
「左利き」ってどんな人?
2025.06.16
最近は性格診断や骨格診断が注目されていますが、過去には血液型別性格診断が(科学的根拠がないといった評価もあるものの)流行しました。このように、人々をある特徴によってカテゴライズすることは、いつの時代も話題になっており、「利き手」によるカテゴライズもあるようです。今回の記事では、「利き手」のなかでも、少数派であるがゆえに特徴を語られやすい「左利き」について考えていきたいと思います。
左利きの実態は?
先ほど左利きが少数派と書きましたが、実際はどれくらいの割合なのでしょうか? 博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が2025年4月に首都圏・阪神圏・名古屋圏の20~69歳男女1,500人を対象としたインターネット調査では、右利きが92.3%。つまり、左利きは7.7%という結果となっており、右利きに大差をつけて左利きの方が少数派であることがわかります。
性年代別でみてみると、特に女性では年齢が高まるにつれて左利きの割合が減少しており、60代女性では、左利きの割合はわずか1.5%にとどまっています。さらに詳しくみてみると、「昔、左利きだったが右利きに矯正された」という人の割合が、女性は20代と比べて30~60代で高くなっています。つまり、かつては左利きで生まれた女性は右利きに矯正されていた傾向が強いために、年齢によって左利き率に差が生まれているようです。

左利きってどんな印象?
この調査では、左利きのイメージについても自由回答で聴いています。上の世代の自由回答では、今の時代からは想像もできませんが、左利きに関するネガティブなイメージを持っている人もみられました。
・左利きは何かと金がかかる(60歳男性・愛知県)
・夫が左利きなので聞いてみると習字や英語が書きづらいそうです。 はさみやギターも今の時代は左用があるけど 昔は、困ったと言ってました。(60歳女性・愛知県)
・次男が左利きで生まれて、矯正するつもりがなかったのに、舅が矯正しろとうるさく介入されて、仕方なく右利きになった(63歳女性・大阪府)
矯正された人の割合からもわかるように、かつては左利きに関してネガティブなイメージを持つ人もいたようですが、今回の調査では、今の時代はむしろポジティブなイメージが定着していることがわかりました。4つの二択の調査項目から「左利き」はどのような人だと思われているかみていきましょう。
① 左利きは「創造力がありそう」
4つの質問のうち、「ありそう/なさそう」の差がもっとも開いたのが、創造力に関してです。左利きの創造力に関する質問では、「創造力がありそう」と回答した人が79.0%で、「創造力がなさそう」と回答した人が21.0%という結果になりました。

左利きのイメージを聴いた自由回答では、創造力にまつわる意見が多数みられました。
・絵が上手い(28歳男性・千葉県)
・クリエイティブなイメージ(52歳女性・愛知県)
・カッコいい。右脳が活性化。芸術系って感じで憧れます。(57歳女性・東京都)
通説では、レオナルド・ダ・ヴィンチやピカソなどの世界的に有名な芸術家も左利きだったそうです。一方で、1999年に生活総研が博報堂社内のクリエイター陣の左利きの割合を調べたところ、361人中32人、つまり8.9%という結果となっており、それほど多いわけではありませんでした。
② 左利きは「頭の回転が速そう」
創造力の次に差がついたのは、左利きの頭の回転の速さに関する質問です。「頭の回転が速そう」と回答した人が77.3%で、「頭の回転が遅そう」と回答した人が22.7%という結果になりました。

自由回答をみてみると、以下のような意見がみられました。
・頭が良いイメージ(27歳男性・愛知県)
・頭がよく天才肌の人か努力派の人どちらに置いても才能がある人が多い(35歳女性・愛知県)
・機転が利く、頭の回転が速い(56歳女性・神奈川県)
一般的に、左利きの人は右利きの人に比べて右脳の活動が強く、直感や創造性、空間認識能力が高いとされています。このような脳の使い方の違いも、左利きの人が新しい視点やアイデアを生み出すのに役立っているのかもしれません。
③ 左利きは「器用そう」
3番目に差がついたのは器用さについてです。左利きの器用さに関する質問では、「器用そう」と回答した人が71.6%で、「不器用そう」と回答した人が28.4%という結果になりました。

左利きのイメージについての自由回答でも、「器用そう」という意見がみられました。
・器用なイメージがあります。昭和は矯正の文化があったのでそのころ生まれた方には両手利きのイメージがあるので。(50歳男性・愛知県)
・両利きに矯正されている人は、両手が使えて便利そうだなと思う(44歳女性・大阪府)
・必然的に右手も使わざるを得ないことで、両利きになる可能性が高いので得だと思います。(58歳女性・大阪府)
・器用だと思う。文字は右利きに作られているように感じていて、それを左手で書いている。私にはできない特技。(66歳女性・愛知県)
右利きが標準となっている物事を左利きでこなしていることや、クロスドミナンス(箸は左手で使うが、筆記は右手でおこなうなど、用途によって使い勝手のいい手が違うこと。分け利き)の存在が、器用というイメージにつながっているのかもしれません。
④ 左利きは「運動神経が良さそう」
最後にご紹介するのは運動神経についてです。左利きの運動神経に関する質問では、「運動神経が良さそう」と回答した人が68.6%で、「運動神経が悪そう」と回答した人が31.4%という結果になりました。

左利きのイメージをきいた自由回答では、運動神経にまつわる意見が多数みられました。
・スポーツでは貴重な存在(30歳男性・愛知県)
・サウスポーと呼ばれるように才能がある(23歳女性・東京都)
・スポーツで活躍している人が多いので(59歳女性・愛知県)
また、調査において「左利きが得だと思うこと」についてもきいていますが、以下のような意見がみられました。
・スポーツでは、左利きが重宝される。例えばサッカーにおいて、サイドバックやセンターバックなどがそうだと思う。(43歳男性・東京都)
・野球で走るのが速い場合、1塁でセーフになる可能性が高い。(64歳男性・愛知県)
・スポーツで左利きの人がいたらイレギュラーで相手を翻弄したプレイができそう。(33歳女性・大阪府)
・テニスに関しては回転が逆にかかって跳ねる方向が変わるため初見で流れを作りやすい。野球やテニス、バレーボールなどで対戦するときは右利きの選手に比べて左利きの対策が不足しがちなので有利に戦える場面がある
(35歳女性・東京都)
・スポーツなどで、右利きとは違うラインに攻撃できること。(44歳女性・東京都)
様々なスポーツにおいて、左利きならではのプレーを行うことができたり、そもそもその希少性ゆえに貴重な人材となっていることがうかがえます。
「レフトハンディキャップ」も確かにある
今や、左利きは決してネガティブなイメージではなく、頭脳系能力では「創造力がある」「頭の回転が速い」や、身体的能力では「器用そう」「運動神経が良い」といったポジティブな評価を受けていることがわかりました。一方で、「現代の日本社会では、左利きの人は不便なことが多いと思いますか」という質問では、64.5%の方が「そう思う」と回答しています。具体的に不便だと思う点を聴いてみると、
・社会のモノは右利きを想定したものが多いから(28歳男性・神奈川県)
・ドアノブ、鍵穴は右利き用になっている。 食事会等で隣の人が気になる(お箸を持つ手がぶつかったり、取り皿などが交差したりする)。 横書き文字などは、手に文字が隠れてしまう。(66歳男性・愛知県)
・バイキングでスープをすくう時や改札通る時など右利きでないと使いにくい(26歳女性・東京都)
・横並びで飲食する時、隣の席の人が右利きだと腕がぶつかりそうになる。 字を書く時、自分が書いた字に手が乗ってしまうので手が汚れそう。(46歳女性・東京都)
・飯屋さんのカウンターとかで箸が右利きと左利きは当たる。左端の席をいつも選ばないといけない。(47歳男性・神奈川県)
・スマホのスワイプ、自動改札機など(52歳女性・東京都)
・たとえば楽器は右利き用になっている。それに慣れるか左利き用は特注になる。(58歳男性・東京都)
・自動改札も右手でカードをタッチするのでやりにくそう(62歳女性・兵庫県)
などの意見がみられました。かつては右利き用しかつくられていなかった道具も、現在では左利き用が開発されており、昔に比べると左利きの社会的ハンディキャップは減ったように思います。しかしながら、例えば、公共の施設や楽器などにおいては、右利きを想定して設計されているものもまだまだ多く、左利きの人には様々な隠れた社会的ハンディキャップ、いわば「サイレントハンディ」が残っているようです。
「左利き経験」から気づいたこと
私自身の話になりますが、小学校1年生のときに右肘を骨折し、およそ1年間、「左利き」として生活していた経験があります。そのなかで、便利に感じたことは、国語の縦書きの教科書に蛍光ペンを引くときに、手首や服の袖が汚れないことです。これは、縦書きの文章を書くときも同様でした。しかし、習字においては、「右払い」や「右上がり」が上手にできないですし、運動会のリレーでバトンを渡す練習をする際も、受け取るときは左手で受け取り、走る際は右手で持つ、というルールで統一されていたので、走りにくさを感じていました。
今は右利きですが、今回の調査結果をみて、日常に潜む社会的なサイレントハンディに直面した小学1年生の記憶を思い出しました。私自身は怪我によって図らずも……でしたが、普段の自分と違う立場になることで、新しい気づきを得ることができました。左利きの状態を実際に体験してみることで、左利きの心理や隠れた課題に気づくことができるかもしれません。