
婚活や美容男子への賛成派は着実に増加 「日本人の賛成・反対」調査
2025.10.20
最近、SNSを眺めていると、ある社会問題について、まるでそれが世の中の総意であるかのように、激しい議論が繰り広げられているのをよくみかけます。しかし、SNSで意見を発信しているのは、実際には一部の人たちに過ぎません。静かに見守っていたり、特に意見を持っていなかったり、あるいは関心すら持っていなかったりする人もいるのですから、声高に叫ばれている意見が、必ずしも大多数の意見とは限らないのです。
博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)では様々な社会的な論点について生活者が賛成なのか反対なのか本音をたずねる調査を2009年、2025年の2回にわたって実施しています。 (博報堂生活総合研究所「日本人の賛成・反対」調査 首都圏・阪神圏・名古屋圏、20~69歳男女、1,500人、2009年10月、2025年8月、インターネット調査)。 社会問題に関する生活者の本音とその変遷をみていきましょう。

社会の意見は「賛成」へシフト
様々なジャンルの事柄について「賛成」「反対」「どちらともいえない」のいずれかを選択してもらう質問で、2回の調査に共通する55項目についてみてみると、賛成の割合をすべて足し上げた「賛成総量」は2009年:1976.8ptから2025年:2130.6pt(+153.8pt)、反対総量は2009年:906.3ptから2025年:793.1pt(-113.2pt)、どちらでもない総量は2009年:2617.0ptから2025年:2577.5pt(-39.5pt)という結果でした。この16年間で、社会全体はより肯定的・受容的なムードに移行しているようなのです。
具体的に、どのような項目で賛成が増えているのか。以下の表は、16年間で賛成が増加した32項目を増加幅が多い順にランキングにしたものです。地方空港や二拠点生活といった地域に関するもの、事実婚や同性愛、婚活といった結婚・恋愛・ジェンダーに関するもの、お受験や株式投資など自力で生き抜くことへの賛成者が増えているようです。気になる項目について詳しくみていきましょう。
第1位:「地方空港」
「地方空港」の賛成意見は、2009年にはわずか13.3ptでしたが2025年には46.8ptとおよそ3.5倍になっており、増加幅ではランキング1位となっています。「地方空港は本当に必要なのか?」という議論がかつてあったとは信じられないほど、人びとの意識は大きく様変わりしたようです。賛成理由としては、地域活性化や交通面での利便性、災害時の緊急対応が多くみられました。

「地方空港」への賛成理由:①地域活性化
・地方とのつながりが増えるのは、観光客の分散につながると思うから(21歳男性・愛知県)
・うまく活用できれば地方の活性化につながる可能性があるのではないか(43歳男性・三重県)
・地方に行く人が増えると地方が潤う(63歳女性・埼玉県)
「地方空港」への賛成理由:②交通面での利便性
・交通手段の少ない地方にとって空港はひとつの移動手段と思うから(34歳男性・愛知県)
・交通の便が悪いところでは、空港は必要だから(49歳男性・東京都)
・地方の人にとってなくてはならない長距離の移動手段だから(51歳女性・神奈川県)
「地方空港」への賛成理由:③災害時の緊急対応
・災害時にあったほうが良い(56歳女性・岐阜県)
・一極集中は災害に弱い(69歳男性・千葉県)
第2位:「ファストファッション」
「ファストファッション」への賛成意見の増加幅は29.8ptにも達しました。品質の向上に加え、トレンドを素早く取り入れたデザイン性、そして、何より手に取りやすい価格帯が消費者に支持され、「コストパフォーマンス(コスパ)」が重要な購入理由となっているようです。

「ファストファッション」への賛成理由
・現在の景気を鑑みて、安価で買うことができるのは経済的に助かるから(23歳男性・大阪府)
・おしゃれでリーズナブルなものも多い(61歳女性・神奈川県)
・コスパが重要な時代になった(66歳男性・愛知県)
・安い服を短いスパンで着るのもひとつの考え方だと思うから(29歳女性・三重県)
・衣料費が安くなれば、そのほかの部分にお金が回せる(32歳女性・愛知県)
・安くて流行りが購入できる(40歳女性・千葉県)
・安くて良い衣類があるから(52歳女性・兵庫県)
第4位:「男の美容」
「男の美容」に賛成する声は、この16年で20.7ptも上昇し、2025年には52.5%となりました。女性の増加幅(25.4pt)が男性の増加幅(16.2pt)を大きく上回り、賛成率は63.5%にも達しています。この変化を力強く後押ししているのは、当の男性以上に女性たちであり、美しさを求めることに、男女の区別がなくなったことを示しています。

「男の美容」への賛成理由(女性)
・外見への工夫は男女問わず認められる必要があるから(22歳女性・愛知県)
・ジェンダーレスが受け入れられてるから(25歳女性・神奈川県)
・美容を必要としている人に男も女もないのではと思います。(51歳女性・大阪府)
・男女関係なく美容に興味があればかまわないと思ったから(58歳女性・東京都)
現在では、男性向けの化粧品や脱毛サロンは一大市場を形成するまでに成長し、男性タレントが女性向けメイクアップアイテムの広告モデルを務めることも珍しくありません。コロナ禍でオンライン会議が普及し、自らの姿と向きあう機会が増えたことは、この潮流を加速させた要因のひとつかもしれません。
第8位「婚活」
「婚活」への賛成意見をみてみると、2009年には38.7%でしたが、2025年には52.5%となり、この16年間で13.8ptも増加しています。特にこの変化を牽引したのは50代(+23.1pt)で、少子化や孤独死、年金問題などの日本が抱える社会問題の悪化を案じている様子がうかがえました。

「婚活」への賛成理由(50代)
・結婚する人が少ないと子どもの数は減るし孤独死は増える(50歳男性・大阪府)
・どんどん結婚して子どもを増やしてほしい(52歳男性・千葉県)
・結婚して子どもが増えないと少子化が進み、将来の年金がもらえなくなりそう(53歳男性・大阪府)
・子どもを増やすため(50歳女性・愛知県)
2009年当時はまだ新しい言葉であった「婚活」ですが、現在では恋愛リアリティショーや街コン、マッチングアプリといった多様な形で私たちの生活に深く浸透しています。出会いの場の減少などから結婚の難しさを感じている声もみられ、結婚を運命に任せて「待つ」時代から、自らの意志で「つかみ取る」という、より能動的な姿勢が必要な時代になったようです。
「婚活」への賛成理由(全体)
・何もしないでいると生涯独身になる恐れがあるため(55歳男性・神奈川県)
・出会いの場が少なくなってきていると思うから(24歳女性・大阪府)
・しないと結婚できない(49歳女性・茨城県)
・待っているだけでは出会うチャンスがない(51歳女性・東京都)
第13位「メールやチャットアプリでの告白」
「メールやチャットアプリでの告白」に賛成する声が10.6ptも増加し、2009年には16.4%でしたが、2025年には27.0%となりました。いわゆるデジタルネイティブ世代と呼ばれる若年層だけではなくすべての年代において増加しており、メールやチャットアプリでの告白は、相手に考える時間を与えたり、対面での極度の緊張を和らげたりするメリットを感じる人が増えているようでした。かつては直接会って気持ちを伝えるのが当たり前だったかもしれませんが、恋愛における「告白」の形式は、時代とともに多様化したようです。

「メールやチャットアプリでの告白」への賛成理由
・文章のほうが伝えやすいこともあるから(29歳男性・大阪府)
・昔から文通とかもあったはずなのでいいとは思う(42歳男性・東京都)
・恥ずかしがり屋は使ってパートナーを選ぶきっかけになればよい(61歳女性・神奈川県)
ちなみに、賛成派はまだ27.0%に留まっており、過半数を占める52.4%が「どちらともいえない」と回答しており、この告白の形が積極的に支持されるかは別として、個人の多様な選択肢のひとつとして、すでに社会に受容されている段階にあるといえるでしょう。
ここまで、2009年と2025年の調査で共通する55項目について時系列でみてきましたが、今年度実施した調査では、新たに「SNSでの選挙活動」と「人の仕事をAIに任せること」についても聴取しています。どちらも最近話題の社会問題ですが、生活者はどのように感じているのでしょうか。
「SNSでの選挙活動」
SNSは、今や情報収集や意見交換の主要なツールとなり、政治家が有権者と直接対話できる場として、これからの選挙活動にも不可欠なものになりつつあります。今回の調査では「どちらともいえない」と回答した人が45.3%と最も多くを占めていますが、賛成・反対に着目すると世代間で異なる視点が浮き彫りになりました。
この流れへの支持が比較的高いのは若い世代のようです。20代(52.0%)と30代(49.5%)を中心に、賛成が半数近くとなっています。

「SNSでの選挙活動」への賛成理由
・街頭演説よりも、有効なように感じる。こちらのタイミングで公約等を見られるため(29歳男性・神奈川県)
・主張を知れ渡らせるためには必要(30歳男性・千葉県)
・テキストや動画の方が理解しやすいから(27歳女性・東京都)
一方で、中高年層の賛成率をみてみると、50代(29.1%)、60代(26.4%)では3割を下回る水準に留まっています。この世代からはSNSの情報に対する信頼性や、偏った情報が拡散するリスクを懸念する声あがっています。
「SNSでの選挙活動」への反対理由
・嘘をついても誰も止められない(61歳男性・神奈川県)
・現在のSNSは、事実もフェイクも区別のつかない状態であるから(51歳女性・千葉県)
・事実と違うことでも信じられたり、危険な流れに行くことがあるから(52歳女性・兵庫県)
・間違った情報や偏った情報が拡散すると思うから(66歳女性・愛知県)
「人の仕事をAIに任せること」
AIの活用が広がっていますが、世代によって、その受け入れ方に違いがあることがわかりました。
賛成率が20代(52.6%)や30代(54.6%)では半数を超えており、ともすれば人間よりも優れた能力を持つとも捉えられている様子がうかがえます。AIによる業務効率化への強い期待が寄せられているようです。

「人の仕事をAIに任せること」への賛成理由
・人為的なミスが減るのであれば、事故防止にもなり良いのでないか(29歳男性・神奈川県)
・人手不足を効率化できると考えるから(24歳女性・東京都)
・人間にできないことをやってもらえば楽になれるから(33歳女性・東京都)
一方で、50代(38.3%)、60代(36.1%)の賛成率は若年層に比べて低くなっています。AIに仕事を奪われてしまう懸念や、人間にしかまだできないことがあるといった点から、AIに対する抵抗感が感じられます。
「人の仕事をAIに任せること」への反対理由
・仕事を奪われる(50歳男性・愛知県)
・緊急時の対応ができないと思う(61歳男性・大阪府)
・人件費は減らせると思うが、働き口のない人が増えるのではないかと思うから(68歳女性・大阪府)
テクノロジーの進化と世代間の壁
「SNSでの選挙活動」や「AIによる仕事の効率化」といったテーマには、テクノロジーの進化という点が共通していますが、世代間でその賛成率は異なっていました。
デジタルネイティブ世代にとっては当たり前のツールや概念も、上の世代にとっては変化への抵抗感や潜在的なリスクへの懸念があるようです。このテクノロジーをめぐる世代間のギャップをどう乗り越え、社会全体の利益につなげていくか、考えていく必要がありそうです。