」というぼかし言葉を60代の方が使っているという事例もご紹介いただきました。一部のぼかし言葉は、もはや若者だけのものでもないようです。そして、最初に触れた語尾の「…」を含む「…/・・・/。。/、、、(点々)」の使用を20~60代の男女に調査した結果、意識的に使っているのは20代が多いものの、60代でも半数以上が使用していることがわかりました。

ぼかし言葉

別の調査では「今の時代だからこそ意識した方がいい」と思うことを聞きました。「工夫して表現する」「明確に表現する」「やんわりと表現する」「端的に表現する」のなかで多くの方に選ばれたのは、「やんわりと表現する(25.5%)」でした。「明確に表現する」も特に20代では高めですが、その他の年代では「やんわりと表現する」が最も高い結果となりました。

ぼかし言葉

「ぼかし言葉」が消齢化する背景

博報堂生活総合研究所では意識や価値観などの差が年齢によって小さくなる「消齢化」という現象を研究していますが、まさに、若者中心と思われていたぼかし言葉や曖昧表現の使用も消齢化しているといえるかもしれません。では、その背景にはどんなことがあるのでしょうか?

まず1つ目に、「自己責任論の強まり」が考えられます。バブル崩壊後の長らく続く低成長期のなか、会社や地域などの集団的な意識は薄れ、個の時代として「自己責任」論が急増。その結果、「自己責任」という言葉は2004年の流行語トップ10にも入りました。常に自己責任を突きつけられるのならば、自分にかかる責任を減らしたいと思うのも自然な欲求でしょう。

2つ目に、「SNSの浸透」の影響も大きいでしょう。生活者は情報を受信するだけでなく、発信をするようになりました。いろいろな人の目に触れ、伝え方次第では「炎上」「さらし」というリスクがあるため、やんわりとした表現を心がける人も多いのではないでしょうか。

3つ目は、「多様性の広がり」です。マイノリティな方々への配慮も重要になってきた現代において、曖昧表現は自分と異なる意見や立場の人への配慮の表れとも捉えられます。
そして、背景としてあげたこうした変化は、若者だけでなく多くの人に関係する社会潮流だと考えられ、消齢化につながっているのではないでしょうか。

シンプルで誰でも使いやすい表現術として発展……?

さらに、これまで「責任回避」として語られがちだった曖昧表現は、「新たなつながり方」として求められてきているとも考えています。言葉をぼかすことが、個人主義が進み、かつ、先が読みにくいVUCAというこの時代を生き抜くための「共感してくれる人=味方」を増やす無意識的な表現術として使われており、このことは、これからますます重要になっていくのではないでしょうか。

消齢化する曖昧表現は、「…」や「。なし」という記号の有無で表すシンプルさや、「ほぼ」を重ねるだけの「ほぼほぼ」のような使いやすさがポイントだと感じます。「~とか」のように定着してきたぼかし言葉も含めて、シンプルで使いやすい曖昧表現が、年齢を問わずこれから広がっていくのでしょうか?

また、先ほどご紹介したデータ「今の時代だからこそ意識した方がいいこと」は、実は20代で曖昧表現より明確表現の方がスコアが高いという結果がありました。既に曖昧表現を多用してきたことの反動なのか、表現意識の転換が起こりつつあるのか? 今後もウォッチしていきたいと思います…!

消齢化Lab.

サムネイル

生活総研が2023年に発見した「消齢化」という現象、および消齢化が進行した社会=消齢化社会についての、調査・研究をまとめています。

https://seikatsusoken.jp/shoreikalab/