博報堂生活総合研究所 みらい博2025 働き直し 仕事が変わる。日本が変わる。

退職代行サービスを通じて、
働き手と会社の関係を対等にしていきたい

谷本慎二(たにもと・しんじ)

株式会社アルバトロス 代表取締役 退職代行モームリ 代表

退職代行サービスのニーズの高まり

「モームリ」は依頼者の代わりに退職の意思を会社へお伝えするサービスです。それに付随する有給休暇や退職金、社宅や貸与物といったこともあわせて対応しています。早ければ依頼をいただいてから15分後には退職が確定します。退職代行は電話と人さえいればはじめられる業態なので新規参入も多いですが、まだ 退職代行に対してネガティブな印象があった頃からモームリは 健全性をアピールし続け、今では約半分のシェアを獲得しています。利用者は20~30代が6割を占めますが、50代の方からも毎日のように連絡をいただくなど幅広い年代に受け入れられています。利用者の3%がリピートしており、「最悪、モームリの退職代行で辞められると考えると、気が楽になってチャレンジしやすい」という前向きな声もいただいています。また、退職にかかわる悩みの相談は無料でお受けしています。今の日本には退職について相談できる場所があまりありません。弁護士への相談は少なくない費用がかかりますし、労働基準監督署は個人の事情では動きにくい。厚生労働省が悩みや法令について相談できる窓口を設けていますが、事業所に指導をするわけではありません。だったら退職代行サービスを提供する私たちが相談にのり、そこから確実に退職できると思っていただくことで依頼者の心理的な負担を減らすことができると考えました。結果、利用者も増加し退職代行のニーズの高まりは感じていますが、本来は退職希望者本人が自身で退職できる社会の方が良い、 というのは本当に思っています。ですので、私たちは自分で退職を確定させるコンサルティングサービス「セルフ退職ムリサポ!」も展開しており、そちらに徐々にシフトしていければと考えています。

退職できない様々な事情

利用動機を上から挙げると労務関係、ハラスメント、人間関係です。最も多い労務関係は動機の6割近くに上ります。労務関係では「有給休暇が使えない」「サービス残業がある」といった話、 ハラスメントでは本当にひどいセクハラやパワハラの話、人間関係では同僚・上司とのすれ違いの話などをよくお聞きします。違法な労務とハラスメントを排除できれば退職代行の利用者は8割近く減るでしょうが……。
モームリをはじめたときは「気が弱くて退職を言い出せない」 など依頼者側の事情を想定していましたが、続けていると環境の良くない会社がまだまだあることに驚きます。上司からパワハラを受けていて退職の相談ができない、退職の意思を伝えても拒否されるといった話をよく聞きます。結果、半数ぐらいの利用者はメンタルの問題に悩んでいるのですが、診断書を提出しても辞めさせてもらえない会社もあるようです。
長い間円満に会社勤めを続けていても、退職しようとしたときに引き止めにあう場合もあります。71歳の利用者の方は、65歳の定年まで働いた後、アルバイトとして引き続き後輩を指導することになったのですが、徐々に体がしんどいと思うようになり、それを理由に退職の意思を伝えたところ取りあってもらえず、その後も退職を引き延ばされていました。そこで「会社には恩もあるし引き継ぎはちゃんとやるけれど、退職は確定させてほしい」と依頼をいただきました。
ちなみに、引き継ぎに関しては弊社のスタンスとしてできる限りのことをやった方がいいと利用者のみなさまにお伝えしており、実際に9割の方が引き継ぎをされています。
次の会社が決まっているけれど辞めさせてもらえず、このままだと転職できないという方からも依頼をいただきます。そういった方の多くは「もう転職先が決まってる」と言いだせておらず、「転職=逃げ」と捉える日本の文化の影響を感じます。
4~5月に利用される新卒の方は「配属ガチャ」を理由として挙げることも多いです。「配属ガチャ」というと若者のワガママのような印象を持つ方もいるかと思います。ですが、例えば入社前に提出した配属希望がほぼ通ると言われたけれど、実際に入社してみるとまったく違う部署に配属されて不信感を持ったという話や、住まいの近くの事業所への配属を希望して入社したら、実際は2時間かかる別の事業所に配属になったという話もありました。
今は人手不足なので、企業側も躍起になってよくみせようとするところがあります。その結果入社後にギャップがあると余計に辞めたくなりますよね。

労働環境を改善するための退職代行

多くの国には退職代行のサービスがなく、海外から来られた取材の方は口を揃えて「なぜ自分で退職の意思を伝えないんですか」と言います。海外の労働者は退職だけでなく、サービス残業や有給休暇についても自分で交渉しますし、条件が見あわなければ別の会社にどんどん転職していくのが当たり前で、結果的に条件の悪い会社は淘汰されると言うのです。アメリカの生涯平均転職数が12~13社なのに対して、日本では2~3社。日本では転職は逃げと考える方もまだ多いと思いますが、海外ではキャリアアップとして前向きに捉えられます。なので日本のそういった転職の価値観も変わっていけば良いと思い ます。ただし、ただころころ仕事を変えればいいわけでなく、自分に合った会社で働くことが大事だと思います。日本でも労働環境や条件から職を選ぶことが一般的になれば、企業も「このままではまずい」と労務や待遇を良くしようとしますよね。これまでの状況を一度壊して、そこから良い状態を構築する。その第一歩としてまず退職代行サービスによって労働者と企業の力関係を対等にしていくことがモームリの役割だと思っています。

谷本慎二(たにもと・しんじ)

株式会社アルバトロス 代表取締役 退職代行モームリ 代表

岡山県高梁市生まれ。神戸学院大学を卒業後、東証一部上場の大手接客・サービス業に入社し、約10年間の勤務の後2021年に退職。2022年2月に株式会社アルバトロスを設立し、同年3月から事業として「退職代行モームリ」を開始。

谷本慎二(たにもと・しんじ)

株式会社アルバトロス 代表取締役 退職代行モームリ 代表

岡山県高梁市生まれ。神戸学院大学を卒業後、東証一部上場の大手接客・サービス業に入社し、約10年間の勤務の後2021年に退職。2022年2月に株式会社アルバトロスを設立し、同年3月から事業として「退職代行モームリ」を開始。

有識者オピニオン

みらい博2025 トップに戻る→