STAGE2
賢者の洞窟
有識者たちは「タダ・ネイティブ」をどう分析するのか?
STAGE 2-3
やわらかに囲まれた子どもたち
藤川先生は小中学校と連携した新しい授業開発がご専門領域の一つですが、今の学校は以前と比べてどのように変化しているのでしょうか?
時代を少し遡ると、90年代にはそれまでの管理教育は良くないという議論が起こり、校則が減るなど生徒の自主性に任せる傾向が学校教育の中で強まりました。しかし近年、よい悪いは別として、学校が子どもたちに及ぼす影響力は再度強まりつつあります。
頭ごなしに押さえつけ、管理するというわけではないのですが、まず「脱ゆとり」で授業時間が増える、つまり学校にいる時間が増えていること、それに加えて、生活習慣の指導、例えば朝食をしっかり食べようとか、夜更かしは控えようということの指導を学校がするようになっています。その結果、朝食を摂る子どもの率は高くなっていますし、朝読(始業時間前に読書時間を設ける運動の略称)の効果もあり読書量も減っていません。学校の影響は学習以外の面でも強まってきているんですね。
また、最近増えているアレルギーや外国籍の児童生徒、あるいは発達障害を抱えている児童生徒などへのケアもきめ細かくなってきています。
学校の先生との関係性も変化しているのでしょうか?
まず大きいのは、大人が子どもの敵ではなくなった、ということです。今回の調査でも先生や両親に暴力を振るわれる子どもが減少しているようですが、以前に比べて高圧的で威張る大人は減りました。先生達もみんな丁寧に子どもに接していますよね。
子どもたちのロールモデルも不良のような乱暴な人は消えて、ソフト化しています。この10年くらい、嵐の櫻井君は好きなタレントとして必ず名前があがってきます。EXILEも一見、不良っぽく見えますが、みんないい人たちでしょ。(笑)低成長の中、都会で成功を目指すというより地元に留まる人が増え、かつみんなSNSでつながり続けている。ヤンキー的な属性の人たちが地元化し、無害化していったわけです。
親子関係についてはどうでしょう?
先程触れた通り、親もソフトになってきています。また、共働き世帯が増えた結果、お母さんが外のこともよく知っているようになりましたよね。
お父さんも変化しています。昔は父親がリビングにいると煙たがられていましたが、今は違います。ソフトで小奇麗な中年男性が増えて、「お父さんキタナイ」と言われることは以前に比べると減っているのではないでしょうか。
今回の調査では母親への尊敬度が父親を初めて上回ったそうですね。その背景は、一つは共働きの増加で母親が社会化した、家のことも社会のことも分かる存在になったということ。もう一つはそんな母親をソフトな父親が威張らずにちゃんと立てるようになったことだと思われます。
その他に今回の子ども調査で先生が気になられたデータはありますか?
動画共有サイトの利用率が非常に高いですが、パーソナルメディアとしてネット動画の力はとても大きくなっていますよね。過去の作品も好きなだけ見ることができますし、趣味にのめり込みやすくなっている。
ただ、それが本人のクリエイティビティを発揮するというところまでは行っている例は少ないように思います。制作ツールもこれだけ誰でも簡単に利用できるようになっているのだから、動画サイトへの投稿で社会的に注目されるような10代がもっと出てきても良いと思うのですが、まだまだ少ないですよね。学校での学習以外に自主的な活動に時間を割けなくなっていますし、落ちこぼれることへの不安から、進路という意味でもあまりドラスティックにはなれません。
今の子ども達は優しい先生や両親からあまりにもやることを与えられすぎており、それが彼らが高校生、大学生に進んだ時のアイデンティティ形成の障害にならないか、注意深く見ておく必要があると考えています。