なんでもセルフの社会問題

なんでもセルフ社会の生活課題

2025.06.16

2025 6 月号

人口減少、少子高齢化、労働力不足など、多くの社会課題が山積する日本。生活のあらゆる場面で課題に向きあう取り組みが展開されています。例えば、飲食店のセルフサービス。人手不足を補うために導入する店舗も多いわけですが……
 
ある休日のお昼時、セルフサービスのカフェに入り席を探していたところ、食事を終えた初老の男性が食器を戻さずに店を出ていく場面に遭遇しました。ここまで読まれて、「マナー違反じゃないか」と憤りを感じる読者の方もいらっしゃると思うので、補足します。
 
実は、その男性は左半身が不自由なのか杖を突いていらしたのです。休日のランチ目当てのお客さまでごった返す店内で、杖を持って食器がのったトレイを運ぶことは難しいですから、そのままにして出ていくのは仕方ないようにも思えました。
 
私は置き去りにされた食器がどうなるかが気になって、しばらく店内の片隅で様子を観察していましたが、数名しかいない店員さんは列をなすお客さまのための店内調理とレジ対応に追われて、問題の食器に気づきません。
 
「そもそも、さっきの男性はどうやって食器を持ってきたんだろう?」という疑問も沸きます。
そして、食器があると誰も座れないから、私が代わりに片付けようと置き去りの食器に近づいたところ、食器とともにトレイに残されていたレシートに「お席にお持ちします!」という店員さんの手書きが。超繁忙状態のなか、店員さんが出来上がった料理を男性のもとに運ぶ光景が目に浮かび、この優しい気遣いに私の心もほっこりしました。
 
日本の労働市場の課題である人出不足を補うために、セルフサービスが広がっています。今回の事例のセルフ配膳に加え、セルフオーダー、セルフレジ、セルフチェックインなど、日本が「なんでもセルフ社会」になったことで、生活者が担う仕事が増え続けています。
 
ですが、私が遭遇した杖の男性や、手押し車、ベビーカー、車椅子の方々には両手を使うセルフ配膳はハードルが高いのでしょうし、セルフレジで戸惑うシニアを見かけることもあります。
なんでもセルフ社会は人出不足という問題を解消しつつ、新たな生活課題も生んでいます。

なんでもセルフ社会
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