「ちょうどよく伝わる私」を持ち歩く スクールバッグに書かれた「夜露死苦」
2026.09.28
ある日地下鉄のホームで、カラフルなペンでデコレーションやメッセージが側面にびっしりと書かれたスクールバッグ(通称:スクバ)を持つ女子学生を見かけました。黒い合皮生地に大きく書かれているのは、真っ赤な手書き明朝体の「夜露死苦」、そして「うちら最高!」などの青春メッセージ。ところが持ち主は、いわゆる“いまどきのふつうの学生”。こんな人が「夜露死苦」……? そのギャップが気になり、この事象について調べてみることにしました。

スクバは、「今のわたし」を発信するメディア
学校のスクバ(またはそれに似たデザインのバッグ)に水性顔料インクのペンでデコレーションすることは「スクバ落書き」と呼ばれ、平成時代にもあった文化だそうです。私が見かけたのは側面いっぱいに落書きが施されたスクバでしたが、調べてみると、実際にはバッグの底面に描くスタイルのほうが一般的なようです。女子学生はスクバを、「持ち歩ける自分だけのメディア」かのように使い、推しのアイドルの写真カードやぬいぐるみキーホルダーを下げるだけでなく、自分の名前や誕生日、好きな言葉、キャラクターなどを自由に描いて楽しんでいるようです。性格診断のタイプを示すアルファベット4文字をスクバに書くのは令和時代ならでは。
興味深かったのは、落書きがバッグの底面にのみ施される例が多いことです。個人情報保護の意識からか、先生の目が厳しいのか、限られた相手にのみ見せることを意図しているようです。また、SNSには自作のスクバ落書きを見せる動画だけでなく、「スクバ落書きの消し方」「消せるペンはどれ?」といった動画も投稿されています。
スクバを持てる学生生活という限られた時間のなかで、「今の自分」「私の好き」は目まぐるしくアップデートされます。固定のプロフィールではなく、今の自分のムードやステータス(状況)を表すものとして、スクバは活用されているようです。
編集しているのは、「伝わり方」
スクバ落書きから感じたのは、女子学生たちが編集しているのはスクバそのものではなく、「自分がどう伝わるか」なのではないか、ということです。表面には誰に見られてもいい情報を、底面には限られた相手だけに見せたい情報を置く。さらに、落書きを消したり、キーホルダーを付け替えたりしながら、その時々の自分らしさを更新していく。「何を伝えるか」だけでなく、「誰に、どこまで伝えるか」まで含めて編集しているようにも見えます。「全部見せる」でも「何も見せない」でもなく、「ちょうどよく伝える」。スクバは、そんな今どきの自己開示感覚を映すものなのかもしれません。
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