STAGE3

研究員の森

生活総研の研究員による調査データを元にしたコラム

こんにちは、研究員の十河です。今回のコラムは、現役の学校の先生や調査対象年齢のお子さんのいるお母様、教師をめざす学生の皆さんと行ったワークショップの内容をお届けします。

このワークショップでは、日頃から子どもたちと身近に接している皆さんに調査結果を見ていただいた上で、「どうしてこのような変化が起きたのか」「この結果は正しいと思うか」など、様々な議論を行いました。ここではその中でも特に興味深かったやりとりを、いくつかピックアップしてご紹介したいと思います。(ご協力:NPO法人・企業教育研究会)

 

Q.調査の中で、自分のことを「やさしい」「礼儀正しい」と答える子が増えていることについて、どう思いますか?

先生:先生に表だって反抗する子は少ないし、実際「いい子」は増えているように思います。
委員会や係の仕事をやりたがる子もとても多いです。昔だったらめんどくさがって誰もやりたがらなかったんですけどね。内申点につながるから、親にやりなさいと言われているのかな。

学生:家でも学校でも明確な「役割」がなく自己肯定感を感じにくいので、何か明確な「役割」をもらえることが嬉しいのでは。また、クラスで目立ちすぎると「何やってんの」と目をつけられてしまうので、明確な役割があったほうが動きやすいのかもしれません。

先生:他に、「モテ」の基準が変わったことも大きいのでは。
昔は尾崎豊みたいな、ちょっと斜に構えた不良がモテていました。でも今モテるのは、『逃げ恥』の星野源のような「やさしくて、清潔で、頭のいい子」。
今も昔も、小学校高学年~中学生の男子にとってモテるかどうかは死活問題です。モテる人間像が変われば、目指すべき人間像も変わるという部分もあるのではないでしょうか。

Q.親子が距離が近くなっている、という話がありますが…

先生:親子の距離、特にお母さんとの距離はとても近くなっていると思います。昔の中学生男子は、三者面談をしても一言も口を利かなかったものですが、今は本当によくしゃべりますし、お母さんと一緒に買い物に行くのもふつうです。
その影響か、反抗期がこない中学生が増えています。しかもそれを喜んでいるお母さんもいて、いつ自立できるのか心配になることも…。子の親離れ以上に、親が子離れできないケースが多いような気がします。
自分の部屋よりリビングで過ごす子が増えているというのも、親子が仲良くなってるからじゃないでしょうか。

お母さん:確かに距離は近くなっていると思いますが、別の見方もできると思います。たとえば、リビングで一緒にいたとしても、子どもはだいたいスマホで友達とLINEをしています。家族で一緒にはいるけれど、それぞれ別のことをしている感じ。今の子は、親に知られたくないことは、自分の部屋よりもスマホに入っているのではないでしょうか。

Q.今年度、「お母さんは尊敬する人」という回答が過去最高の7割弱となりました。なぜ、お母さんの存在感が増しているのでしょうか?

先生:お父さんはすっかり優しくなりました。いわゆる「頑固おやじ」はもはやおらず、ソフトな人が増えたように思います。

お母さん:そうですね。それに対してお母さんは、引き続き家事やお財布の管理をしているうえに、学歴が上がって働く人が増えました。そのため、子どもには「お父さんは休みの日は家でゴロゴロしているのに、お母さんは毎日家でも働いている」というように見え、お母さんの存在感が増したのではないでしょうか。とはいえ、お父さんを「尊敬する」と回答した人も約6割とこれまでとほぼ変わっていないので、お父さんの存在感がなくなったというわけではないと思います。

Q.調査の中で、「自由が欲しい」と答える子が増えていますが、どう捉えればいいでしょうか?

先生:昔の「自由」というと反社会的なことだったけれど、今の子はそういうことはしない。
自由の定義が変わってきているんだと思います。

お母さん:今の子たちって、スポーツも勉強も何でもできる子が増えましたよね。以前はスポーツができる子、勉強ができる子、って分かれていた気がするんですが…。つまり、いい子で、かつ失敗しないのが、今の子たちの当たり前。当たり前の基準が昔より上がっているので、その中でがんばるのは大変だということではないでしょうか。

学生:多分、社会の「こうしていれば安全」というレールが崩壊するなかで、できるだけ確実なものをと成績や学歴などにこだわっているんだと思います。でも、ふと自分は本当にそれが欲しいんだっけ?と疑問に思う瞬間があるのではないでしょうか。その漠然とした疑問が、子どもたちに「自由が欲しい」と言わせているように感じます。

 

いかがでしたでしょうか。「モテ」の話など、まさに日頃から子どもと接していなければわからない話も多く、新しい視点をいただいたように思います。
また、07年の前回調査時に調査対象年齢だった私は「私たちの頃と変わらないことも多いんだなあ」と共感する部分が多かったのですが、様々な世代の方が参加されていたこともあり、それぞれまったく違う反応を見せていたのも興味深かったです。

子ども20年変化特設サイトでは、97年・07年と時系列比較ができる調査データを公開しているほか、変化の大きいデータや特徴的なデータを「子どもデータ教室」にまとめています。気になった方は、ぜひそちらもご覧になってみてください。

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