あけるか?
しめるか? -「信頼」の2つの分岐点-

この先の未来は、他者に対して疑心や不信を抱えながらの暮らしが広がるのでしょうか。それとも、別の未来の可能性がありうるのでしょうか。

「信頼」の未来を探るためのキーワードは、
「あけるか? しめるか?」です。

未来の「信頼」にまつわる
2つの分岐

私たちは、この先の未来、​「疑心社会」に陥るリスクを回避するために、生活者が自分たちの手で信頼のつくり方を新たに生みだすことで、危機を乗り越えるはずだと考えました。

すなわち、信頼は「当たり前に成り立つ、所与のもの」ではなく、「自分たちの手で新たにつくりだすもの」という意識の転換です。

ただ、生活者が目指す方向性は、決して一様ではありません。生活者がつくりだす信頼のあり方は、画一的なものではなく、分散していくのではないか。複数の未来シナリオがありうるのではないかと、私たちは考えています。​

なぜならば、未来に向けて
「人と人との関わり方」と「情報の伝わり方」が変化していくなかで、
信頼のつくり方の根幹に関わる2つの要件

他者との「関係」のつくり方
自分の「情報」の扱い方

それぞれについて、生活者がこの先望ましいと思うあり方が、大きく異なっているからです。

そのときカギとなるのが

“あける”か?
“しめる”か?

という2つの価値観の分岐です。

信頼にまつわる「誰と?」 を変える

「関係」
“あける”か? “しめる”か?​

物理的・心理的な“疎”が進んでいく未来。新たに信頼をつくりだすために、 「誰と信頼関係をつくるか」はまずはじめに考えるべき問いといえるでしょう。

人と接する機会自体が減少していくなかでも「可能な限り多くの人と関わりたい」という人もいれば、多様な人が暮らすなかでも「自分と似た価値観の人とのつながりを深めたい」という人もおり、いま生活者の考え方は二分しています。

他者との関係を“あける”か? “しめる”か?
望ましい人間関係のあり方がどちらに向かうかによって、そこでつくりだす信頼の形は大きく変わっていきそうです。

他者との関係をしめる
共通点や心理的な距離感の近さを重視して、同じタイプの人と関係を深めることで、確かな信頼構築を図る。
⇔
他者との関係をあける
相違点や多様性を重視して、異なるタイプの人へも関係を広げることで、幅広く信頼構築を図る。

Q. 10年後の暮らしや人間関係の
あり方について、
どちらの未来が望ましい?

?%
?%
他者との関係をしめる 他者との関係をあける

限られた人と交流することで、
自分の世界が豊かになる未来

多様な人と交流することで、
自分の世界が豊かになる未来

42.0%
58.0%

人との共通点や近さに
楽しさを感じて暮らす未来

人との違いや差に
楽しさを感じて暮らす未来

52.7%
47.3%

特定の人と、狭く・深い
関係をつくって暮らす未来

様々な人と、広く・浅い
関係をつくって暮らす未来

60.4%
39.6%

自分と同じタイプの人と
人間関係をつくる未来

自分と違うタイプの人と
人間関係をつくる未来

62.5%
37.5%

生活者の声

他者との関係をしめる
人間の能力は限られているので、本当に大切な人を絞り込んで密な関係を築く方が幸福になれると思う。
(23歳女性・埼玉県)
人間関係の数だけエネルギーがいると思うので、仕事や趣味などにエネルギーを使うために特定の人間関係を大事にしたいです。
(44歳男性・北海道)
価値観が多様化していくので、あまり多くの人とは合わせられないと思うから。
(59歳男性・香川県)
他者との関係をしめる
いろいろな価値観を持った方が、人間としての幅が広がると思うから。同じような意見の人ばかりといると、自分の世界の可能性が狭まってしまうような気がするから。
(34歳女性・広島県)
SNSが様々な人とつながりを作りやすいツールであるように、さらにいろんな人とつながりやすい世の中になっていくのではないかと思う。
(50歳男性・静岡県)
高齢化するなかでいつ、だれの助けを必要とするかもしれないので、いろいろな人間関係から助けをもらいたいので。
(60歳女性・新潟県)
信頼にまつわる「何を?」を変える

「情報」
“あける”か? “しめる”か?​

お互いが自分の情報を伝え、お互いのことを知りあうことは、信頼をつくりだすために必須の要件といえます。しかし、情報が「見えない」こと、情報が「見えすぎる」ことが同時に起こっているなか、情報をさらに見せる方が望ましいのか、見せない部分を保つ方が望ましいのか、生活者の考えはゆれています。

自分の情報を“あける”か? “しめる”か? 情報の伝え方をどうコントロールするかによって、信頼の強度や機能も異なるものになっていくでしょう。

自分の情報をしめる
相手に合わせて、自分の情報を取捨選択・限定的に開示することを重視して、互いの都合に合わせた自由・柔軟な信頼構築を図る。
⇔
自分の情報をあける
どんな相手にも、自分の情報をありのまま開示することを重視して、嘘や疑いを生まない対等・平等な信頼構築を図る。

Q. 10年後の暮らしや人間関係のあり方について、
どちらの未来が望ましい?

?%
?%
自分の情報をしめる 自分の情報をあける

自分のことを伏せる方が
メリットのある未来

自分のことを明かす方が
メリットのある未来

35.7%
64.3%

互いの情報を限定的に開示することで、
対立や摩擦が少なくなる未来

互いの情報を積極的に開示することで、
嘘や疑いが少なくなる未来

47.2%
52.8%

相手や状況に合わせて、
自分の個性や特徴を使い分ける未来

相手や状況にかかわらず、
そのままの自分を見せる未来

59.7%
40.3%

個人データは個人で保有し、
それぞれで最適に活用する未来

個人データは社会に提供し、
社会の全体最適のために活用する未来

64.4%
35.6%

生活者の声

自分の情報をしめる
自分を見せすぎる必要はないと思う。相手やその場の状況に臨機応変に使い分けれるほうが相手も自分も過ごしやすい。
(32歳女性・香川県)
自分にコンプレックスがあるので、ありのままの自分を見せるというのができないかなと思ったから。
(33歳男性・大阪府)
今でもすでに、直接対面する関係より、ネット上で仮名での交流が増えており、それは今後も増えると予想でき、相手や場面によって自分を使い分けたり、作ったりする人も増えると考える。
(50歳女性・静岡県)
自分の情報をしめる
自分自身がセクシャルマイノリティでそれを隠さず生きていきたいから。それを理解されずともそういう人もいるんだよって発信したいから。
(33歳女性・大阪府)
これからは何でも知られる、バレる時代なので、初めから自分の情報は開示して接していく社会になるのではと思っているから。
(34歳男性・大阪府)
関わる相手によって自分を使い分けたりするのは苦手なので、自分の全てを相手に伝えた上で関わりたい。
(58歳男性・福岡県)

未来にうまれる
「4つの信頼」

今回私たちは、生活者が新たにつくりだそうとする信頼の方向性として、4つの未来シナリオを発想しました。
信頼構築にまつわる2つの要件についての、生活者の価値観の分岐、
「関係」を“あける”のか? “しめる”のか?
「情報」を“あける”のか? “しめる”のか?
この2本の分岐軸を掛け合わせ、生活者の価値観のベクトルが向かう先を発想したとき、みえてきたのが、4つの信頼のあり方です。

多彩な相手と演出した個性でつながる

「編集」でつくる信頼

  • 生活者の信頼構築についての価値観は、「自分の情報を部分的に提供して、多様な相手と幅広く信頼関係をつくりたい」というもの。
  • そのためこの未来では、関わる相手の嗜好や価値観に合わせて、自分の人格や個性の情報を巧みに編集し使い分けることで、人と人とが信頼をつくりだしています。
  • 生活者は、自分の人格を断片的に開示し、多様性に富んだ社会の様々な相手と柔軟に向きあうことで、まるで複数の人生を生きているような自由な気分で生活しています。
あらゆる相手と透明性あるデータでつながる

「公開」でつくる信頼

  • 生活者の信頼構築についての価値観は、「自分の情報をありのまま伝えることで、多様な相手と幅広く信頼関係を構築したい」というもの。
  • そのためこの未来では、全員が、自分についての正しい情報を広く公開することによって、人と人とが信頼をつくりだしています。
  • 生活者は開かれた情報を通じて、知人でも見知らぬ人とでも、互いの状況やニーズを的確に把握し、スムーズに協力しあい、自分の暮らしとコミュニティ全体の利便性を高めながら生活をしています。
限られた相手と理想や目的だけでつながる

「自立」でつくる信頼

  • 生活者の信頼構築についての価値観は、「自分の情報を部分的に提供して、限られた相手と確かな信頼関係を構築したい」というもの。
  • そのためこの未来では、自分の中の強い理想や目的などを提示し、それだけを拠り所にして、人と人とが信頼をつくりだしています。
  • 生活者は、仲間との強固な関係のもと目的達成に邁進しつつ、同時に、必要以上に互いの生活に深入りすることなく、最適な距離感と自立心を感じながら生活しています。
近しい相手と密な共有でつながる

「濃縮」でつくる信頼

  • 生活者の信頼構築についての価値観は、「自分の情報をありのまま伝えることで、限られた相手と確かな信頼関係を構築したい」というもの。
  • そのためこの未来では、特定の相手と、お互いについての詳細な情報を緊密に共有することで、人と人とが信頼をつくりだしています。
  • 生活者は、自分を深く理解する相手とのパートナーシップに安心感を得つつ、時には彼らからの思い切った助言も取り入れながら、挑戦や冒険に満ちた生活を送っています。

4つの信頼 -2030年の生活展望-

未来につくりだされる「4つの信頼」について、それぞれの「信頼」が
どんな価値を生み、どんなベネフィットをもたらすのか。
ある4人の、2030年の暮らしを通じてみていきましょう。

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