STAGE3

研究員の森

生活総研の研究員による調査データを元にしたコラム

戦後、最も荒れていたのはこの世代

今回の「子ども調査」で、私たちは1997年から2017年まで、20年間の子どもたちの変化を探ってきました。これほど多岐にわたる生活の意識や行動について、長期的な変化を分析できる調査データは他にないのではないかと自負していますが、世の中には他にも子どもにまつわる様々な長期時系列データが存在します。
例えば、警察庁は非行などの観点から子どもたちに関連する統計を取り続けており、その中からは示唆に富むデータを見つけることができます。例えば、こちらは警察のお世話になった非行少年が該当年齢1,000人あたりで毎年何人いたのか、68年間にわたって記録したデータです。

(出典:警察庁 「少年の補導および保護の概況」)

刑法犯少年とは14~19歳で検挙された子どもたちのこと、そして触法少年は10~13歳で年齢的に検挙されないものの、法には触れている子どもたちのことです。ご覧頂くと分かる通り、警察のお世話になる非行少年が戦後最も多かったのは1983年頃でした。ちなみに、校内暴力事件の発生件数もこの年にピークを迎えています。この頃10代だったのは、ちょうど今の40代後半から50代前半の方々です。もちろんこれは警察庁の統計なので、各年の少年非行の取り締まり強化度といった要因の影響は受けるものの、それを度外視すれば、この年代の方々は「戦後最も荒れていた10代」と言えそうです。
これはあながちその時代の感覚とも違っていないのではないでしょうか。1983年は尾崎豊さんが『15の夜』でデビューした年でもあります。彼は戦後最も10代がワルかったこの年に、盗んだバイクで走り出したのです。
その後の推移に目を向けてみると、「子ども調査」が開始された1997年あたりからもう一度、非行少年が増加した山が見られます。この頃にはテレビドラマの影響でバタフライナイフが中高生に大流行し、社会問題として大きく取り上げられました。(ただし、実際にこの頃増加した犯罪は傷害ではなく万引きなどです。)そして、その後、非行少年は一貫して減少し、現在は毎年、戦後最低を更新し続けている状況です。

非行少年はなぜ消えた?

一体、非行少年はどこに行ってしまったのでしょう?

そもそも、なぜ80年代前半や00年前後の子どもたちはこんなにもワルかったのでしょうか。それを読み解く視点の一つとして、子どもと大人の関係性の変化があげられます。
以前の大人は、子どもにとって自分たちが反抗すべき相手、敵でした。
例えば尾崎豊の大ヒット曲、『卒業』では、自分たちを支配しようとする大人への不信感や、彼らに対する反抗心が明確に歌われています。自分たちを力づくで押さえつけようとする親や先生に対して、年頃を迎えた子どもが抵抗するという図式が、以前は典型的だったわけです。

では、今の子どもたちにとって、大人はどのような存在なのでしょうか。
「子ども調査」のデータを見てみると、まず、今の大人はめちゃくちゃソフトです。20年前はまだ子どもの2割、1クラス35人の中で6~7人は先生になぐられたことがあったのですが、今ではほぼゼロです。両親にぶたれたことがある子も、今回の調査で初めて半数を下回りました。

(出典:博報堂生活総研「子ども調査」)

そして子どもも大人のことをめちゃくちゃ信じています。「自分の話を、お父さんやお母さんはよく聞いてくれる」という子は8割を超えました。一方で、「学校の先生にさからったり、口ごたえしたことがある」という子は4分の1未満となりました。

(出典:博報堂生活総研「子ども調査」)

大人はもう頭ごなしに支配してくる存在などではなく、だからこそ子どもも大人に逆らい続ける必要はなくなりました。もちろん、子どもが非行に走る要因は一つではありませんが、非行少年が世の中から姿を消した背景には、「敵としての大人の消滅」があったと考えられます。
ただし、問題が全てなくなった、というわけでもありません。ソフトになった親子の関係は、より濃密になりつつあり、「親の誕生日に何かプレゼントをしている」、「お母さんと一緒によく買い物に行く方だ」という項目も過去最高になりました。その反面、警察庁の統計では、子どもの家庭内暴力の発生件数が近年、小中高の全年齢で増加傾向にあることも示唆されているのです。全体的に見れば子どもの生活は平和になりつつありますが、外からは見えにくい家庭の中で問題が抱えられている場合もあるのだ、ということは心に留めておく必要がありそうです。

(出典:博報堂生活総研「子ども調査」)

(出典:警察庁 「少年の補導および保護の概況」)

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